第24話 やっべぇ…ヘマったぁ

 やっべぇ…ヘマったぁ…七瀬さん…戦ってる。てか…俺がターゲットとか言ってたっけ?なんかしたかな?俺。


 ああ、体が痺れる。自由に動けない。てか、感覚がない。これは…マジで死んだっぽいな。


 あんとき見たいな奇跡ももう起きんだろ…。


 思えば下らん人生だったのかもしれない。縛られて…縛られて…最悪だね。

 わがままを通したら死ぬんだもの。


 あの日、母さんが死んだ日。正直俺は笑ってた。

 どうして、あんな死にかたをしたのか。それも解らないが、ようやく解放されたと思った。だから勝手に…うっすらと笑うことができたのだろう。


 自分の親が自殺して笑えるなんて、自分はどうかしてる。それが1番怖かった。またこういうことが起きても、俺はなにも感じない薄情な奴なんじゃないかって、自分が嫌いになった。


 その日、俺の頭の中に住み着いたのがスキルだ。


『課題―――父親を殺せ』


 奴は今後の人生で最大の課題を掲げた。父親を殺せ。そうだ。冷静に考えれば俺の父親が母さんを捨てなければこんなことにはなっていない。

 俺がこうやって深い絶望に落ちることもない。


 すべて、あいつのせいなのだと決めつけることができた。


 まあ、正直今となってはどうでもいいのだ。自分が生きるので必死だったから復讐なんて考える暇がなかった。


 だけどそれでも結局、この様だ。父親の片鱗すら掴めず…俺は…死んで行く。


 ああ、くそが…走馬灯って奴か?嫌だ俺はまだ…まだ…。


 せめて奴の顔を拝んでやりたかったが…それも叶わないか。悔しい…ただ悔しい。


 ああ、耳は辛うじて聞こえるな。戦闘音が…止んだ?


「アスカ…アマネ…。」


 誰の声だったっけ?忘れてしまった。動けよ…俺の体。動いてくれよ。俺はまだこんなところでくたばれないんだ…。


――――――――――


「はぁはぁはぁ…一足遅かったか…?」


 僕はそのダンジョンに来ていた。アスカの配信が途切れた当たりずいぶんとまずいことになっているらしいが…まさかここまでとは。


「ダンジョンが破壊されている…急がなきゃ…。」


 自分でもどうしてこんなことができるのか解らない。正直、あの化物同士の戦いに首を突っ込むなんて自殺行為でしかない。だけど、それでも僕は…あの2人に伝えたいことがあるんだ―――――。


『―――――偽善者め。』


 自分の中に響いた言葉に足が止まる。いつも…いつもそうだ。心の中の僕は後ろ向きな言葉ばかり…。


『おまえがこんなこと、する意味なんて無いんだ。死にたくないだろう?』


 それでも…それでも僕は…。


『いつもみたいに突き通すのか?その正義とやらを。』


「…行くぞ。」


 奮い立たせる。いいんだ、あんなまやかしの言葉に耳を傾けなくたって。僕は僕だ。


 ダンジョン内に入ると、先程から聞こえていた戦闘の音がより激しくなる。地響きも凄い…。


「急がないと。」


 配信が途切れた当たりから推測して2階層にいるのだろう。


 ただ無我夢中では走った。ボス部屋まで到着すると、そこには大穴が空いていた。


「マジかよ…。」


 階段は破壊され…こちらを使うしかない。


「死ぬなよ…僕の体。」


 そうして僕はその大穴に飛び込んだ。


 いや、死ぬかと思った。だが…案外生きている。


「アスカ…アマネ…。」


「な、なんでシュンがここに…?」


「チッ…邪魔してんじゃねぇよ!」


「こんなの…間違ってる。アマネ…戦いを止めてくれ!!」


「お前までそんな戯れ言を…私は強くなったんだ。そこにいるただ頑丈なだけの破壊しか取り柄の無い奴とは違うんだ…!!」


「アマネ…いったい何があったんだ…またレオンに―――――。」


「うるさい!!あんなところもう私の居場所じゃない!!白一さんは私に居場所と力をくれた!!あんな能無しの集った場所に帰れるか!!」


「白一…努…。」


「もういい…ここ事消し飛ばしてやる…私にもあんたみたいな破壊ができるようになったんだよ…これでもう私の下位互換だ!!」


 逆鱗に触れたようだ…力を溜めている…これは…どうしようもないかもしれない。


「アスカ…逃げるぞ!」


「待って!!一樹くんが!!」


 振り返ると、酷い傷の青年…彼は…どうあがいても…。


「もう彼は…助からないぞ…それに彼を担いでいる時間なんて―――――。」


「もういい…ここで全員殺してやる…ジェノサイド…。」


 魔力を集約した拳…威力はおそらくアスカのそれと同等…終わった…。


「潰れろォ!!!」


 そう言って…彼女はそれを放った。放ったはずだった。


「…?」


「…え?」


「な…なんで…?」


「…さっき…誰か…白一 努って言ったか…?妙に聞いたことがあるような気がして…誰か聞かせてくれないか?」


 う、嘘だ…なぜ彼は…あれだけの傷で…立っているんだ…?

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る