第21話 あれ?ちょっと引かれてる?

 戦うことを推奨されるってことは…もう逃げれないってことなんだろうな。


 さて、見た目はただの岩人形。後は動きを封じるだけ。


『課題―――避けろ』


「…来る。」


「おっけい!任せるよ!」


「―――――!?」


 一瞬。本の一瞬だ。その間に奴は俺との距離を詰めた。間一髪、その拳を回避する。コイツは…ヘイト管理が随分と大変だな。


 ともかく、俺は奴の一撃で死ぬと言うことが解った。なら必死に避けるしかないか。


 避けた体勢から身をよじり、奴の方向に走り出す。よし、視界は完全にこっちを向いている。


「切れるかな?」


 物は試しだ。奴の攻撃を避けて、避けて、ひたすらに避けて懐を目指す。

 にしても早い。この図体でどういう力したらこんなに早く動けるんだよ?それか、案外軽いとか?まあ当たりゃ死ぬなら変わらんか。


「まずはどんだけ硬いか…。」


 真っ正面に立ち、飛び上がる。そして顔部分にナイフを突き立ててみるが…まあ傷1つついてはくれない。


 こりゃいたずらに刃を消耗するだけだな。


 しかしだな…。


 まあ、なんと言うか…。


「こいつ…速くね?」


 圧倒的に拘束が難しい。おかげで七瀬さんのエイムが合わない。以前みたいな捨て身、配信じゃ出来ないし、そもそももうしないでって止められてるからな…。


 俺が1ヵ所にとどまり続けるのもアリだけど…それだと七瀬さんがあれを放てない。


 か、1つ手はある。最も、これを飲んでくれるかはわからない。ダメもとだね。


「アスカさん!!こいつじゃなくて俺の方狙ってもらっていいですか!?」


「え!?」


「俺ならよけれます!ちょっとそれしかこいつの拘束方法思い付かなくて!」


「そ、それ下手したら大惨事だよ!?」


「いや、よけれます!それに、多分こいつから逃げる方が不可能です!!」


「そ、そうは言われても。」


 七瀬さんのあの攻撃。正直避けられない速さではない。多分どうにかなる。


 どうにかなら無くてもどうにかする。


「わかった…君のこと信じるよ!!」


 解ってくれたならそれでいい。タメはすでに万全。ならばあとやることは1つ。


「行くよ!!カズキくん!!」


「はい!!」


 その波動は放たれる。


『課題―――飛べ』


 なるほど、確かに上だわ。


 そして、着弾寸前。俺はゴーレムを踏み台に上へと駆け上がる。そして、高く飛び上がった直後、爆風に襲われた。


 いやぁ、いつ見てもすげぇ威力だな。これ食らって生きてる人間なんて居ないでしょ。


 ゴーレムも真っ二つ。流石としか言いようがない。


「流石です、アスカさん。」


「いやあ…君も大概だね。」


 あれ?ちょっと引かれてる?


「なんであんだけやって君息1つ切れてないかな!?バケモンだよね!?」


「ああ、動き続けたほうが息切れにくいんですよ。だからですかね。」


「うわぁ…なんか知らない領域の話してる…。」


「まあ、お疲れ様です。」


「…うん、お疲れ!さてと…それじゃあ次の階層に―――――って、ちょっと待っててね。」


 そこで、一旦七瀬さんは配信をミュートにする。どうしたのだろうか?


「社長からだ―――――。」


――――――――――


「呑気に配信ねぇ…。」


 スマホの画面にはあいつの配信が映っている。本当にむかつく。なぜ結局のところあいつのほうが人気なのか?なぜ私は日の目を浴びないのか?


「下らない。」


 でも、それも終わりだ。直々に命令が下った。もっとも気に食わんのはターゲットはアスカでないこと。蒼井 一樹…最近入った新米だろう?端から眼中に無い。


 とっとと殺して…その後はアスカ…おまえだ。いやあ…復帰配信助かるよ。何せ、あんたが今どこにいるのかこっちからなら解るんだからな。


「二宮、車ならこっちだが。」


「走っていったほうが速い。」


 今疼いてるんだ…ようやくあの憎い顔を潰せるって。私には今、それだけの力がある。

 装備は大楯のみ。だけどそれでいい。

 力任せに大地を蹴る。県境のダンジョン…あっちの方角か…。


 そうして私はビルを踏み台にその場所へと向かうのだった。


――――――――――


 配信してるのか…アスカ…でもなぜだろうこのタイミングしかない気がする。僕が今行かないと…次なんて無い気がする。

 僕のスキル…危機回避。なんとなくだが、危険が来ると言うことだけは解る。

 割りとこれを持つものは多く存在するが…僕のはひと味違う。範囲があまりにも広いのだ。だからきっとこれも…。


「アスカ…無事でいてくれ。」

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