第17話 狂犬のような目でしたから

―――――クラン、サン シュヴァリエ


 ダンジョンの形成からはや10年。当初、あれは大災害であった…にもかかわらず人々は熱狂した。あの惨状、まさに狂っているとしか表現はできない。私はこのクランのリーダーとして人々を守ると決意した。


「―――――それで、蒼井くんに関して何か解ったのかね?」


「は、はい…実は彼、精神汚染を受けていないわけではないようなのです。」


「何?それはどう言うことだ?」


「はい、詳しく調べて解ったのですが彼の血液からダンジョンの核と同じような周波の魔力を感知しました。これはダンジョンの核に汚染された人間と似た症状です。」


「なら何故…?」


「強いんです…彼の周波。他の人に比べてもより強く波打っている…それに何より血液中の魔力濃度が濃い。普通の人間であればこんなの耐えられません。」


「なら…彼は一体…。」


「解りません。」


 蒼井 一樹…ダンジョン…。


「少し、気になることが出来た。ついでで調べてもらえるかね?」


「は、はい。なんでしょう?」


「あのダンジョンが出来た当時の資料がほしい。」


 嫌な予感がする。私は…人々を守る等と言っておきながら、毒虫の入った壺をひっくり返してしまったのかもしれない。


「…奴が俺の言葉に聞く耳を持つとは到底思えんが…。」


 白一 努…いや、センチピード。お前たちが何を企んでいるのか…暴いてやる。


 10年前。あの当時、勿論だがこの世界にダンジョンに対する知識など無かったはずだ。お前たちセンチピードは解っているかのような迅速な対応を取った。そして作り上げた…クランと言う組織体系を。

 長らく誰もこれを指摘していなかったが…それも今、説明がついた。ダンジョンの核が一番エネルギーを発するのは…ダンジョンが形成される瞬間だもんな…精神汚染をばらまいてくれるわけだ…。


「白一…努…。」


 あの日のことは忘れんぞ。


―――――クラン、センチピード


「―――――それで、君が二宮くんだね。」


 目の前の男…その姿はあまりにも弱々しかった。本当に1クランの、それもトップレベルのクランの長なのかと言うほどに…。


「まあ、見ての通り私はこんなだが、きちんとこのクランの創設者だよ。それで…君には何ができる?」


「わ、私は―――――。」


「その盾で、君のプライドは守りきれたかね?」


「な、何を…。」


「なんとなくね、解るのだよ。常に前に立つのは自分。だと言うのに、称賛されるのは後ろの連中。孤独だったろう。」


 こいつ…私の情報を…?どこから…!?


「そう身構えなくとも良いさ。言っただろ?なんとなく解ると。」


 まるで心を読まれているようだ…。


「さて、少し試してみたがやはり君は強い子だ。一切、私に対する警戒を怠らない。流石はレオン、トップクラスの実力の持ち主だね。恐れ入ったよ。」


「す、少し試してみた…とは?」


「いやね、私もそれなりに人は信じているがそこまで強い人間がそうそういるのか?と疑問でね。何せ身内に居るもんだから。」


 身内…このクラン最強、白一 二葉ふたば…。


「まあ、君を見ていると解るよ。君は強い。百出くん、少し席をはずせるかな?」


「はい。」


「着いてきたまえ。」


 そう言うと白一さんは立ち上がる。まだ警戒を解くわけには行かないが…敵意はなさそうだ。

 それについて行くことを決意する。


「移動しながらでいい、正直に答えてくれ。君は殺したい人はいるかい?」


「…居る。」


「だろうね。そう言う奴の目をしている。実はね私も居たのだよ。1人、どうしようもない出来損ないがね。」


 先程とは違う…何かおぞましいものの深淵に触れた気がした。この男…何かヤバイ…。


「まあその後は想像に任せるとしよう。さて、ここだ。」


 そう言うと、彼は扉付近の端末を操作し、鍵を開けた。


「君は強い。だけどね、私が思うにもっと、もっと強くなれると思うんだ。だからね…。」


 扉が開く…絶句する…その先にあったのは…。


「これは…?」


「君のスキル。それを強化するための装置さ。」


「私のスキル…。」


「君のスキル、城壁。即死の攻撃でないとダメージを受け付けない…だったかな?」


 スキルまで把握されている…?


「でも、それだけだ。いくら頑丈とは言え、死ぬときは死ぬ。だからね…?」


 彼は私の耳元でささやいた。


だろう?」


 ゾクリと…悪寒が走る。久しぶりの…恐怖。私は…私は…。


「私は…死にたく…ない…。」


――――――――――


「おや、百出くん。はずしてくれと言ったじゃないか?」


「まあ、少し心配でして。彼女、狂犬のような目でしたから。」


「何、自分から素直に入ってくれたよ。」


「ならよかったです。」


「ああ、来る日の時のための兵士がまた1人増えてくれたよ。」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る