第14話 婆ちゃんは言っていた
そうして俺達は七瀬さんの後を追い、恐らくここに居るであろうダンジョンに来ていた。
「本当にここにいるのかい?」
「少なくとも、俺のスキルが間違ったことはないてす。」
「そうかい…入ろう。」
まさか、自分の抜け出したダンジョンにもう一度戻ってくるとは思わなかった。
「時に君、戦闘スタイルは?」
「格下相手ならナイフで。格上なら逃げます。」
「…なるほど。私はバフ要員くらいに考えててくれ。」
「それだけでありがたいです。」
今までソロだった。ソロで最終階層を生き抜いたんだ。2人なら…なんとかなる。
「君、高揚感は?」
「そこまで無いです。今、やるべきことが目の前にあるんで。」
「冷静だね。私はすでに少し…胸踊っているよ。」
「…解りました。危なくなったら指示は俺が出します。」
「よろしく頼む。」
そうして2人、ダンジョンに入った。そして、入ってすぐに違和感に気がつく。
「こんな跡…前回無かったです。」
「私の知る限り、ここまでの破壊力を持つ存在はただ1人だよ。」
うつむきながら、彼女はそう言った。
「行こう。」
どうやら、本当にここにいると見て間違いなさそうだ。
「しかし、会ったとしてどうやって話し合いに持ち込むんです?俺にはあの状態の七瀬さんとまともに会話が出来るとは思えませんが。」
「さっきも言っただろ?やるしかないんだ。」
なるほど、つまりノープランと。大丈夫な気が全くしない。
「最悪、戦闘になったら君に託すよ。相性的にはこちらが有利だ。」
たしかに、俺の速さであればあれを放つ隙を与えないことは出来るだろう。だけど…その後は?どうやって七瀬さんを助ける?
「ともかく今は先を急ごう。」
「…はい。」
そうしてダンジョンを進んでいく。しかしまあ…こいつはえげつない。
「解りやすいね。」
「ええ…ダンジョンの壁が傷だらけだ。」
「…飛鳥ちゃん。」
その傷をたどり進んでいく。どうやら、ボスの部屋に一直線に進んでいるらしい。と言うことは…恐らく下を目指している。まだ間に合う。
「急ぎましょう。」
そうして、俺達はその場所にたどり着く。
「飛鳥…ちゃん。」
ダンジョン、第1階層ボス部屋。底に虚ろな目をした彼女が立っていた。首筋にその剣を這わせ、恐怖と絶望にまみれた表情で1つ涙をこぼす。
「七瀬さん!!」
俺はもう、誰も失いたくない。
婆ちゃんは言っていた。男が暴力を振っていいのは大切な何かを守る時と過ちを止める時だけだと。
うっすらとした微笑みが、あの日の母さんに重なった。
『課題―――走れ』
当たり前だろうが。その首筋に剣が触れるよりも早く間合いに入った。
剣を持つ手を掴み、掲げる。
「っ!?」
「馬鹿なんですか!?」
「放して…。」
「話を聞いてください!」
「放してよ。」
「七瀬さん!」
「放してって!!」
叫ぶ彼女に、平手を入れた。乾いた音が響いた。
やってることは最低だな。俺。
「七瀬さん。俺はあなたに救われたんです。そんな人が目の前で死ぬなんて嫌なんです!さっきは急に逃げ出したりしてすみません…もう、覚悟を決めます。」
「え…?」
「それでも本当に死にたいって言うんであれば―――――。」
恥も外聞もなく、彼女に抱きつく。
「か、一樹くん!?」
「俺ごと刺し殺してください。その剣で俺ごと貫いてみてください。」
正直、こんなの賭けだ。これでよかったのかどうか、あいつはこういうときに限ってそれを提示してくれない。
「…一樹…くん…私…。」
「いいんです…しょうがないんです。」
声色から少し緊張が解れたようにも思える。
「ごめん…何も…考えれなくなって。」
「不安になると、どうしても人間ってそうなるもんですよ。大丈夫です。俺はここにいますから。」
からん、と剣を落とす七瀬さん。これで本当にひと安心だろう。どうにか収集は付いたかな。
「あの~お二方?一応私もいるんだけどさ?」
と、そこでようやく我に返る。自分のしたことを振り返り、七瀬さんから離れようとするが…え?なんでこの人抱き付いてきてんの?いや、たしかに初めにやったのは俺だよ?
「もうちょっとこのままでいい?安心する。」
「だ、そうで…。」
「…やっぱり彼氏じゃないか。」
さて、あれから数日が経った。七瀬さんはサン シュヴァリエにて検査して正常なバイタルに戻ったそうだ。そこでなおのこと白羽の矢が立ったのが…俺である。
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