第13話 ご令嬢とは知りませんでしたッ!!

 ―――――と、そう言うわけで現在…三浦さんと一緒にいるのだが…。


「そんなに緊張しなくていいのに。」


 まさかご令嬢とは知りませんでしたッ!!無礼をお許しくださいッ!!


「は、はい。」


 いやあ、ボディーガードってほんとに黒服なんですね。現在停車した車内にて作戦会議中である。


「それで、飛鳥ちゃんはどうなってたの?」


「は、はい。やけに俺に詰め寄ってきて、君はどこにも行かないよね?って。」


「色男め…って冗談吐いてる場合じゃないね。らしくない。」


 やはり、三浦さんからしてもそうだったらしい。


「やっぱりそうですか…俺のなかで1つ、仮説があるんですが…。」


「たぶん、私も同じことを考えてる。ダンジョンの高揚感とそこから解放された後のギャップ。それにより精神が不安定になるのではないか。だろ?」


「はい…明確に豹変するのはそれが理由かと。」


「私も同じくそう思ってる。だいたい、飛鳥ちゃんはそう言うのを表だって出さないからね。」


「…治す方法は無いんですかね。」


「さぁね。前例があれば治す方法も解ったろうけど…。」


「前例…。」


 俺…そんなことあったっけ?


 無いわ。全然無い。


「ともかく、対抗できるとしたら君だろう。」


「俺ですか?」


「ああ。君は長期間ダンジョンにいたのに、その精神汚染の影響を受けていない。それだけでキーになると思うんだよ。」


「そうは言われましても。」


「まあ、解る。私にだって難しい問題だ。話し合ってどうこう出来る状態でないなら…お手上げだよ。」


 彼女はそう言いきった。


「これから…どうしたら。」


「思うに…今の飛鳥ちゃんの確保が優先だね。」


「そんなこと出来るんですか?」


 あれでも、あの人は最高クラスの探索者だ。俺達でどうにかなるのだろうか?


「やるしかないんだ。なに、殺されたりはしないだろうさ。」


「わりと賭けじゃないですか?」


「仕方ないだろ。すまない、飛鳥ちゃんの家まで頼めるか?」


「はい、かしこまりました。」


 そうして俺達は七瀬さんの家まで戻ることとなったのだ。これからどうなる?と、言うかどうするのが正解なんだ?なあ、教えてくれよ。あんたはいつも正解をくれただろ?


『課題―――ダンジョンに向かえ』


「ダン…ジョン…?」


「どうした?蒼井くん?」 


「もしかしたら…七瀬さんはあのダンジョンに…。」


「家にはいないと言うことか?」


「おそらく…すみません、案内するのでそこまでお願いできますか?」


「え、ええ。大丈夫です。」


 大丈夫。まだどうにか出来る余地がある。


――――――――――


「一樹くん…。」


 結局、一樹くんまではなれていった。夜道を1人で歩いてみる。


 皆、皆そうだ。私のことなんてどうでもいいんだろう。思えば…そうだ。


 何年前の話だろうか。ダンジョン配信黎明期。まだ、そこまでの周知がなかった頃。そのコメントとであってしまった。


結局社会に溶け込めない陰キャでしょ?ずっとダンジョンに引きこもっとけよ


 いつもなら気にしない程度のアンチコメ。でもそのときばかりはなぜか、ほころびを感じた。


 あれ以来、配信をするときは必ずあの言葉がついて回るようになった。


「―――――ここは…。」


 一樹くんと始めてあったダンジョン…気がつけばその足はダンジョンの中へと動いていた。


 ダンジョンの中。暗くて、ちょっと気が晴れる。それと同時に、悔しさと怒りが込み上げる。


 ふと剣を手に取る。この剣も…よく考えれば嫌いだ。私のスキルの象徴。


『あんたの外れスキルにどんだけ悩まされればいいの?』


 ならあんたは…私みたいなことができるの?


『あんたを守るこっちの身にもなってよ?』


 知らないよ…私はこれしかできないんだから。


『ほんと、あんたがSクラスとか意味解んない。』


 うるさい…うるさい!


「うるさい―――!!!」


 力任せに剣を振るった。敵なんてどこにもいないのに。振るう意味なんて無いのに。

 ボロボロになったダンジョンの壁。


「あぁ…あぁああ…。」


 むなしさと、涙が込み上げてくる。


 何してるんだろう?こんなの私らしくない。もう誰もいない世の中じゃ…。


「死んだ方が…。」


 剣なら手元にある。だけど…無理だ。。死ぬのは怖い。こんなんだから弱いんだ。


 私はただその場に泣き崩れるしかなかった。


 これからどうしたらいいのだろう。一樹くんはどこに行ったのだろう?


「ダンジョン…。」


 行く宛もなく、私は暗闇に向かい歩き出した。

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