第12話 ヘラって無い?

 三浦さんから話があると言われた翌日。俺と七瀬さんは洒落たカフェに呼び出されていた。


「すまない、待たせたかな?」


「いえいえ、俺達もさっき着いたところです。」


 そうして三浦さんは席に着くと、おもむろにコーヒーを注文した。


「さて…早速本題なんだけどね、これから話すことは機密事項だ。くれぐれも頼むよ?」


 ふと、三浦さんの顔が真剣になる。


「まず飛鳥ちゃん。君はまだダンジョン配信を続けるつもりだね?」


「うん。それがどうかしたの?」


「実は、ダンジョンは入った人間の精神を高揚させると言うことが解った。長期的な作用については未だに研究中だが…悪影響も懸念されている。」


「え…?」


「だから今後探索者と言う職業がどうなるか解らない、と言うことを伝えておきたくてね。無論だが、私は潜り続けるつもりだ。」


「精神の高揚?そんなことになるんですか…?」


「そう、それなんだよ君。例外が私の知るなかで1人いる。蒼井 一樹くん。君さ。」


「…?」


「君は長いことダンジョンに閉じ込められていた。それでも尚、生き残り、尚且つ正気を保っている。そこで考えたんだ。君にはダンジョン核の持つ精神汚染を無効化するなにかがあるんじゃないかと。」


「は、はあ…。」


「それでだね。無理を承知で君に聞きたい。私たのクラン、サン シュヴァリエに入ってはもらえないか?」


「え?」


「…一樹くんをどうする気なの?」


「それは…飛鳥ちゃんの察している通りさ。無理にとは言わない。言えない…急にこんなこと言ってすまないとも思っている…。」


「流石に虫がよすぎるよ。梨央ちゃん。」


「…ごめん。」


 な、なに?俺もしかして実験的なことに使われるとかそう言う風な話の流れだったりする?いや、まあ、たしかに嫌だけど…。


「一樹くん…自分が犠牲になればいいとか思わないでね?」


『課題―――病ませるな』


 そうですね。そうでした。この人が下手をすればこの町が終わりかねん。


「そんなこと、思ってないですよ。今回の話は…すみません。」


「いや、いいんだ。それでいい。君たちには君たちの暮らしがある。私も…ちょっと上から言われただけだから。」


 若干…修羅場じみた雰囲気。七瀬さんが異常に俺に対して敏感だと思うのだが…いやいや、気のせいか。流石に考えすぎと言うことにして、その場は解散となった。去り際、俺は念のためと三浦と連絡先を交換することとなった…。


 さて、その日の夜の出来事である。食卓にてうつむき加減の七瀬さんが口を開いた。


「一樹くん…。」


「何ですか?」


「一樹くんは私と一緒に探索者続けてくれるよね?」


 なんかめちゃくちゃ重くなってるんですけど?え?ヘラって無い?メンヘラ属性付いちゃってない?


「ど、どうしたんですか、急に。」


「他のところになんて…行かないよね?」


 立ち上がり、俺に近づく七瀬さんのその目にゾクリとした。


 七瀬さんのようで七瀬さん出ない。


『課題―――病ませるな』


 病ませるな…これは単純に七瀬さんがめちゃくちゃなメンヘラ…と言うわけではないと言うことか?


 命の危険…最善策が病ませるな…。


「行きませんよ…。」


 気分の高揚感…まさかだが、いやいや、そんな…。


「誓ってくれる?」


 バクバクと心臓が高鳴る。やっぱり…この人は…七瀬さんじゃない。


『課題―――逃げろ』


 問い詰められ…導き出されたのはそれ。今回ばかりはあんたに同意だよ。


 目の前の七瀬さんを躱し。そのまま玄関まで走る。足ならこっちの方が速いと言うのは知っている。


 だが、この後どうする?俺は行き先なんて無い。


「あ、そうだ…!」


 手早く三浦さんの連絡先に電話をかける。


『あー君かい。どうしたんだ?』


「助けてください!!七瀬さんが…!!」


『飛鳥ちゃん?何かあったのかい?』


「様子がおかしくて…。」


『あれかい?もしかして地雷踏んじゃった?』


「そんなレベルじゃないですよ!!あれ!」


『ほう…君がそこまで言うか…ならこれは一大事だ。』


「なんで妙に落ち着いてるんですか!?と、ともかく今追われてて!」


『なるほど、行き場がないと。』


「そう言うことです!!」


『うーん…解った昼間のカフェで落ち合おう。』


「ありがとうございます!」


 そうして、俺はその場所に向かうのだった。

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