第8話 え、俺なんかやっちゃいました?
「一樹くん…!一樹くん!!」
駄目だ…解ってる。もう一樹くんは助からないって。この傷は私じゃ治療できない。
返事も無い…。
「嫌だよ…一緒に出ようって…配信しようって…。」
やっぱり私は何もできない…悔しい。結局1人じゃ…仲間の1人も救えない。
辛うじて呼吸をしている彼の姿を見下ろす。やがて、視界が滲む…。
「私なんて―――――。」
「―――――とうちゃー…く…?」
聞きなれた声が聞こえた。だが、安心できるものではない。顔をあげる。そこに立っていたのはかつてのパーティメンバー。現Sクラスパーティ、デルタの面々であった。
「アスカ!!」
「よかった…!」
思考が追い付かない…いや、それよりも先にすべきことがある。
「な…ナナ!!この人の治療を!まだ生きてる!!」
「は、はい!!」
ナナであればこの傷を治すことができるかもしれない。まだ私は、素直に再会を喜べない…。
「ひ、酷い傷…。」
「ここのボスに…治療できる?」
「大丈夫です。」
そう言って、ナナはあの頃と変わらない笑顔で笑って見せてくれた。
患部に手をかざし、魔力が広がっていく。徐々に傷跡も、ただれた肌も治っていく。よかったと…心の底から思えた。
「しばらく眠っていると思います。」
「ありがとう!ナナ!!」
思わず抱きつく。
「ちょ、アスカさん…。」
照れながらナナは微笑んだ。
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――――――――――
―――――
『課題―――――』
死んでも付きまとうか、おまえは。呪いの類いかでなきゃメンヘラなストーカーだろ。
「ああ…うるせぇ…。」
やけに自分の声がクリアに聞こえた。てか俺死んだんだよな…?
「一樹くん…?」
七瀬さんの声だ。これもはっきりと解る。
「…え?俺、生きてる?」
覚醒は不意に訪れた。何故だ………?
「一樹くん…。」
涙をこぼす七瀬さん。そして見慣れないお三方。いや…何があったんだ?
「―――――つまり…俺はきちんと生きてるってことでいいんですね…?」
「はい。意識もしっかりしてるみたいですし、本当によかったです。」
「一樹くん、これまでアスカのことを守ってくれてありがとう。」
「い、いえ…当然のことです。こちらこそ助けていただきありがとうございます…いったいどうお礼をしていいことか…。」
どうにも、俺は本当に危ない状況だったらしい。しかしまあ、少しスッキリしている。あの腹立たしい課題とやらを覆したのだから。
「一樹くん…本当にもう二度とあんな無茶しないでよ!」
「あはは…すみません。」
結果オーライだが…1人不穏な空気の人が…。
「…。」
なぁんであの人あんなに不機嫌なの?え、俺なんかやっちゃいました?
「さて、アスカ。1つ大事な話がある。」
「パーティには戻れないよ…?」
「…やはりそうか…。」
「シュン、勝手なこと言わないで。こんな奴必要ないから。」
ああ、なんか察した。すごい不仲なわけだ…不仲と言うか一方的と言うか。
「アマネ…少しは自重しろ。」
「なんでよ!コイツが全部美味しいところもって行くから悪いんじゃない!!」
「アマネさん…。」
「すまない、アスカ。酷なことを言った…。」
「ううん。いいの。私だって皆に迷惑かけてばっかりだったから。」
「そんなこと無いですよ…。」
「ナナの言う通りだ。アスカが居てこそ…僕たちのパーティだった。それだけは信じてくれ。」
「うん…ありがとね。」
そんな会話をしている。うわぁ…俺すっごい邪魔じゃん。あのまま退場の方がある意味スッキリしてたんじゃないかってくらい邪魔じゃん。
「何話してんのよ。行くわよ。」
「…すまん。僕らはこれで。」
「…すみません。」
そうして、彼らは去っていった。いやぁ…助かったのはよかったけど…気まずいわぁ。
「あの、七瀬さん。」
「いいよ、気、使わなくて。」
「俺なんかで良ければ…話くらいは聞きますからね。」
「…ありがとう。ほんと優しいね一樹くんは。」
「あの2人だって優しいじゃないですか。」
「………。」
「七瀬さん?」
「うん。あの2人も優しいよ。」
ああ…これ地雷踏んじゃったやつじゃない?
「と、ともかく出れるようになったんだからここから出ましょう?」
「…そうだね。行こっか、一樹くん。」
そう言っていつもみたいに笑う。うわぁ…きちんと闇ある人だったぁ…。
『課題―――病ませるな』
…そいつはごもっともで…。
そうして俺たちは歩き出すのだった。
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