第7話 僅かな差

「ね、ねぇ、やっぱり配信はやめとこう?」


「ナナの言う通りだと思いますよ。流石に今回のは…度が過ぎている…。」


「うっさいわね!いいから始めるよ?」


 アスカが遭難したダンジョン内。私は着実に配信準備をしていた。ナナともう1人、シュンは配信には反対らしい。

 いいじゃない。別に。を助け出す配信があったって。エモーショナル?ってやつ?あれだよあれ。


「はーい!と言うことで始まりましたぁー!今回は急な配信なのに来てくれてありがとう!!」


 Sクラス探索者パーティ、デルタ。国内でも有数のトップパーティであり、トップ配信者グループでもある。


「それじゃ、やっていこうか。アスカ救出大作戦!!このダンジョン、全部攻略してみたいと思いまーす!!」


 テンションは高めに。あくまでもこれはエンタメなんだから。


「…行くぞ。」


 そんな作りきったテンションに水を差したのはシュンだった。足早に彼は歩き出す。ナナもそれにつられるよう、無言だ。


 そんなに大事かね。あの馬鹿の一つ覚えが。


 本来ならば探索もしたかった。だけどシュンが『30階層までの道のりならアスカの配信でやってたから覚えてる。』何て言うから面白味もなくサクサクと進む。


 それでも広いダンジョンなもので、時折休憩を挟んで丸半日をかけようやく10階層に到着。


「はぁ…疲れたぁ…。」


「…今日はこの辺が限界値か。」


「ですね…。」


「敵と戦わずに歩いてもこのペース…丸1週間は使いそうですね。」


「にしても…アスカさん…ソロで挑んでましたよね。」


「ああ…恐ろしいよ…。」


 何て裏で話してる最中、私はエンディングを撮る。


「そう言うわけで今日の配信はここまで!また明日朝から続きやるから絶対見に来てね!!」


 そうして配信を終了する。


「に、してもだ。アマネ、おまえ流石にこれはないぞ?」


「これ?どれ?」


「正気か?人命が懸かってるものをエンタメにするとか狂ってるだろ!!」


「いやいや、だって稼ぎ時じゃん?私たちにとって数字って命だよ?」


「…はあ、怪物め…ナナ。まだ歩けるか?」


「え?あ、はい。」


「もう少し進んでおこう。」


「は?勝手に話し進めんなよ!!これ私の企画だから!!」


「…アマネさん。もうやめましょうよ…。」


 なんで…なんで皆アスカばっかり…。


 いやいや立ち上がり、2人の後を歩く。


「アマネ。僕達が今までどうして楽にダンジョン攻略ができていたか解るか?」


「そりゃあ私が守ってたからよ。」


 私の役割はタンク。ヘイトを買って攻撃を私に向ける。最前線でこれをしてきたのだから私のお陰に間違いない。


「確かに、おまえはタンク役としてすごく働いてくれた。ナナもヒーラーとしてすごく頑張ってくれてる。」


「そう言うシュンだってアタッカーとして―――――。」


「勘違いするな?僕はアタッカーじゃない。僕はあくまでも先鋒だ。」


「え…。」


「解ってないようだな。このパーティはあくまでもアスカをメインウェポンとして機能してたんだよ。」


「はぁ?あいつ、ずっと突っ立って最後の一撃を持っていってただけじゃん。」


「…おまえ…それ本気で言ってるのか?」


「本気に決まってんじゃん?」


「おまえ―――――。」


「2人とも!人命優先です。」


 ナナの一声で一旦口喧嘩は中断された。



 それから、私たちは合計で6日間ダンジョンの中に幽閉されていたことになる。ようやく、32階層のボスを倒すことに成功した。


「はあ、はあ、なんとかなったな…。」


「はい…。」


「僕の見立てじゃ…アスカが居るのは33階層…次だ。」


「行きましょう…。」


「ちょ、ちょっと2人とも…ペース速いって…。」


「当たり前だ、ことは一刻を争うかもしれない。行くぞ。」


 いったいどうしてアスカなんかに真剣になれるのだろう。あんな承認欲求の塊…どうして。

 そう思うと腹が立つ。


 だから私はあいつをパーティから追い出した。あいつが居なくたって私たちはここまでこれるのに。あいつが最後を持っていくから…あいつが…居なければ。


『―――――んてことであんたクビね?』


『…え?』


 パーティ名だって変えてやった。調和アルモニアから僅かな差デルタに。誤差なんだ。誤差のはずなんだ。あいつの存在なんて。


「降りるぞ…。」


「はい。」


「…。」

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