第5話 『出るな』なんて言われても

「ん?どうしたの?」


「い、いやぁ、ちょっと待ってくださいね…。」


 なんでもないわけ無いです。

 出るなってどう言うこと!?俺出たら死ぬの!?教えてくださいよ!!


『課題―――出るな』


 答えろこのポンコツが!答えろってんだよ!!


『課題―――出るな』


 この手でもダメか…真面目に考えるなら、このダンジョンから出れば俺は死ぬ。或いはそれ相応のダメージを負うこととなる。が、それが何なのかまでは教えてくれない。ともかく…。


「七瀬さん。今日はあの部分の探索までにして、出るのはまた後日にしましょう。」


「え?どうして?」


 不思議そうにこちらを見つめる七瀬さん。それもそうだろう。と、言うことで俺のスキルについて説明する。


「なるほど…それでか。にしても『出るな』…か…不穏だね。」


「もしかして、出たすぐ先がボス部屋とか…?」


「あり得る。最下層がボス部屋だけのダンジョンも少なくないからね。でも、私Sクラスの探索者だよ?」


「俺のことを守りながらだと立ち回りも難しくなりません?」


「それは…一樹くん、頑張って!」


 駄目そうだな…しばらく出ない方がいいのか?


 ―――――ともかく、方針どおり俺たちは落下地点までやってきていた。


「まあ、そもそもとしてここに隠し通路があるかどうかも怪しいですけど…。」


「一樹くんの勘は当たるからね。にしても…ちょっと瓦礫が大きすぎるかな…。」


 打ちっぱなしのコンクリートが散乱している。どうにも俺じゃ動かせそうにない。


「ま、ここは私に任せてよ?」


「え?ええ、解りました。」


 正直、俺は七瀬さんの本来の実力を知れていない。例の竜の時だってどう考えたってSクラスの立ち回りではなかった。


「うーん…ちょっと待ってね?」


 辺りを見回した七瀬さんがそう言う。


「は、はい。」


 何をするつもりなんだろうか?そう思っていると、おもむろに七瀬さんは剣を構え…静止した。


「…え、えっと、七瀬さん?」


 反応はない。そうしてその状況がかれこれ1分程続いた頃。ようやく七瀬さんが振りかぶる。

 ―――――その太刀筋は、到底見えなかった。気がついたらなにもかも終わっていたとしか言いようがない。直後に爆風が俺を襲う。が、それさえ直立で受けるしかないほど唖然としていた。


「あのコンクリートの塊を…一撃…?」


「どうどう?すごかろ?これが私の戦闘スタイルだよ!」


「いやぁ、凄まじい破壊力…。」


 細かくなった瓦礫がそこらに散乱している。


「まあ、その分タメに時間かかっちゃうんだけどね…。」


 なるほど…チームに置ける大砲の役割って言うことか。それならばいろいろと納得だ。


「でも、やっぱりすごいですよ…これ…。」


「エヘヘ、ありがと!」


 はにかんで笑う七瀬さんに少しドキっとしながら煙が晴れるのを待つ。


「さてと…。」


「…!!」


「あったね。通路。」


 そこには、人1人が通れるほどの隙間があった。1歩踏み出す。


『課題―――出るな』


 間違いない。


「これが隠し通路で間違いなさそうです。」


「よし、私が様子見てくる!」


「え、危ないですって!!」


「大丈夫!様子見たらすぐに帰ってくるから!!」


 そう言うと、足早に七瀬さんはその通路へと消えていった。


「ちょ、七瀬さん!!」


 そんな声もむなしく、返事は返ってこない。しばらくこのままか…そう思ったのも束の間、返ってきたのは返事ではなく悲鳴だった。


「七瀬さん!?」


 気がつけば身体が勝手に動いた。


『課題―――出るな』


 思えば、課題を無視してきたことなど1度もなかった。従順であり続けていた。死ぬかもしれないのだから当然だ。

 だけどどうしてか、このときばかりはそうもいかなかった。


『課題―――出るな』


 好き勝手喋りやがる声なんて無視する。そんなことはどうだっていい。『出るな』なんてて言われても、今走らなきゃ後悔する。


 出口が見えた。


「七瀬さん!!」


 そう叫び、目の前の光景に立ち尽くした。七瀬さんは…まだ生きている。辛うじて呼吸をして居るのははっきりと解った。だが、すでにボロボロだ。出血も何ヵ所かある。


「一樹…くん…ごめ…。」


「七瀬さん!!」


 誰がやったかは明白だった。バカみたいにデカイ身体をしてやがるそいつだ。鎌首をもたげ、こちらを見つめている。

 蛇…なんかじゃない。大きな…ムカデ。


『課題―――――』

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