第2話 昼飯の恨み
「ともかく、今は上に繋がる通路を探そう!」
そう提案したのは彼女だった…が。
「あの、俺このダンジョンに数年は住んでるんですけどそんな通路見たこと無い…。」
「見たこと無い…?」
「大体この階層なら殆ど見て回ってるから。唯一抜けれそうなので言ったらこの壁をよじ登ることだけど…。」
「え、マジで?」
「マジで。」
どうにか出来たらどうにかしてる。どうにも出来んからこうなってるのだ。
「え?ボスとかは…?」
「ああ、いないですよ。」
「居ないの!?ボスのいないダンジョンとか…ええ…。」
「まあ、そう落ち込むこともないんじゃないですか?死ぬ確率も下がりますし。」
「まあ、そうかもだけど…ボスがいるならいるで倒して帰還魔石を回収できるのに…。」
「帰還魔石?」
「知らないの?ダンジョンの入り口まで転移できる魔石のことだよ?」
うわーなにその便利な奴。すっごい欲しいのにこうも都合よくないことってある?酷すぎない?
「そんな便利なものが...。」
「君、スマホは持ってるんだよね?ダンジョン配信とか見ないの?」
「まあ、何度か見ましたけど…あれはダンジョン舐めてる。」
「え?」
「1歩間違えば死ですよ?それに食料だって命がけで調達しなきゃ行けないし…正直俺は解り会えないって思いましたね。」
「な、何かごめんなさい...。」
「あ、いえ、すみません…。」
しまった…つい熱くなってしまった。
だけど俺には俺の言い分がある。
まず数時間潜ってダンジョンを知った気にならないで欲しいと言うことだ。いや、配信者の中にはダンジョンに泊まり込みとかしてる輩もいるが、最低限準備をしている。あんなものはサバイバルなんて言えない。否、言わせない。
本物はもっと、死と隣り合わせである。
「まあ、でもそうだよね。何年もダンジョン内にいる君からしたらそう映るのも納得だよ。」
「いや、こっちこそ…七瀬さんの気持ちも考えずに...。」
「いいの、いいの。私なんて本当に承認欲の塊みたいなものだから。」
「そうは言っても、ライフスタイルを侮辱してしまったことには変わりありませんので…それは本当に申し訳ないです。」
「律儀だな…君も…。」
そう言うと、彼女はバッグを漁る。するとスマホを取り出し、なにやらメッセージを打ち込んでいるようだった。
「さてと…これで安否確認は大丈夫。」
そういえばこの人事故で落ちてきたんだった。Sクラスの探索者って言ってたけど…上層でもだいぶ危険なんだな…なんて考えていると、ぐぅ~とお腹の鳴る音。俺ではない。
「…お腹空いてます?」
「…恥ずかしながらなにも食べてないものでして…。」
そうやって頬を潮紅させる彼女。どこか愛らしさを感じながら自分もまだご飯を食べていないことを思い出した。
「待っててください。これからご飯作るんで。」
そうして俺は立ち上がる。
「これから…?よくよく考えれば君何を食べて…。」
「え?魔物ですよ?」
手製のナイフ片手にそう言う。
「え…食べれるの…?」
「食べるしかないんで。」
そうして俺は昨日仕掛けた罠…と言っても単調な落とし穴だが。そこへと向かおうとした。
「ま、待って。私もついていっていい?」
「え?ええ、構いませんよ。」
と、言うことで結局2人でその場所へ向かうこととなった。そうは言ってもそんなに離れていない。
そんなこんなで道中何事もなく落とし穴へと移動したのだが…。
「マズいな。」
「ど、どうかしたの?」
本来ならケイブディアーを捕ろうと思っていたが漁夫られた。
「獲物を横取りされました。」
「横取り?誰に?」
「誰にってそりゃ―――――。」
『課題―――避けろ』
「―――――こっち!!」
そう言って強引に彼女の手を引いた。
「え!?」
困惑する七瀬さんと物陰に隠れる。直後にそいつはやってきた。
轟音と共に壁に頭突きをかます。一番厄介な奴じゃねぇか…。
「あれですよ。」
「な、何…あれ…?」
岩の様に発達した頭部。上半身まで岩のように暑い皮膚がおおっている。四足歩行の竜種…名前は解らんがおおよそ正攻法で勝てる敵ではない。
「この辺をたまに徘徊してるんですよ。今回のはあれに食われちゃったみたいだな…。」
「あれ…未発見の魔物では?そうだ…写真、写真…。」
「バカじゃないですか?死にますよ?」
「え?」
「Sクラスの探索者ならわかるでしょ?あれがどれくらいヤバイか。それとも何ですか?正攻法で倒せるんですか?」
そう吐き捨てた。
「は、はい…ごめんなさい。」
「…はあ、戦えますか?」
「え?戦うんですか?」
「食べ物の恨みですよ。今日はアイツが昼飯です。」
「え、ええ!?」
その声に反応し、奴はこっちを向いたのだった。
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