二人で行く道中
第16話 旅の目的は
リオンの故郷の村を飛び出し、南へ進んで隣村を目指す道中のことであった。
「ねえねえシエル。綺麗な花見つけたよ!」
「シエル、あそこになってる木の実食べてみようよ!」
リオンは初めて見るもの全てに興味を示し、シエルとその感覚を共有しようと話しかけてきた。
今まで村の外に出たことのなかったリオンにとっては外の世界で見るもの全てが目新しく、輝いて見えた。
道は間違えることなく進んでくれてはいるものの、道草が非常に多かったのである。
「リオンさん、できればもう少しまっすぐ進んでいただけると」
「えー?せっかくだからいろんなこと楽しんでいこうよ」
「旅がそんなに楽しいですか?」
「楽しいよ!ボク、今まで村の外にこんなに面白いものがあるなんて知らなかった!」
シエルの問いにリオンは目を輝かせながら答えた。
リオンにとって旅は楽しいものである。
これまでの行動も道中で出会う初めての感動を自分だけで味わうのはもったいないと感じ、シエルと共有しようとしている善意のつもりであった。
ここまで堂々と楽しいアピールをされるとシエルは怒ろうにも怒れなかった。
「まあ、寄り道はほどほどにしてくださいね」
「わかってるよ」
リオンは地図を広げ、歩きながら現在地と目的地との距離を測った。
シエルはリオンの隣につき、一緒に地図を覗き込む。
「この調子なら今日の日が暮れる前には隣村に入れそうだね」
「本当ですか!?」
リオンの目測では一端の目的地である隣村には今日中にはたどり着ける計算であった。
それを真に受け、シエルはリオンについて道を歩く。
しかしそこにはとある問題があった。
「ハァ……ハァ……少し止まってくれませんか……」
隣村に向かう道中、シエルは息を切らしてリオンを呼び止めた。
リオンが言う『今日中にはたどり着ける』というのはあくまでリオンの進む速度での話であり、彼女と比べて体力的に劣っているシエルが付いていくのは困難であった。
「えー、しょうがないなー」
リオンは足を止め、シエルのいる場所まで引き返すと彼女の肩を持ち、木陰まで連れて行くと一緒に腰を下ろした。
シエルのために小休止である。
「もう疲れちゃったの?」
「仕方ないでしょう……貴方と違って私は毎日身体を動かしているのわけではなかったのですから」
ピンピンしているリオンにシエルは言い訳がましく弁解した。
元々魔術師に体力は要求されないため、シエルは特に体力づくりはしてこなかった。
そこは基礎体力が物を言う武術に傾倒していたリオンとは対照的であった。
「シエルも大変だね。体力なくて地図も読めないのにここまで旅してきてさ」
「私のことを馬鹿にしているのですか?」
「そんなつもりじゃないよ。ただ、そこまでしても旅をするぐらい大事な目的があるんだなって」
リオンはシエルの志に一定の理解を示した。
体力がなく、自覚がなかったとはいえ地図が読めない方向音痴であるシエルがそれでも一人故郷を離れて異国を目指すことがどれほどのことなのかが共に歩くことでリオンには少しだけ理解できた気がした。
「ええ、私にとってはとても大事な目的です」
シエルの旅の目的、それは魔術の本場であるイリで修業を積み、現地の魔術師たちから箔を付けてもらうことで一人前の魔術師として認められることである。
「確かシエルの目的って『一人前の魔術師になること』だったっけ」
「その通りです」
「どうして一人前の魔術師になりたいの?」
「自分のため、そして家のため……といったところでしょうか」
シエルが一人前の魔術師を目指すのには家がらみの複雑な事情があった。
今まで詳細に語らなかったそれをシエルはリオンに解き明かすことにした。
「我がフォクシー家はノースの王族が抱える王宮魔術師の家系です。王族に仕えることはノースの魔術師の誉れ、魔術師たちの頂点に立つことといっても差し支えありません」
「へぇー。じゃあシエルの家はすごいんだね」
「ですがそれで安泰というわけではありません。王宮魔術師には代替わりがありますから」
シエルはノースという国の魔術師事情も語った。
ノースは王制であり、当代の王に魔術師の一家がつくのが王宮魔術師の仕組みである。
よって王が変われば当然王宮魔術師も入れ替わりとなり、次の王宮魔術師は実力で選ばれるためその称号は永遠のものではない。
「じゃあ他の魔術師たちに王宮魔術師っていうのを取られないようにするために修行をするんだね」
「そういうことです」
リオンはシエルが抱える概ねの事情を理解した。
自分のために魔術師としての力をつけ、家のために新たな王宮魔術師を目指す。
それがシエルの旅の目的の本命であった。
「ですから、まだ時間に余裕はありますが悠長にはしていられません。先を急ぎましょう」
小休止を終え、体力を取り戻したシエルは腰を上げると再び歩き出した。
リオンはシエルに続いて少し遅れて立ち上がると、シエルを先導するように彼女の隣を歩くのであった。
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