第28話 謎解き部

「うわっ、床抜けそう……」


「だ、大丈夫だよ……」


 視界に映るひび割れた壁、年代を感じさせる木の扉。

 そう、ここは旧校舎だ。


「部室はこの奥です!」


 旧校舎が近くにあることは知ってたけど、まさかこんなに立派な建物だとは思わなかったな。

 それに、


「意外としっ一一」


「意外としっかりしてるじゃん!」

 

 ねぇあゆさん、短文くらいは言わせてくれないかな。

 これじゃ、俺の出番なくなっちゃうからさ。


「どうぞ入ってください!」


「「失礼します」」


 教室札には、謎解き同好会の文字。

 同好会ってことは、まだ部活のレベルに達してないってことだよね。

 あれ、どういうこと?


「あら、夏芽じゃないですか。

 ところで、そちらの2人はお客さんかしら?」


 中にいたのは黒縁メガネの女子生徒。

 多分、彼女が夏芽ちゃんの言っていた奥田先輩だ。


「いいえ、お客さんではありません」


「ん? もし用がないのなら、帰ってもらわないと行けませんけど」


 この時、あゆは女子生徒と目が合ったらしく……。


「ねぇ柚、なんか睨まれてるんだけど……!?」


「大丈夫だって。きっと凝視してるだけだから」


 深く呼吸をすると、畳の香りが鼻を抜ける。

 謎解き部と和空間、か。

 えっ、どういう関係?


「紹介します! 新入部員の柚くんとあゆはさんです!」


「し、新入部員ですって!? そそそそれは確かなの!?」


「はい、確かな情報です!」


「なーつーめー! よくやったわね、お手柄よ!」


 抱き合い、喜びを分かち合う2人。

 でも、このままいくと……。


「あ痛っ!」


 ほーら言わんこっちゃない。

 机の脚に小指をぶつけ、痛がる女子生徒。

 でも、もしあれがあゆだったら……。


「痛いよ柚……。起き上がらせてくれない……?」


 はぁ、俺は何を想像してんだか。

 ほんとバカみたい。


「夏芽ちゃん、この人が例の?」


「はい! 我が部の部長兼華担当、奥田先輩です!」


「はーい、よろしくね!」


 先程まで痛がっていたのが嘘であるかのように、奥田先輩はあっさり立ち上がった。


「さぁさぁ、座って座って! 痛て……」


 そっくりそのままお返しします。


 俺とあゆは座布団に座った。

 気のせいかもしれないが、久々の感覚に足が喜んでいる気がする。


「じゃあ、早速試験をしましょう!」


「はい、謎解きタイムですね!」


 指示を受けた夏芽ちゃんは、引き出しから1枚の紙を取り出した。


「ちょっと、いきなりが過ぎない?」


「おお、謎解きだって! 柚もやるよね!」


「あゆ、順応するの早過ぎない?」


 そんなわけで、俺は1枚の紙と睨み合っている。


「私はお弁当食べてるから、答え合わせは夏芽ちゃんとお願いね」


「分かりました。えーと2桁の数字か……ヤミ? ヒフミ? 兄さん?」


 紙には左から、『83、123、23、103、45、15、32、11、101、34、52』という数字が書かれおり、最後は『!』で締められている。


「ねぇ、柚」


「ん?」


「全然分かんないよー……」


 ふと左に目を向けると、そこには涙目のあゆがいた。

 確かに、2人の顔を見ればそうなるのも頷ける。


 だってこれ、解かないと帰してくれないやつでしょ?

 期待の眼差しが俺とあゆの身体を縛る。

 

「俺もまだ全然分かってないんだけどさ、数字1つ1つが何かに対応してるってことと、初めて解く問題だからハードモードじゃないってことは確かだと思う」


「あー確かに! となると、単純に83番目とか、足し算引き算とか、8行3列目とかかな?」


「んっ? 今の8行3列目ってやつ、ちょっとありそうじゃない?」


「あっ! 50音表じゃない!?」


 50音表か、それだ。


「なるほど」


 8行3列目だと、最初の数字は『ゆ』だな。

 俺が紙に平仮名を書くと、夏芽ちゃんは嬉しそうに笑った。


 これ、絶対合ってるじゃん。


「1文字目が『ゆ』でしょ? 私の知ってる言葉なはずだから……ゆ……ゆ……ゆ……」


「うん。でもまずは、2桁の数字を書き出した方がよくない?」


「あっ、それもそうだね。よーし、張り切って頑張るぞー!」


 その後、2桁の数字と文字を当てはめてみると、それっぽい文章が見えてきた。


「『ゆ○く○とおしあ○せに』だって。あと3文字」


「んっ? んー? んんんんんん!?」


 と、何かに気づいた様子のあゆ。


「解けた?」


「ま、まぁね!? ちょっ、ちょっと夏芽ちゃん!? ちょいちょい」


 あゆは夏芽ちゃんを呼ぶと、紙を見ながら隅の方で内緒話をし始めた。

 きっと答え合わせをしているのだろう。


「……ちょっとどういうつもり!?……」


「……うふふ、そのままの意味ですよ……」


「……これ、諦めるって意味?……」


「……まぁ、そういう意味ではありますけど、隙があったら奪っちゃいますから……」


「……ふーん、望むところよ……」


 ん? なんか盛り上がってる。


 何となく奥田先輩の方を見てみると、彼女はニコッと笑った。


 あーはいはい。

 分かってないのは俺だけってことね。


「うーん、全通り試すか」


「えっ!? ゆ、柚はやらなくていいよ!? もう私正解しちゃったし!?」


「あれ、もしかして答え教えてくれない感じ?」


「柚くん、紙いりますか?」


「あっ、もらおうかな」


「だめです」


 新しい紙を取り出そうとする夏芽ちゃんを、必死に止めるあゆ。


 えっ、本当に解かせてくれないんだ……。

 まぁでも、それも勝者の特権か。


「さて、謎解きも終わったことだし、この入部届けに名前だけよろしく!」


「「はーい」」


 こうして、俺とあゆは謎解き部に入部した。


「あの奥田先輩、1ついいですか?」


「うんいいよ」


「これって部活なんですよね?」


「うん。あっ、もしかして教室の札の話?」


「はい」


「あれはね、部より同好会の方がかっこいいなって思って、敢えて直してないんだよ!」


 あははー。

 ここでドヤ顔する意味が全く分からないや。

 ほんと、不思議な人。


「そうなんですね」


「まぁとにかく、謎解き部へようこそ!」


「はい、お世話になります」


 部活か。

 まぁ、程々に頑張ろっと。

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