第27話 正体

「さぁ、ちゃちゃっと見つけちゃうよー!」


「おー」


 色々あって、俺とあゆは今校舎の外にいる。

 彼女によれば、手紙に記された場所は体育館倉庫なんだとか。


「あっ、確かにここかも」


「えーえーそうでしょうとも」


 1度絵と景色を重ねてみると、確かに似てる気がする。

 いや、画角だけで見ればぴったりと言っていい。

 ただ……。


「絵の場所に来たはいいけど、この後どうするの?」


「うーん、開けゴマ……とか?」


 うわっ、また変なこと言ってる。

 恥ずかしそうにするあゆを見て、俺は普通に引いてしまった。


「ちょっと引かないでよ……! ねぇ……!」


 まぁこうなった以上、俺がとる行動は1つ。


「はい。では、あゆさんどうぞ」


 そう、押しつけだ。


「いえいえ、柚さんどうぞ」

 (私はやらないよ)


「いやいや、僕には恐れ多いです。

 あゆさんどうぞ」

 (当然、俺もやらないよ)


「いやいやいや、ここは当人が言うべきですって」

 (私は絶対やらないから!)


「「あははははー」」


 はぁ、自分で言い出したのにやらないパターンね。

 はいはい、分かりましたよー。


「開けゴマ」


 炸裂する俺渾身の棒読み。


「いやいやいやいや、そんな棒読みじゃ開くわけ……」


 直後、重たい扉がゆっくりと動き始めた。


「なにぃぃぃぃぃぃぃぃ!?」


「なんで開くの?」


 何が何だかさっぱり分からないが、呪文を唱えるのは正解だったらしい。


「と、とりあえず突破だね!」


 グッドじゃねぇよ。


「まぁ、うん。でもこれは……ねぇ」


 ようやく姿を見せた倉庫中では、謎の黒い空気が蠢いている。


 埃をかぶった古びた道具、誰もいないのに感じる視線……。


 なんだろう、このうえなく入りたくない気分だ。


「柚、入るわよ!」


「えっ、普通にやだ」


「なら入ろっか」


「絶対やだ」


「お兄様ぜひ入りましょう」


「今なんか言った?」


 当然、実際に黒い空気が視認できる訳では無い。

 ただ、そう見えてしまうという現実がある。


 言うならばそう、心霊スポットみたいな?


「もういい。ヘタレは置いといて、私1人でいくから!」


 えっ、あゆが1人で……?

 それは流石に許容出来ない。


「うん、決めた。俺もいく」


「よしっ、行こっか」


 うん、嵌められちゃった!


 中へ入ると、小さな紙が1枚落ちていた。

 拾いたくねぇ……。


「ねぇ見て! 宝の地図じゃない!」


「絶対罠じゃん」


 ただ、その言葉に反して、俺は迷うことなく紙を拾い上げた。

 無意識に誰かさんを守ろうとしたのかもしれない。


 騒がしい誰かさんを。


「えーと……」


「なになに、何が書いてあるの?」


「『左を見て』だって」


「左?」


 俺とあゆは、ほぼ同タイミングで視線を向けた。

 そして、


「「いやぁぁぁぁぁぁ!」」


 ほぼ同タイミングで叫んだ。


「あっ、驚かせてしまってごめんなさい」


 そりゃ誰だって驚くよ。

 壁に女の子張り付いてんだもん。


「お化けぇぇぇぇぇ!」


 隣なんてまだうるさいし。


「なんだ、夏芽ちゃんか」


「はい、少しやり過ぎちゃいました。てへっ」


 うん、安定のゆるかわ。


「でも、予想通りでした」


「えっ、何が?」


「あゆさんも一緒に来るだろうなって」


 なるほど。

 あゆはまんまと誘導されたってわけか。


「だってよ、あゆ」


「お化けぇぇぇぇぇ!」


「うん、そろそろ黙ろっか」


 あゆの頬をむにゅむにゅする俺。

 女の子の頬ってこんな感じなんだ。


 つい感動してしまった俺は、手を止めることが出来なくなった。


「も、もう大丈夫だよ!?」


「あっ、そう」


 その時、夏芽ちゃんが羨ましそうな視線を俺に向けていたことにも気づかないくらいに。


「それで、夏芽ちゃんはどうしてこんなことを?」


「はい。実は私……謎解きが好きなんです!」


 ・・・で?

 って言ったら、流石に冷たいよな。


「へぇ、俺も嫌いじゃないよ。あゆは?」


「私は結構好きだよ!」


 謎解きか。


 小さい頃、よくお母さんと一緒に遊んでた気がする。

 でも、月日が流れるごとに、その数は徐々に減っていったっけ。


「おふたりは、謎解き部をご存知ですか?」


「謎解き部?」


「聞いたことないかも」


 メジャーな部じゃないことは確かだけど、聞いたことないってよっぽどだな。


 太陽が静かに雲の影に隠れる。


「聞いたことないのも無理ありません。

 私たちは謎解き部は、私と奥田先輩の2人だけなので……」


 俺とあゆは、夏芽ちゃんと一緒にマットに座ると、話の続きを聞いた。


 話によると、前期最後の生徒会会議で、部員数の足りていない謎解き部を廃部にする案が出たらしい。


 それに、もしこのまま部が無くなってしまったら、彼女を拾ってくれた奥田先輩に何も返せないということだった。


「部員数が足りないから廃部になる。

 それは当然だと思います。」

 でも、私は大好きな謎解き部を守りたいんです」


 ちなみに、俺とあゆは帰宅部。

 つまり無所属だ。


「だから、どうかお願いします。

 謎解き部を助けてくれませんか?」


「ねぇ柚、助けてあげよ?」


 無論、俺も断るつもりは無い。

 基本暇だし。


「夏芽ちゃん」


「はい」


「それって、名前貸すだけでも大丈夫?」


「もちろんです!」


 キラキラ輝く魅惑の瞳。

 気を抜けば、吸い込まれてしまいそうだ。


「なら、俺とあゆの名前使ってよ。

 どうせ使い道ないしさ」


 名前だけなら尚更都合がいいしな。


「本当ですか!? ありがとうございます!

 ありがとう……ござ……います……」


 彼女は泣き出した。

 それだけ、謎解き部が大切だったんだろう。


「大丈夫大丈夫」


 あゆはすぐさま駆け寄り、彼女を抱きしめた。


「ありがとうございます……ありがとうございます……」


「よーしよーし」


 でも、この絵はあれだな。

 まるで子供をあやす母親みたいだ。


 しばらくして、夏芽ちゃんが言った。


「よければ、部室に来ませんか?」


 不思議だ。

 少し前まで、存在すら知らなかった謎解き部。

 なのに、今はとても興味がある。


「うん」


「ぜひ!」


 俺とあゆは二つ返事で部室に向かった。

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