第26話 再開と手紙

 夏の終わりを告げるように、少し涼しくなった朝の風が静かな住宅街を吹き抜ける。


 俺はいつも通り学校へと向かうが、心にはどこか落ち着かない感覚が残っていた。


「おっすー!」


 カラスが逃げるこのうるさい声……間違いない、ヒロだ。


「あっ、行方不明男」


「へっへっへ、すんませーん。

 っていうか、今凄く失礼なこと考えてなかった!?」


 よかった。

 いつも通りのヒロだ。


「ねぇっ!? ねぇっ!?」


「ごめんて」


 それに、俺も不思議と辛さはない。

 今回は課題を終わらせているし、何かを失った感覚もないからだろう。


「で、どこ行ってたの?」


「まぁまぁ、あとでちゃんと教えてやるからさ、とりあえず進もうぜ? なっ?」


「はいはい」


 ただ、1つ気になることがあるとすれば、夏休みから引き継いでしまったこのモヤモヤと、俺はこれからどう向き合っていけばいいのかということだ。


 あっ、そうか。


 まだ終わってなかったじゃん。

 夏休み課題。


「おっ、あゆちゃん! おっすー!」


 ・・・えっ。


「……んっ!? お、おはよう!?」


 (柚がいるううううううう!? 私まだ顔見れないってぇぇぇぇぇぇぇ!)


 あれ、いつものあゆじゃない。


「あー私ー、予定があったんだったぁぁぁぁぁぁぁぁ!」


「ちょっ、ちょっとあゆちゃん!?」


 明らかに様子のおかしいあゆは、校舎の中へと消えていった。


「ねぇ、柚……」


 やばっ、なんか聞かれるかも……!?


「俺嫌われちゃったかな!?」


 あー、ほんと助かるわー。


「可能性はゼロじゃないかも」


「そ、そんなぁ……」


 今の反応、やっぱりあゆはあの時俺に……って、そんな訳ないよな。


「いいから、とりあえず進もうぜ? なっ?」


「俺の真似すんなー!」


 俺とヒロは教室に向かった。


 うーん、エアコンの風気持ちいい……。


「みんなおっすー!」


「おはよ」


 エアコンのせいか、俺は自然と挨拶をしてしまった。

 普段なら絶対しないのに。


 まぁ、それもどうなんだって話なんだけど……。


「おいおい、柚に挨拶されちゃったよ!」


「はぁ? 今のは俺に対してだろ!」


「はぁ? な訳ねぇだろ!」


 おーい、喧嘩しないでー。


「柚おはよー!」


「柚くんおはよー!」


「お、おはよ」


 えっ、何この空気。


「ねぇ、ヒロたすけ……あっ」


 ふと横に目を向けると、そこには哀愁が漂っていた。


「ねぇ、柚……俺嫌われちゃったかな……」


 めんどくさいし、答えはこうだ。


「可能性はゼロじゃないかも」


「くっ、柚のバカーーーー!」


「えっ、なんで?」


 困り果てた俺の顔を見て、クラスのみんなは笑っている。


 いや、あのヒロのことだ。

 こうなることまでお見通しだったんだろう。


「ほんと敵わないな」


 そんなことを呟きながら、俺は席につく。


「ん? なにこれ」


 すると、机の中に一通の手紙を見つけた。


 誰からだろう……。

 洋封筒をくまなく見てみたが、名前の記述は見当たらない。


「こっわ」


 恐る恐る開けてみると、中には2枚の紙が入っていた。


 1枚目は手書きの文章で、2枚目は……下手くそな絵?


「えーなになに……『絵の場所に来たれ』。

 これ、分ける必要あった……?」


 どうやら、絵が指し示す場所は学校のどこからしい。

 まぁ、これが現実だなんて認めたくないけど……。


 俺の目に映るのは、13まで数字のある掛け時計。


「ありえない……」


「んー?」


 その時、横から金色の輝きが現れ、俺の視界を覆った。


「あゆ……何しに来た」


「ふぅーん、ラブレターでは無いようだ。

 それより、この位置から時計が見えるってことは、体育館倉庫じゃない?」


 えっ、あっ、本当だ。

 この前ふざけて名探偵とか言ったの、あながち間違いじゃなかったかも……。


「あゆさん、協力感謝します。それじゃあ私はこれで」


「ちょいちょいちょい、待て待て待て」


 すぐさま立ち去ろうとするも、あゆに腕を掴まれた俺は、情けなくその場に取り押さえられてしまった。


「そもそも、名前すら書かれてない手紙なんて怪しいでしょ!」


「ご、ごめんなさい……」


 しかも、まさかの説教タイム。


 教室の角に追い詰められる男子と、追い詰める女子。

 なんとまぁ目立つ展開だこと。


「で、でもさぁ、俺の机に入ってた訳だし……」


「でも、なぁに?」


「すいませんでした」


 あゆの圧力にやられ、俺の頭が勝手に下がる。

 これはもう、覇王色のなんちゃらと言っていい。


「まぁでも、気になるのは確かですし!

 仕方ありません、この私が協力してあげましょう!」


「はぁ、そんなことだと思ったよ」


「では、早速行きましょー!」


「はいはい」


 そう言って2枚の紙を手に取ったあゆは、俺の手を引き、教室を後にした。

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