第19話 夏休み課題

 朝、ニュースから聞こえてきた最高気温37℃というパワーワード。


 それに、アナウンサーの人は言っていた。


「不要不急の外出は控えてください」って。


 ほんと、全くその通りだと思う。


 まぁでも、こんな暑い日に外出するバカなんてそうそう見つからないよね……この人以外。


「ふっふっふ、本当に来てやったのだ!」


「うん、いらっしゃい」


 気温に関係なく、今日も今日とてハイテンションっと。


「今日は、ビシバシ行くから覚悟するのだ!」


 そして、もはや安定のなりきり口調。

 外出が不要不急なら、あゆは不変不動だな。


「そこの人、とりあえず座ろっか」


「うむ、分かったのだ!」


 夏休みが始まって早10日。

 今日は俺の部屋にお客さんが来た。


「お主、さっさと数学のワークを開くのだ!」


「はいはい、分かったから」


 俺にしては珍しい、2日連続人と過ごす日程。

 正直、結構疲れてると思う。


「あれ、ワークどこだっけ? おかしいな、確かに置いた記憶はあるんだけど」


 その証拠にほらっ。

 俺は今、机の上のワークすら見つけられない。


 せっかく頑張って立ち上がったというのに、無いってオチだけはご免蒙る。


「んー」


「……ねぇ、柚」


 しばらく探していると、先に丸机で課題を進めていたあゆが俺を呼んだ。


 あっ、なりきり口調終わったんだ。


 そんなことを思いながら振り返ると、そこには呆れた顔で俺を見るあゆの姿。


「下」


「えっ、下……?」


「もしかしてだけどさ、そのじゃないよね?」


「ん?」


 そう言われて椅子の下を見ると、確かに何かが下敷きになっている。


「あっ、見っけ」


 そして、それは紛れもなく数学のワークだった。


「あーあ、ちゃんと整理しておかないからそんなことになるんだよ」


 あゆの正論が痛い。


「よく分かったね」


「うん。でもこれからは、ちゃんと片付ける習慣つけた方がいいよ。

 今回は数学のワークだったけど、もし鍵とかだったらどうするの?」


 出た。

 たまにあるあゆのお説教タイム。


 ただこういう場合、あゆは大袈裟に褒められると、すぐ調子に乗って話を逸らす。


 大丈夫。

 失敗したことは1度もないから。


「そういうリスクを抑えるために普段から……」


「ほんと、流石は名探偵の娘だね」


「片付けを……片付けを……。

 ふっふーん、柚くんご名答!」


 はい、釣れました。

 口角が上がり、明らかにご機嫌なあゆ。


「あなたは一体、何者なんですか?」


「よくぞ聞いてくれました!

 私は天乃川あゆは、探偵よ!」


 ほんと、チョロいったらないよね。


「わぁーーーー」


 ポーズを決めるあゆに、俺は拍手を送った。


「……はぁ、楽しかったー!

 よーし、張り切って課題やるぞー!」


「おー」


 まぁ、いずれはやらなきゃいけない課題な訳だし、今やっといて損は無いか。


 なんやかんやあって、俺は課題に取り掛かった。

 いつもは夏休み終了ギリギリまで手をつけない俺なのに。


 結果として、あゆには感謝しないとな。


「解ける、解けるぞぉぉぉ!」


 絶対、直接は言わないけどね。


「ねぇあゆ、これどうやって解いた?」


「んー? 1の4?」


「うん」


 しかし、勉強とは不思議だ。


 絶対にやりたくないのに、やり始めたらやり始めたでつい集中してしまう。


「あー、隣行っていい?」


「うん」


「それはね、たすきがけっていうのを使うんだけど……」


 それに、


「あっ、解けた。ありがとう」


「おっ、やっるー!」


 問題が解けると嬉しくて、次の問題に手を出してしまう。


 まぁ、そのせいでまた、お母さんに写真撮られたんだけどね。


「うふふ、柚ったら楽しそうに勉強しちゃって」


 俺の部屋のドアを開け、隙間から部屋を覗くお母さん。

 当然、俺とあゆが気づくことはない。


「あっ、手が勝手に。

 でも今のは、2人が幸せそうにしてるのが悪いのよ」


 そう密かに呟いた後、お母さんは階段を降りていった。


 俺はあゆが嫌いだ。

 勉強嫌いな俺をやる気にさせる、そんなあゆが嫌いだ。

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