第27話 二人きりの教室
一年生同士の抗争は学校内の決まった場所で行われていたという事もあってそれほど大掛かりな設備などはなかったのだが、今回は対外戦闘という事もあって学校の敷地内のありとあらゆる場所にトーチカが作られて人員が配備されていた。
サキュバスもレジスタンスも関係なく配備されているようなのだが、お互いの欠点を補うような形で協力することで最大限の戦果を期待されているという事らしい。
つい先日行われた抗争を見たことで日常の中に殺し合いが普通に行われているという事は理解出来ているのだけれど、実際に自分の目で人を殺すための準備をしているところを見てしまうと正しいことをしているのかという疑問が出てきてしまうのだ。
それでも、工藤珠希はみんなが行っている事を否定することは出来なかったのだ。
野城君を除いた他のみんなはそれぞれ要請のあった場所に赴いて力を貸しているのだが、工藤珠希と野城君は特にすることも無いので教室で二人残って勉強をしていた。
部外者が立ち入ることの出来ない屋上にある教室に二人きりの状況ではあったが、会話も無いまま時間だけが過ぎていっていた。
昼休みが近付いてきたタイミングで一人の生徒が教室に戻ってきたのだけれど、二人しかいない教室でお互いを意識することもなく教科書と向き合っているのを見て思わず声をかけてしまったのだ。
「二人しかいない教室で勉強してるなんて、真面目か!!」
その声を聞くまで誰かが入ってきた事にも気付かなかった工藤珠希は驚いてしまったのだが、野城君はそんな事も気にせずに真面目に勉強を続けていたのだ。
「二人だけしかいないって、先生はどこにいったの?」
「さあ、私が教室に戻ってきた時にはいなかったよ。野城君に聞いてもいつの間にかいなくなっていたって言ってたと思う。イザーちゃんはもう準備終わったの?」
「私は特に準備とかしないよ。何もしなくても大丈夫だと思ってるし。それにしても、先生も忙しいから仕方ないとは思うけどさ、珠希ちゃんみたいな可愛い子を男子と二人っきりにさせるなんてありえないよね」
「そう言われても。大体、私がここに戻ってくる前に先生はいなかったんだから先生の責任ではないと思うよ。私がいるのを知っていたら先生も残ってくれたかもしれないし」
「まあ、過ぎたことをいつまでも言っても仕方ないよね。ところで、珠希ちゃんはお昼食べた?」
「まだ食べてないよ。今日はお母さんも忙しかったみたいでお弁当が無いんでパンでも買おうかなって思ってたところだよ」
「それならちょうどいいかも。私がこの前見つけた美味しいパン屋さんがあるからそこに行こうよ。すぐ近くに新しいお店が出来てみんなそっちに行ってるから空いてると思うし、今のうちに行こうよ」
「学校の外に出るのって大丈夫なの?」
「大丈夫じゃないかな。珠希ちゃん一人じゃなくて私もついてるし、何かあったとしても私が護るからね」
何もないのが一番なのだが、イザーがそこまでいってくれるのなら安心だろうと思った工藤珠希であった。
一応、野城君にも何か買ってくるか聞いてみたのだが、彼はお弁当を持参しているという事なので特に何も必要ではないという事だった、
昼休みとはいえ、学校を抜け出すことに多少の後ろめたさはあったものの、校門にいる生徒指導の教員は工藤珠希と一緒にいるのがイザーだという事を確認すると特に何かを言う事もなく送り出してくれた。
「パン屋さんに行くってうまなちゃんに言うの忘れてた。今から戻ってしまったらパンを食べる時間も無くなっちゃうし、事後報告でもいいよね。何か文句言われても困るから、一応メッセージを送っておこうかな。珠希ちゃんは太郎ちゃんの分も買うの?」
「買わないよ。太郎は太郎で何か食べるでしょ。お弁当が無くても誰かが分けてくれると思うし、小さな子供じゃないんだから大丈夫だと思うよ」
「そうなんだ。太郎ちゃんなら何とかなりそうだよね。無人島とかでも一人で無事に過ごしてそうな予感はあるよ」
「さすがにそれは無理じゃないかな。太郎だって無人島に一人って状況なら何も出来ないと思うよ」
「それくらい適応力があるんじゃないかって話だよ。今回も色々なところでみんなのために頑張ってくれているしね」
新しく出来たというパン屋さんは多くの人でにぎわっているのだが、その少し離れた場所に目的のパン屋さんがあるのだ。
お世辞にも綺麗とは言い難い店構えではあるが、言い換えるのであれば老舗のパン屋とでも言えるだろう。決して新しくはないが時代のかかった良い店構えである。そう思えば気にならないかもしれない。そんな個性的な店構えであった。
いつのまにかいなくなっていたって
「珠希ちゃんがどんなパンが好きなのかわからないけど、どれを選んでも間違いないと思うから安心してね」
「うん、楽しみにしてる。私、スーパーに入ってるパン屋さんしか行ったことないからこういう店は初めてかも。ちょっと緊張しちゃうね」
「そんなに緊張することないって。お店のおばさんもいい人だし、パンを焼いているおじさんもいい人だから大丈夫だよ」
「ちょっと待ちな。今からそのパン屋に入ろうとしているそこのお前、変な真似をしないでこっちを向きな」
扉に手をかけようとしているイザーに向かってセクシーなお姉さんが声をかけてきた。
つい最近もこのお姉さんを見たような気がしていた工藤珠希ではあったが、服装が似ているだけで顔は全然違うなと思っていたのであった。
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