第17話 死活問題
間接キスに時間差で気付くという事故もあったが、藤咲はしっかり詫びプリンをたいらげて機嫌を直してくれた。
俺の中で○○咲シリーズは恒例化しつつあるが、あんまり本人に直接言うのは控えよう。とくにダメ咲。ダメなところを見るとつい言ってしまいそうになるが、ダメ咲にダメダメと何度も言って、ぷく咲通り越して拗ね咲になってしまうと面倒くさいということが分かったのでこれを教訓にしよう。
しかし、詫びプリンというデザートを夕食前に提供してしまったので、夕食のタイミングが悩ましいな。
ガッツリ腹に溜まるものではないが、甘いものを出した後にすぐ夕食というのも気が引ける。
「藤咲、晩ご飯のタイミングはどうする?」
「あー、そっか〜。プリン食べちゃったし、ちょっとだけ待ってもらおうかな」
「ん、りょーかい」
たかが小さめのデザートといえども、空腹時に食べればそれなりの満足感がある。
……まあ、俺はちょっとしか食べれなかったからそこまででもないが、ほぼ2人前食べた藤咲は意外と腹にきてるのかもな。
さて、待つぶんには全然問題ないが、何をして暇を潰そうか。
掃除は……見たところそんなに必要ないか。
昨日の今日で汚部屋に早変わりしないのは本当に助かる。
「藤咲、課題やりたいからここ借りるぞ」
「あ、私もやるー」
空き時間を有効に使うために、俺は本日の授業で出されていた課題を処理することをした。
筆記用具と教科書、ノートを取り出し、食卓としても使用しているテーブルに広げると、ソファでおくつろぎだった藤咲もやってきた。
まあ、同じクラスだし当然同じ課題が出ているわけだが……なんかこう、偏見で申し訳ないが、藤咲はそういう課題は後回しにして、授業前の休み時間に慌ててやり始め、結局間に合いそうになくて隣の席の生徒にノートを写させてと頼むタイプだと思っていた。
いや、ほんとに偏見が過ぎるな。
「まさか藤咲が課題を溜め込まないとはな……」
「ちょっと? どういうことかな?」
「え? あっ……もしかして口に出てたか?」
「しっかり出てたよ!」
しまったな。
心の中で呟いたつもりがついうっかり口に出てしまったようだ。
つい先程藤咲の機嫌を損ねないように心掛けようとしたばかりなのにな。だが、まだぷく咲形態。挽回の余地はある。
「いや、夏休みの部屋の散らかり具合とか見ると、面倒なことは後回しにするタイプなのかと思ってな」
「……そう言われると弁明できないかも。でも、勉強は嫌いじゃないし、課題とかはちゃんとやらないと成績に影響するから面倒でもやるよ」
「なるほどな」
後回しにして溜め込んだあとにリカバリーが効くかどうかってことか。
家はどれだけ散らかしても、頑張って掃除片付けすれば元に戻せるが、成績は一度確定してしまったらもう覆せない。
まあ、藤咲、もといダメ咲はそういうの関係なく、ただ家事ができないだけか。
「課題の提出も成績に反映されるし、ちゃんとやらないとね」
「そうだよなぁ。俺もある程度の成績は維持しておかないとまずいか」
「何がまずいの?」
「最低限の成績を維持できなかったら一人暮らしが危うくなる」
「あー、確かに?」
学業に支障が出てしまうと、一人暮らしという環境が問題視されてしまう。
一人暮らしで大変だから、勉強ができませんという言い訳は通用しないのだ。
そういう意味だと藤咲はすごいな。
こんだけ家事ができなかったら実家に強制送還されてもおかしくないのだが……あんまりそういうこと考えるのはやめておくか。
またうっかり口に出たらまずいし。
「成績悪くなったらやっぱり一人暮らしは解消?」
「んー、どうだろうな? いきなりってことはないだろうけど、そういう状況が続くとさすがに実家に強制送還されるかもな。そうなったら藤咲との契約も解除か」
「えっ!? な、なんでっ!?」
「なんでって……そりゃ、実家からだと気楽に通えないしな」
今は住んでいる場所が近いため、こうして放課後などにも寄り道感覚でお邪魔して、契約の履行ができるが、一人暮らしでなくなるとそうもいかない。
こうして俺が藤咲と契約関係であれるのは、親から与えられた自由があるからである。
「それは死活問題だよ! そうならないように私が勉強見てあげるから安心してね?」
死活問題……まあ、藤咲にとってはそうかもしれないな。
それほどまでに、俺の作るご飯が必要不可欠だと思ってもらえているのは嬉しいのだが……。
もしや、藤咲は俺の成績がヤバいと勘違いしているのだろうか?
とても必死な様子で、俺の手を握りこみ、任せてと力説してくるが……別にそこまで心配されるほど勉強ができないわけじゃない。
というか、藤咲は人の勉強の面倒を見ようとする前に、自分の私生活の面倒を見ようとしてくれ。
「……今のところ勉強についていけないということはないが……困ったら藤咲に助けてもらうことにするか」
「うん! 任せて!」
「……だからな? 手を離してくれないか?」
「……えっ? あぅ……つい勢い余って……すみません」
別に謝られるような事でもないが……買い出しに行くときもそうだったが、今日はやけに手を握られてドキドキさせられてるな。
おのれ、照れ咲。今から課題をするのに集中を乱してきやがって……と思ったが、藤咲の方がダメージでかそうだな。
自分から触っておいてそんなに慌てふためくなよ。
「……んじゃ、やるか。課題終わったら飯にしよう」
「うん! 爆速で終わらせないとね!」
もう腹減ったのかよ……。
じゃあ、急いで終わらせて、晩御飯作らないとな。
◇
「ふー、お腹いっぱい~。今日もごちそうさまでした~」
「お粗末様。なんか改善点とか、もっとこうしてほしいとかあったら聞くぞ?」
晩ご飯を食べ終わり、皿洗いの手伝いをしてもらいながら、本日の料理への感想を求める。
おいしいと言って食べてくれていたので満足はしてもらえていると思うが、ちょっとした藤咲の好みとかだな。
濃い味付けが好き、もっとさっぱりがいいなど、食材の好き嫌い以外のことだったら意見してもらっていい。よりおいしく食べてもらうために必要なアンケートだ。
「えーっとね、白柳くんはもっと私に優しくした方がいいと思う」
「……料理について聞いたんだが? 藤咲の扱いについては受け付けてない」
主にダメ咲と言われたことについての抗議だとは思うが、残念ながらそれはアンケート要項対象外だ。
そのため無効票として処理された。
「えー? じゃあ、今日はデザートがあって幸福感が段違いだったので、たまにデザートもある日があるとハッピーかも」
「デザートな。りょーかい」
確かに食後のデザートはなんか特別感があるよな。
今回は拗ね咲への詫びとしてだったが、要望に沿ってたまに用意してやってもいいかもしれないな。
……俺もデザート食いたいときあるし。藤咲の家で作るのは費用負担ないから作り得だし。
そんなアンケート談義をしながら洗い物を終わらせ、本日も藤咲家を後にすることになる。
今日は課題も終わってるし、帰ったらゆっくりできそうだな。
「うし、じゃあ今日もありがとな」
「こちらこそごちそうさまでした」
「明日の朝の分は冷蔵庫に入れてあるからチンして食べるように」
「うん、ありがと。お肉おいしかったから楽しみ」
「んじゃ、また明日……な」
「明日のご飯も楽しみにしてるね~」
そんな事を言いながら手を振って見送ってくれる藤咲の姿を、扉が閉まるまで眺めていた。
そう言われたら明日のメニューもちゃんと考えないといけないが……。
「げっ、明日雨降るのか……」
放課後の予定を決めておこうとスマホを開くと、天気予報のウィジェットが目に入った。どうやら明日は一日雨が降る予報みたいだな。
雨の中買い物は行きたくないし、今藤咲の家にあるもので作れるメニューを考えとかないとな。
ま、藤咲がタイムセールで確保してくれた物もあるし、なんとかなるか。
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