第12話 放課後の過ごし方

 買い出しを終え、藤咲家に直行。

 1度帰るかどうか悩みはしたが、どうせまた来るのならそのままお邪魔しちゃってもいいかと思い来てしまったが……晩御飯を出すにはまだ少し早いため、どうしたもんかな。


「藤咲の放課後の過ごし方はどんな感じなんだ?」


 買った食材を整理し、冷蔵庫に詰め込みながら、リビングでだらしなくソファに身体を沈めている藤咲に問いかける。


 俺も一人暮らしをしている都合上、帰宅した後の時間を持て余すこともある。

 藤咲は……まあ、言っちゃ悪いが家事とかしなさそうだし、俺よりも時間を持て余してそうだなという偏見があるので、どう過ごしているのかちょっと気になった。


「えー、ダラダラしてるよ」


「見たまんまだな」


「逆に白柳くんは何してるのさ? 勉強?」


「料理の仕込みとか、掃除とかだな。スキマ時間があると、そこでなんか処理できないかと考えちゃうんだよ」


「……ふふん、私には真似出来ないね」


 どや顔の藤咲、略してどや咲だな。

 そんな胸を張って自慢するようなことでもないのだが、どや咲の胸を張ってる姿はなんというか……眼福ではあるので、どうぞそのままどやどやしていただきたい。


「というわけでこのスキマ時間を利用して掃除でもしようかと思ったんだが……アレだな。部屋、思ったより綺麗だな」


「思ったよりって何かな? 昨日の来てるから知ってるよね?」


「だからこそだろ。あんだけ散らかせるってことは一日おきにえげつない変化でも起きてるんじゃないかって思ってたよ」


「あれはっ……夏休みだったからしょうがないというか……誰とも会わないしつい油断しちゃってたの」


「今は?」


「今は……白柳くんが来るから、ちゃんとしないとなーってちょっとは思ってるよ」


「ちょっとかよ」


「うん、ちょっと」


 どや咲……成長したな。

 俺は嬉しい。ちょっとでもそういう意識を持ってくれているというだけでもう感動のあまり涙してしまいそうだ。


「白柳くんのアドバイスが効いてるのかもね。手遅れになる前にちょっとずつ頑張るだけで、なんかこう……時間稼ぎできてる気はする」


「大惨事になる前だと、手を付けようと思えるハードルも低いからな」


 俺の定期訪問を機に、変わろうとする藤咲は素直に応援する。

 ぜひその調子で汚部屋化をわずかでも食い止める努力をお願いしたい。


 まあ、やってることといえば、脱いだ服は洗濯機にとか、ゴミはゴミ箱に捨てるとか、そういうの当たり前のことだが、今はそれだけでもありがたい。


 そんな当たり前のことを放棄したツケがあの惨状だ。

 あのカオス状態はあんまり見たくない。

 藤咲との契約でここに来る頻度も増えるので、来る度に汚部屋とかだと困る。


「じゃあ、軽く掃除機でもかけようかな」


「いいの?」


「せっかく藤咲が床に物を散らかさないようにしてくれてるから、掃除機もかけ得ってもんだ」


 初めの家事代行の時は、掃除機に辿り着くまでが大変だったもんな……。

 床に物が少ないというだけで、こんなにも掃除機はかけやすい。


 そうして隅々まで掃除機をかけて……最後は藤咲の寛いでいるソファ周りだが――。


「あ、ごめん。ここかける? これでいけるかな?」


 藤咲は足を浮かせて、足元に掃除機を通せるようにしてくれたのだが、いかんせん足を上げた姿勢というのが際どいというか……無防備極まりない。

 てか、そんなに浮かせたら……見えてるって。


 床が綺麗になり、不意の下着発掘に怯える必要はなくなったと思っていたが、まさか直接とは……。

 こいつ、男が部屋にいるっていうのに油断しすぎだろ。


「……やらないの?」


「……見えそうだから下ろせ」


「見えそう? 何が?」


「いいから」


「ひゃあっ!? なっ、何?」


 悪いとは思ったが藤咲が浮かせている足を掴んで下ろした。

 急に触られたことで驚いた藤咲の足が暴れて余計に危ないことになりそうだったが何とか耐えた。


「ななな……急に何かなっ!?」


「……足を浮かせたせいでその……スカートの中が見えそうだったんだよ」


「……見た?」


「……見てない」


「……見たでしょ?」


 一応見えてはいないという体で誤魔化せないか試みたが……見たかどうかと尋ねられた際に動揺が顔に出てしまったから言い逃れはできなさそうだ。

 仕方ない、白状するか。


「……見たというか、見えたというか……強いて言うなら見せられた」


「見せられたっ!?」


 見えてしまったのは事実だが、見ようと思って俺の方から覗き込みにいったとかでは断じてない。

 そう、無防備にも足を上げて、見せてきたのは藤咲の方だ。


 だからな、ぷく咲。俺を睨むのはお門違いなんじゃないか?

 油断しすぎたのは藤咲だからな。


「……でも、急に女の子の足を触るのはよくないんじゃないかな?」


「それは悪かった」


 それはそう。

 それに関しては緊急措置だったとはいえ、許可なく女子の身体……しかも生足に触るのは良くなかったと反省している。


「……ん。つまらないもの見せちゃって私もごめんね」


「つまらなくはなかったが」


 見せられたと言い方になってはいるが、それが罰とか、マイナスよりのイベントだとは思ってない。

 俺も健全な男子高校生だからな。

 ラッキースケベはご褒美である。


 ただ……余計なことを言う必要はなかったな。

 いやでも……ここで肯定してしまうとそれはそれで藤咲の機嫌が……。

 前にもなんか下着の持ち方云々で不満を垂らされたし……どう対応してもぷく咲確定演出かよ。


「いちいち言わなくていいの! もうっ、着替えてくる!」


 ぷく咲は制服のまま寛ぐは危険だと理解したのか、パタパタと足音を鳴らして着替えに出ていってしまった。

 その後、着替えて戻ってきた藤咲は楽な格好をしており、下はドルフィンパンツとかなり足を出している。

 ここは藤咲の家だし、家主がどんな格好をしようと俺に咎める権限はないのだが……下着が見えなきゃいいってもんじゃないだろ……。


(藤咲の足……なんかえろいな……)


 さっき足に触って意識してしまったからかな。

 なんか目のやり場に困ってちょい気まずかった。

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