第11話 餌付け
放課後。
帰りにスーパーに寄っていこうと思っているので、その前にある程度献立を決めておきたい。
シンプルなオムライスが続いたので、ここらで少し凝ったものを作ろうと思うが何がいいだろうか。
(デミグラス……いや、クリームも捨てがたいな)
よし、今日はきのこのクリームソースをかけよう。
連日のオムライスリクエストは想定外だが、オムライスといっても種類は豊富。
ソースを工夫すれば、藤咲も飽きずに楽しめるはず……って、早くもオムライスのイメージが定着しつつあるな。
オムライスというか、卵系統の料理は割と自信がある方だが……そこまで気に入ってもらえるとはな……。
まあ、喜んで食べてくれるのならいいか。
藤咲がリクエストしてくれれば、基本的に俺も同じメニューを食べることになるし、卵は栄養価も高いからありがたい。
付け合わせは……無難にサラダとスープか。
本日のメニューにリクエストは受けていないし。確定枠は藤咲をぷく咲にしてしまった詫びオムライスだけなので、他は俺の自由だ。
単品オムライスでもそれなりのボリュームはあるが、俺の目が届く食卓では藤咲に栄養を取らせたいという個人的な思いもある。
まあ、藤咲は思いのほか食べるというか、見ていて気持ちの良い食べっぷりを見せてくれるので、つい色々食べさせたくなってしまう。
……さては餌付けかな?
「うし、こんなもんでいいか」
「何がこんなもんなの?」
「うおっ……藤咲……!? いつからそこに……?」
大体のメニューを決め、あとはスーパーで食材を見ながら確定させることにした。
そうして下校しようとして立ち上がると……藤咲が声をかけてきてビビった。
え、いつからいたんだ?
「結構前からいたよ。白柳くん、声掛けても気付いてくれなかったけど……何をそんなに真剣に考えてたの?」
「悪い、全然気付かなかった。今日のご飯、オムライスの他に何を作ろうか悩んでたら集中しちゃってたな」
「そっか。そんなに考えてくれてるなら期待が膨らむね」
「まぁ、交換条件だからな。藤咲に満足してもらえるように手は尽くすさ」
「楽しみ」
そう言ってくれるのはありがたい。
その期待に応えられるように頑張らせていただきます。
「……って、俺に声掛けてたって言ったか? なんか用でもあったか?」
「え、いや……帰ろって」
「ん?」
「帰るから……待ってたんだけど」
あれ?
もしかしなくても、一緒に帰ろうとしていらっしゃる?
「別に待たずに先帰ってもらってよかったんだぞ? 時間になったらこっちから伺うし」
契約内容は確かに毎日放課後藤咲の家にお邪魔するものになっているが、別に学校から直接行く約束はしていないはず。
一度家に帰ったり、買い出しを挟んだり、そういうのがあるかもので、必ずしも藤咲家に直行する訳ではない。
「…………むぅ」
おや、ぷく咲になってしまった。
怒らせるようなことを言ったつもりはこれっぽっちもないのだが……さては藤咲――。
「俺と一緒に帰りたかったのか?」
「……別にそうは言ってないけど。ただ、行き先は同じなんだから、一緒でもいいかなって」
「そうか。一緒に帰りたくて待っててくれてたのか」
「そうは言ってない」
「えー」
「……帰る」
ぷく咲、拗ねた。
面白がって少しからかってしまったため、ぷく咲は鞄を持って教室から出ていってしまう。
その数秒後、開きっぱなしの扉からこちらを覗く陰が……。
目が合ったら引っ込んだ。あ、出てきた……引っ込んだ。
見ていて面白いが、この藤咲の奇行は傍から見れば不審者極まりない。
そろそろ止めるか。
「ほら、帰るぞ。いつまでそうしてるつもりだ」
「……ん」
「買い出し寄るけど藤咲も来るか? 卵のタイムセールやってるから、手伝ってくれると助かるんだが」
「……行く」
こうして、藤咲を拾って帰路に着く。
仲間になりたそうにこちらを見ている藤咲をパーティに加えたことで、下校は退屈しなさそうだ。
◇
藤咲と下校。そして買い物。
制服姿で並んで練り歩く俺達の姿は、他の人からはどう映っているのだろうか。
藤咲はそういうのは気にしないタイプだろうな。
気にするような性格だったら、俺を待って帰るなんて選択肢は出ないはずだし、こういった買い物についてくるようなこともしないだろう。
女子はそういうの結構気にする奴もいると思う。
異性と一緒にいるだけで冷やかしの対象になるなんてことも、俺達くらいの年齢ならあるあるだし、いわゆる変な噂が立たないようにガードを固めて立ち振る舞うやつもいる。
そういう意味だと……藤咲はかなりガードが緩いな。
しかも、放課後に男を家に上げるわけだから、字面だけ見ると中々……。
でもそれは俺にだけ許されたもの。
(そう考えると、俺ってほんと役得すぎないか……?)
夏休みの家事代行をきっかけに接点を獲得し、席替えでは隣人の座を獲得したからか、藤咲奏音という美少女に対する解像度が高まる。
うっすらと紫がかったウルフカットのショートヘアはとてもよく似合っていて、左サイドの編み込みによって片方だけ耳が出ていることで、クールさとかわいさを両立しているように思える。
そして、顔がいい。
若干タレ目だが、きりっとした目元。通った鼻筋。
普通にしているとクールな印象の顔立ちだが、笑うとタレ目のおかげで目尻が下がって見えるからか、笑顔をとてもかわいい。
身長は……160センチくらいか。
細身でスラっとしているが、出ているところはきちんと出ており、スタイルもいい。
こんな美少女なのだから。密かに人気があるのも当然。
むしろ、密かにで済んでいる方がおかしいほどだ。
そんな藤咲が、当然のように隣にいるこの現状。
それをありがたいものなのだと再認識した。
「藤咲ってやっぱ学校だと人見知りしてるのか?」
「……それなりに。もう少し笑顔で話すことができればいいなって思うんだけど、緊張して固くなっちゃうから頑張らないと」
「え……?」
「な、何……?」
「……いや、なんでもない」
確かに普段の藤咲は大人しめで、クールな印象だが……そういう自己分析をしている割に、俺にはふにゃっと……自然な笑顔を見せてくれているのは気のせいだろうか。
むしろ、結構表情豊かというか……ぷく咲とかもそうだが、顔がうるs……賑やかな印象が拭えないな。
美少女なビジュアルとは裏腹に、中身は残念という秘密もあるが……それと同じく俺にだけ見せてくれているのだろうか。
「……何かな? さっきから見すぎ」
「……藤咲はそのままでいいぞ」
「どゆこと?」
「無理せず、自然体でいてくれって話だ」
「意味わかんないんだけど」
「……なんでもない。忘れてくれ」
「気になるー。教えろこらー」
俺の中では繋がっている話だが、藤咲はよく分かっていないのか、頭の上に疑問符を浮かべているような表情だ。
そこで話を切り上げられたからか、続きを話せとぽかぽか叩いてくる。
そんな姿もまた……藤咲のレアな姿である。
「ほら、俺に暴力ふるってないで、タイムセールの卵を確保してきなさい。頭数増やすために働いてもらうぞ」
「任せて……! いくらでも確保してくるからね……っ!」
「一人一パックまでだから二つな」
「はーい」
とりあえず、今日の晩御飯でもレアな姿を引き出せるように頑張らないとな。
な、オムライス大好き藤咲さん?
◇
ご愛読ありがとうございます!
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