第5話 始まりのオムライス
キッチンを借り、オムライスと……玉ねぎが余りそうだから、キャベツも入れてコンソメスープも同時に作ることにする。
中々いい調理器具を揃えてあるな。しかも綺麗だ。この綺麗は……お手入れが行き届いてるのではなく、使ってないからなんだろうなとひと目で分かる。
スープはぶっちゃけ具材を入れて、キャベツが柔らかくなるまで煮込むだけなので、具材を入れた鍋を火にかけていれば、オムライスができるまでコトコトさせておこう。
次は、野菜にちゃんと火を通すんだぞ〜。でも、焦がさない程度にだぞ〜と脳内で藤咲に言い聞かせながらチキンライスを作っていく。
(藤咲のアレ、味付けしてたのかな?)
藤咲のチキンライスはケチャップしか感じなかったから、塩コショウなどで味を整えるのを忘れていた……というか、そもそも味の確認すらしてないか。
してたらアレをちょっと失敗で済ませるなんて図々しいことできないだろうし。
「うん、いい塩梅だ」
さっとチキンライスを作り、お皿の上で形を整えたら……いよいよ大本命。卵を割ってかき混ぜる。
今回はせっかくだし、パッカンする方でいくつもりだ。
せめてものお詫びというか……オムライスをリクエストしてしまった贖罪だな。
ぶっちゃけ俺の中でオムライスはそこまで手のかからない……言ってしまえば簡単な部類に入る料理だった。
そう考えて、簡単なものをリクエストしたつもりだったのだが……藤咲にいきなりオムライスは厳しかったな。
卵かけご飯とかにしておくべきだったと反省している。
そんなふざけたことを考えながらバターをひいたフライパンに卵を投入し、箸でぐるぐるとかき混ぜながら、端を中に巻き込むようにして火を通していく。
ある程度固まってきたら大詰め。ここで失敗したら形が崩れてしまって見た目が悪くなるが、卵の状態もいい感じだし、問題なくいける。
フライパンを持ち手をトントン叩いて、卵の位置と形を微調整して……ひっくり返す。
うん、我ながら上出来。これがオムレツの本来あるべき姿。このオム肌に黒はやはり似合わないな。
おそらくふわふわトロトロに仕上がっているプレーンオムレツを先に盛り付けておいたチキンライスの上に慎重に乗せ……仕上げは藤咲にやってもらうか。
「お待たせ」
「え、早っ……てか、上手くない? しかもこれって……パカーンってするやつ?」
「そうだ。藤咲にやってもらおうと思ってな。中心に浅く切れ込みを入れるだけでいい。真っ二つにしないように気を付けろよ」
「えっと……こう?」
藤咲はおそるおそるナイフの先でオムレツの中心に切れ込みを入れる。
そこからぱっくりと流れ落ちるように、チキンライスを包み込むように開いた。
「うわぁー、すごーい。やばー……白柳くん、さては天才?」
「まぁ、これくらいはな」
純粋なキラキラした眼差しで褒めちぎられてなんだかむずがゆいが、藤咲が喜んでくれたようで何よりだ。
「スープよそってくるから、冷める前に食ってていいぞ」
「え、スープもあるの?」
「適当に作ったコンソメスープだけどな」
「この短時間で……本当すごいな。えっと……じゃあいただいちゃうね?」
「スープはおかわりあるし、チキンライスもまだあるから食いたかったら言えよ」
「うん、いただきます。おいしっ、なにこれっ!? お店出せるよっ! 私毎日通っちゃうかも」
「大袈裟だな」
「大袈裟じゃないよ〜。ほんとに美味しいんだから!」
藤咲はにこにこと頬をほころばせながら、口いっぱいにオムライスを頬張り、1口食べる事に美味しい美味しいと褒めてくれる。
何気にこうして人に料理を振る舞うのは家族を除けば初めてだが、喜んで食べてもらえるのってすごい嬉しいもんだな。
「スープも美味し〜。毎日飲みたくなる〜」
「毎日コンソメスープは飽きるだろ」
「えー、こんなに美味しかったら毎日でも飲みたいよ?」
ほんと、絶賛してくれるな。
結局俺が作ってしまったが、こうなるならご相伴に預かる選択をして本当によかった。
女子の美味しい手料理はなかったが……これはこれで本当に嬉しい。
「おかわりいいかな?」
「どっちだ?」
「どっちも!」
「あいあい、ちょっと待ってろよ」
いい食べっぷりだな。
オムライスもスープも完食して、早くもおかわりを要求してくるとは……。
じゃあ次は、ドレスドオムライスでもやるか。
◆
「お腹いっぱいだ〜。ご馳走様、とっても美味しかったよ」
「お粗末さま。そりゃよかったよ」
藤咲が満足いくまで食べさせ、後片付けを終えて一休み。
お腹を擦りながらだらしなくソファに身を投げ出す藤咲は目のやりどころに困る。
しかし、晩飯も食い終わったってことは……帰らないとな。
結局飯も作ることになったし、掃除洗濯買い出し料理と本当に家事代行サービスフルコースみたいな感じだったな。
「んじゃ、そろそろお暇させてもらうわ」
「あ、そうだよね。もうこんな時間かー、なんかあっという間だったね」
半日近く藤咲といたわけだが、確かにあっという間だった。
主に掃除に時間がかかったからだが……振り返ると楽しかった……いや、下着発掘も含む掃除を楽しかったは変態チックだな。やっぱ無しで。
「じゃあ、せっかく綺麗にしたから、維持できるよう頑張れよ。もし、どうしても散らかるようだったら、今日みたいな惨状になる前に、早めに家事代行サービスを利用するんだな」
「……その時はまた白柳くんに頼んでもいい?」
「え、ああ……藤咲は女の子だし、ちゃんとしたところに頼んだ方がいいだろ」
「あ……そ、そうだよね」
正式な家事代行サービスの方が金銭面のこともしっかりしてるだろうし、希望すれば女性の家事代行を頼むこともできるはずだ。
それなら下着などを見られるのに抵抗も幾分かマシになるだろうし、男を家にあげるリスクも無くなる。
それに、今回のこれはあくまでも単発バイトのようなものだ。
金欠の俺に母さんが紹介してくれたものだし、金は母さん経由でくるため、正式なバイトと違って色々と不明瞭なところが多い。いくら貰ってこのバイト斡旋してくれたのか俺も知らないし。
だから、もし藤咲が今後も継続的に家事代行サービスを利用するつもりなら、やはりお金に関するやり取りははっきりしてる方がいいだろう。
「ま、そういったサービスとは別に、友達としてちょっと片付けとかを手伝うくらいならやってやってもいいけどな」
「え……?」
「あ、いや……たった半日顔を合わせただけで友達面するのはキモかったか?」
「そ、そんなことないよ! 私達、もう友達だよ!」
それはよかった。
これで、たった半日の付き合いで友達面してくる痛いヤツだと思われてたら、恥ずかしすぎて3日間くらい寝込むところだったかもしれない。
でもまあ、そういうことだ。
変なしがらみのない友達付き合いとして、仕事でもないでもないただのお手伝いとしてなら、たまにならやってやってもいい。
だが、たまにだぞ?
さすがに二週間置きで今日レベルの片付けを要請されたらさすがにブチギレるかもしれないが……それは足の踏み場のある床最長記録更新を目指して頑張ってもらうしかないか。
「じゃあ、どうしても困ったら白柳くんに相談するね?」
「おう。相談しなくて済むように是非とも頑張ってくれ」
「うん、じゃあ……また学校でね」
「ああ、またな」
そう言って藤咲に見送ってもらい、藤咲家を後にした。
今日の一番の報酬は藤咲の……普段学校では見せない顔を、たくさん見れたことなのかもしれないな。
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