第41話 「あっ、ちょっとちぬ——」
始まったライブ。ステージの上で踊り、歌う彼女たち。
そんな中で私の目も、心も奪ってしまうのは、やっぱり彼女。
“——離さないで ワタシのことを——”
今日の
まだキミワタの途中だっていうのに、私にはもう、すごいという言葉以外出てこなくなってしまいそうなくらい、すごい。
軽やかで可憐に刻まれるステップ、指先まで表現力に溢れた振り付け、伸びやかで透き通るような歌声。それでいて、メンバーとの調和を外さないりりちらしさ。
“——重なる視線 伝えて 大好きをキミに——”
先々週までは落ち込んでいたと言われても信じられないくらい、完全復活したパフォーマンス。……違うんだ。今こそが全盛期なんだって確信させる、最高のアイドルがいまステージに立ってる。
すごい、すごいよ、りりち。……なんか、泣けてきちゃうよぉ……!
あぁでも、最高だからこそ、私はあの姿をこの目に焼きつけなきゃ。感極まって泣くのはしょうがない。けど、涙に負けて推しの姿を見れなくなるなんてのは、オタクとしての気合いが足りないよね!
“キミワタ”がサビに入る。今こそりりちが一番可愛い時、なら私は!
“——キミだけに ワタシの恋をあげる——”
あっ。
今。
りりちが。
私を見てくれた。
……し、私信だよぉお! あの可愛いという言葉を何度重ねても足りない猫目が、私の目ごと心を撃ち抜いてきたよぉお!!
私がりりちを見つめる時、りりちもまた私を見つめてくれる……! り、りり、両想いってやつぅ? いやぁ、ててて、照れちゃうじゃーん!
こんなに心臓も、苦しいくらいドキドキしちゃって。まるで私が“ガチ恋勢”みたいな……あれ……私って、ガチ恋だったっけ?
だって、私は恋愛なんかした事なくって、そういう意味での好きとかはよくわかんなくって。だからガチ恋って聞いても、正直ピンと来てはいなかった。
でも、なんでだろ。今日のりりちを見てると、すごい胸が、きゅーっと締めつけられるみたいなんだけど、でも、それが……。
“——どうかお願い キミも重ねて ここから先へ——”
……あっ……キミワタが終わっちゃったぁ。
あー、もー! せっかく、りりちメインの曲だったのに! 余計な事を考えるなよ、小仁熊雪奈!! キサマはペンライトを振って、コーレスするだけのオタクであれ!!
再びステージが暗転して、ポジションは……シズカ様がセンターで、ミウ姉とりりちが二列目だ! やった!!
だとすると、カッコいい組の代表曲である“Sync !!!!!”だ! ポップなキミワタと対を成すロックテイストな曲。私にとって嬉しいのは、間奏で“りりちのアクロバット”が飛び出すんだ!!
エス=エスは5人それぞれの個性がはちゃめちゃに強いから、メインメンバーに合わせて曲の方向性を変えるんだよね。彼女たちの個性がシンクロして、多面的なシンフォニーを奏でるアイドルグループ。それこそ、エス=エスの良さの一つってわけ!
りりちはカワイイメンバーでもあるけど、ダンスが得意で猫っぽいクールさがあるから、カッコいい系の曲にもメインとして選ばれるんだ。流石だよね、私の推しは。
“——Are you ready?——”
……うーむ。この曲の歌い出しはいつ聴いてもこう、エロカッコいいというか、センシティブというか。
光で溢れたステージの中央に躍り出るのはやっぱりシズカ様。彼女の視線に晒されて、また私の周りで倒れていく女子の気配。
むーにゃさんも私の肩に掴まって耐えてる。ライブ前、私に向かってうぶな反応がどうとか言ってた人とは思えないくらいやられてる!
“——聞かせてよ 貴方の声を 世界ごと 壊すほどに——”
オタクのテンションも二曲目にして上がりきってる。やっぱりノリやすい曲は自然、会場の熱を高めてくれるね! だからむーにゃさんも頑張って! あんよがじょーず! あんよがじょーず! ほら、サビに入るよぅ!!
“——高らかな歌声を さあ今!——”
盛り上がりきったサビが終わって、いよいよ間奏だ!
“みんな、もっと声出せ! 盛り上がるよ!!”
焚きつけるね、シズカ様! でもそろそろあなたの担当が限界です! 二曲目なのに、まだ二曲目なのに!!
「むーにゃさん、大丈夫?!」
「アタシゃ、もうダメだよ……骨は拾っておくれや……」
「ごめんね! これからりりちのダンスだから! 拾ってあげらんない!!」
「ひ、ひでぇよぉ……」
そんな事を言ってる間に、ダンスパートだよ!
激しい振り付けに汗をかきながら、それでも笑顔を振り撒くみんな。
こうやって会場のボルテージが上がった時。いつもなら
……あれ、どうして。上手にいるのが、シズカ様なの? そこは、りりちの、場所なのに……?
そして二人のアクロバットが披露されて、私の見開いた目に飛び込んできたのは……ステージの奥に立ったりりちの姿。
……確かに“ラビスタ”のステージは奥行きがあるよ。でもそれは、助走の取りやすい横幅には及ばないほどしかなくって。でもまさか——
「りりち……!」
——そして、彼女は飛んだんだ。
ほとんど助走もなしに、奥から客席に向かう様に
そして、手前ギリギリからステージ中央に、
そのしなやかな足で床を踏み締めて、天高くピースサインを掲げたなら飛び出すのは必殺の……“りりちスマイル”。
……あは、うーわ、やば。……泣いちゃった、私。
だってあれは、りりちにしかできない事。
誰よりもダンスが得意で、しなやかに身体を動かすことができて、それでいて、ステージの奥行きですら間に合わせられるほどの小柄だから成し得た、りりちだけのパフォーマンス。
そんなの見たら、もう、泣くしかないじゃんか。……良かったね、りりち。もう本当に、大丈夫、なんだねぇ。
ああ、間奏が終わっちゃう。まだまだ曲は続いて、ライブだってこれからなんだ。私は最後まで、見届けるんだ!
その時、またりりちが私を見てくれた。……なんだか恥ずかしいよぉ。ライブで泣いちゃったところを見られるなんて。でも実際には、私を見てるわけじゃ……ない……と、思っていたのに。
飛んできたのは。
大好きで、愛しいりりちの。
ウインクだった。
「あっ、ちょっと
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ここまで『【悲報】アイドルオタクの私氏、推しに尻を揉まれた挙句、抱き枕にされる。』をご覧くださりありがとうございます。
またもやになりますが、あとがきにてお礼をお伝えさせてください……!
雪奈と凛々夏のはじめての一夜が終わり、エス=エスのライブシーンを描いた今。物語が10万字を超えた現在。ここまでお付き合いくださり本当にありがとうございます。
応援してくださったみなさんのおかげで、総合週間ランキングに載る事が出来ました……! ……と言っても、今はまた圏外になってしまったのですが笑
いただけた☆は350点! ブクマは672件! ♡は3,403点も頂戴することができました!
さらにはコメント付きのレビューまでいただけて、もう、感謝のしきりでございます……。
これからも二人の物語を描いて参りますので、お時間ございましたら、お付き合いいただけますよう宜しくお願い致します!
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