第40話 「りりちぃぃぁぁあああ!!」
後光のようにライトの光を背負う五人のシルエットがステージの上に現れて、
はやくこの愛を声に乗せて、私も彼女に届けたい。けど、まだここはグッと我慢。格式ある儀式は守らなければならぬのです。
身体がびりびりと震えそうな声の中でシルエットが動き、その手を掲げて手拍子を打ち出す。オタクをアゲるハンドクラップ、これをするだけで会場が一つになる。ちなみに、ペンライトを持ったままの手拍子はオタクの必須スキルだね。
そしてセンターの一際小さいシルエットが、パッと頭上高くに人差し指を立てて“1”を示した。同時にアップテンポなBGMが流れ、いよいよライブが始まるんだとオタクにわからせるんだ!
そうして、ライトに照らし出されたのは、まず彼女……!
“
黄色担当、天然のふわふわブロンドがトレードマーク、まさしく天使な見た目のモモ先輩! 幼い声から繰り出される名乗り口上が毎回違う事で有名だね!
脱法ロリとも言われる少女然とした容姿が愛らしくって、他の誰とも比較できない圧倒的な個性が魅力! 人気の高さはいうまでもなく、手拍子や多くの歓声に負けないくらい“モモ”コールが飛び交うんだ!
“せんぱいを付けろよーぅ、デコスケどもがー! だよなー、マイ!!”
まだ照らし出されてないうちに名前を呼ばれて焦ったはずなのに、それでもしっかりテンポに合わせて“2”のハンドサインを掲げたのはモモ先輩の隣に立つ彼女!
“
赤色担当、ルビーレッドの髪をハーフアップでまとめた、クラスにいて欲しい青春系アイドルまいまい、こと、マイちゃん!
大きな目は瞬きする度に星を振り撒くみたいに綺麗。親しみやすいキャラクターと相俟って、エス=エスにおいてアイドルらしいアイドルとして、彼女を挙げるオタクも多いよね! だからこそ、モモ先輩に負けないくらいのコールが飛ぶ!
“ありがとー☆ 先に言っておくと、今日の一曲目はキミとワタシのコウキョウキョクだよ☆”
モモ先輩がセンターということで、セトリの一発目は“キミワタ”に違いないとは思っていた。だとすると、次に手を掲げるのは……!
“
り。
り。
り。
「りりちぃぃぁぁあああ!!」
“どーもですっ! 魔王とか勇者とか、ツッコんだ方がいいやつです、これ?”
りりちだぁあ!! りりちだょぉぉおおお!!
今日も艶々な黒いツインテールがアルティメット可愛いね、りりちっ! エス=エスのメイン衣装である学生服風の、アイボリーのブレザーとフリル付きチェックスカートによく似合ってるよ! この衣装はやっぱり、りりちの白くてしなやかな脚の魅力が全面に溢れてて最高だよねぇ! りりちに履かせるのをショートソックスにした衣装さんは非常によくわかってらっしゃる!!
あっ……今日は……今日は、ツインテを大きめリボンで結んでるぅぅぅ!! そんな、そんなの、もう可愛さの権化じゃん!! むしろ可愛いの神様だよぉ!! 今すぐ都内に
今日はなんだか、ツンとしたツリ目はいつも以上にパッチリしてるね! 昨日はよく眠れたのかな? それとも私がりりちの事を好きすぎてそんな風に見えてしまうだけなのかなぁ? どっちかな? どっちもかなぁ?! あのオニキス、黒曜石、ブラックダイヤ……この世界に存在するありとあらゆる宝石に勝る輝きを放つ瞳に、
あぁっ!! 一曲目が“キミワタ”って事はつまり、りりちのあの鈴を転がした様な声で、す、す、す、好きって言われちゃうね!! うわぁ、どうしよう、私、この後も意識を保ってられるかなぁ! りりちの歌声は耳から入って五臓六腑に沁み渡り癒す、そんな万病に効く万能薬的なポテンシャルを秘めてるんだ! その副作用として脳みそを蕩してしまうんだけど、りりちの歌声を聞けるなら些細なことだよね!
でも、りりちは好きっていうのがちょっぴり恥ずかしいんだよね! だからいっつもBメロに入るたびにほっぺ赤くしちゃうんだよねぇ!! そんな乙女なところがやっぱり最高に可愛くって、その分破壊力マシマシなんだ!!
そう、あの白い肌が赤く染まって……っぱ、りりちは可愛いだけじゃないんだよ! 可愛い、カッコいい、そしてセクシーすらも擁する無二のアイドル!! そんな彼女を前にして、私の様な愚かな
ああもう好き! しゅき! 大好き! 愛してる! あいらぶゆー! うぉーあいにー! いっひりーべでぃっひ!! 言葉が足りないくらい大好きだよぉ、りりち!! でも届けるんだ、届いて欲しいんだ。この想いよ! ステージの上のりりちに届けぇぇええええ!! ふわぁぁぁあああああ!!
“
……はっ。りりちへの想いが爆発してしまった。時間にして二秒あるかないかくらいかな。
気付けばカウントは進んで、下手側でくすくすと微笑むミウ姉の番になってる!
三つ編みにした茶髪のロングがよく似合う、おっとりとした美人さん。エス=エスのグラビアクイーンで、体型のメリハリはメンバー内でなんばーわん。さらには性格まで穏やかで優しい、もはや姉系アイドルの到達点がミウ姉だよね! 年下のはずなのに姉呼びしたくなっちゃうくらい!
“リリちゃんは魔法使いとか似合いそうだねぇ。ね、シズちゃんっ!”
さらっとトリである彼女に話を振るあたりもミウ姉らしさ。流石は“特級”、隙がない!
そして今日は右端、だけどカウントダウンのトリを務めるのは彼女!
“
これまでで一番と思えるほど大きい歓声があがる。というより、隣にいるむーにゃさんが叫ぶものだから大きく聞こえるよっ。
深い赤紫のポニーテールを揺らし、涼やかで鋭い眼差しでオタクの心を射抜く、エス=エスのカリスマ、シズカ様!
高身長かつ抜群のスタイルを持ちながら、さらにアイドルの枠組みを超えた歌唱力も備える。モデルや劇団員としても存在感ある立ち姿に、王子様然とした雰囲気を感じて憧れる女オタは数知れず。
むーにゃさんもその一人!
“そうだね、ミウ。でも、きっと何の役でも出来るはず。だって、私たちは!——”
そして、5人全員が色とりどりのライトに照らされた。
年齢、身長、生まれ……個性がまるで違う彼女達が、同じ衣装に身を包んで今、ステージの上でオタク達の視線と声を一身に浴びて、なお堂々と立っている。それを見るとわたしは、いっつも泣いてしまいそうなくらい感動するんだ。
そう、彼女達こそが。
“——シンクロニシティ=シンフォニー!”
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