第26話 「よく出来ましたっ☆」※???視点
今回更新分よりしばらく、『【悲報】アイドルオタクの私氏、推しに尻を揉まれた挙句、抱き枕にされる。』☆200突破記念のお話となります。
第24話より少し時計を巻き戻して、雪奈が独り悲しみに暮れていた時、“彼女”は何を想っていたのか。“彼女”の視点で描くお話を、楽しんでいっていただければ幸いです。
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“相手の事を褒めよう! 自分の事をよく見てくれてるって思ったあの人は、今度はあなたに夢中になっちゃうかも!”
……これはおっけー。わたしとはまるで違う太ももの柔らかさにドキドキしながらも、思いつく限り、目につく限りのステキなところを伝えてみた。
実際にすごく嬉しそうだったし、効果は間違いなくあったでしょ。……伝える度に“
“笑顔で目を見つめてみよう! あなたの素敵な笑顔にあの人もドキドキ! もっと距離が近くなっちゃう!”
……これもおっけー。現場では必ず私信を送る様にしてるし、今日もなんとか笑顔を向ける事ができた。……多分、ここ最近で1番の笑顔だったと思う。これもやっぱりあの人のおかげだと思うと、胸がなんだかぽかぽかする。
“たまには小悪魔を演じてみよう! いつもと違うあなたの表情に、気になるあの人は目を離せなくなっちゃうカモ?!”
……“小悪魔”、かどうかはわからないけど、でも昨日はかなり、積極的になれたと思う。
だって、“こんなチャンスは二度とないかも”って思っちゃったら、どうしてそういう事態になったのかって事もすっかり頭から抜けちゃって、自然と体が動いてしまった。
でも、結果は上々。思わずわたしが照れ隠しを言っちゃうくらい、えっちな視線を向けてくれてた、はず。……わたしより年上のくせして、そういう事を恥ずかしがるのも、可愛いんだよね。ほんと、ずるい人。
いける。これならわたしは、わたしたちは、きっと——
「あはっ☆ ワタシが見て欲しいのは、そのページじゃないんだけどなーっ☆」
——突然、ふわりとした声色で横から突きつけられた言葉に、体がビクッと反応してしまう。……クール、クールに。ここで焦ると、余計ダサいし。
でも、“コレ”を見ていたって知られるのはイヤだから、何かを言われる前にページは閉じる。
しかし相変わらずパーソナルスペースというか、距離感がおかしい人。これを素でやっていて、しかもそういうところが担当オタクたちにウケてるんだから、ほんとにトクな性分だと思う。
「……いるなら、声かけてください。性格悪いです」
「えーっ、酷いよ。雑誌を持ってきたのは、ワタシなのにぃ」
「献本ですよね。自分のグラビアを自慢したかっただけじゃないですか」
「あははっ☆ よく撮れてたでしょ?」
冷えた板張りのスタジオの床、そこに広げた“雑誌”から視線を持ち上げて横に向ければ、声をかけてきた彼女がしゃがみ込んでそこに居る。
ハーフアップで纏めたルビーレッドの髪が強烈に目を惹く、星が浮かびそうな程丸く大きな瞳をもつ女の子。エス=エスの“赤色担当”にして生来のアイドル。
「その見た目で忍者みたいな動きしないで、みなみ」
「あっ。もー、リリちゃん? スタジオに居る時は?」
「……はいはい……マイ」
「よく出来ましたっ☆」
レッスンウェアを着たマイはにこにこ顔で、お姉さんぶった言い回しをする。マイの装いを見ればわかる通り、今わたしたちはダンスレッスンを行なっていて、その休憩中だったりする。
実際のところ、年齢的には一個上なわけだからそう振る舞いたいのはわかる。けど、マイとわたしはエス=エスにおいては同期だし、うちのグループには姉キャラとして最強のミウねぇがいるわけだし、マイのそれはくすぐったいだけ。
そんなわたしの内心を知ってか知らずか、マイはクスリと笑った後、視線を床に置いた雑誌に落とす。
「ワタシの水着は見てくれたんだよね? どうだった?」
「良かったですよ、マイらしい魅力が前面に出ていて。2ページ目の表情なんかが特に」
その赤い髪のように情熱的。流石にすこしポエムっぽいからそんな風には伝えてはあげないけど、マイの良さが現れていたページを示してあげると、わたしの斜め隣にいるマイはわかりやすく顔を綻ばせた。
「あはっ、ありがとっ☆」
「今週も行ってきたんですよね。沖縄は楽しかったですか?」
「うんっ。ちょっと暑かったけど、すっごく海が綺麗だった! これで来週からのライブはもっと頑張れるかもっ」
「グラビアに惹かれるオタクも居るかもですし、ね」
今週のライブはマイ……と、何故かついて行ったモモの二人が、撮影の為に遠出していたから行われなかった。エス=エスは5人グループだからこそ、2人も欠けては成り立たないし。
マイは大きな瞳や笑顔が魅力的な人だけど、その身体つきの起伏は目に見えて富んでいて、すごく……たおやか。だからエス=エスにおいてはミウねぇと並んでそういう仕事が多くって、出来上がった献本を必ずわたしに見せつけてくる。マイに比べて、ちんちくりんなわたしに、わざわざ、いちいち。
正直、マイのそういうところはちょっと腹立つところがないわけじゃない。けど……わたしの中には、マイどころかミウねぇすら超える、ド級のスタイルを有する人が心の真ん中で陣取っているので、マイの挑発なんかは鼻で笑って流すことができるんだ。
「それで、何を見てたの?」
「なにって。ほらここ、このスカートいいなって」
そういって再び開き直した雑誌の1ページをマイに見せてあげる。そこに載ってるのは、わたしが外向けとしてよく着る様な、ふわっとした雰囲気のガーリーファッション。
べつに、こうして誰かに見咎められた時用に、言い訳を準備してたわけじゃなくって、ほんとに良いなと思ってチェックしておいただけだから。
わたしが指で指し示したところを、マイの目が追ってくれる。よし、そのまま何も、余計なことは言わないでよ。
「たしかにカワイイっ。リリちゃんなら似合いそうだねっ☆」
「ですよね。今度、見に行こうかなって」
「じゃあ一緒に行こ! ワタシも夏服を増やしたいからさ」
「良いですけど。マイと一緒に行くと着せ替え人形にされるんですよね。……モモも誘いますか」
「いいねー。それにしても……」
「……なんです?」
「まさかリリちゃんが、恋愛指南を読むなんてね☆」
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