勘違い

@anoko6

第1話

おれは犬が苦手だ。小さい頃に公園で遊んでいたら大きな犬がよってきて、手を噛まれたのだ。別に痛い訳では無かったけれど、小さかったおれは犬が怖くなってしまったのだ。だけど、犬が怖いだなんて他の人にバレたらなんだか恥ずかしい。だから誰にも言わずに自分だけの秘密にしてこれまで生きていた。


これからお話するのは犬が苦手なおれに起こってしまったできごとである。


おれは寝ていた。部活後でとても疲れていて、気づいたら寝落ちしてしまっていたのだ。家にひとりだと思っていたが、なんだかリビングが騒がしい。なんだろうと思い、リビングへと向かった。


「え?」

と思わずおれは変な声を出してしまった。おれは寝ぼけているんだ。そうに違いない。だってそんなわけが無いじゃないか。

「い…いぬ?」

意味がわからない。確かに親にも犬が苦手なことは言ってない。だが、親はペットは買わないといつも言っていたでは無いか。だからおれは安心していたのに。最悪すぎる。

「なんで犬がいるの?」

こんな疑問が湧くのは当然だろう。おれは反抗期で親と最近は全く話さないが、思わず話しかけてしまった。

「保健所に行った時にこの子がいたの。殺処分されてしまう直前だったらしくて可哀想で引き取ってきたのよ。」

と母がいった。

いや確かに殺処分は可哀想だが、家族に許可をとってから行動しろよ!!しかもめっちゃ大きい。ゴールデンレトリバーという犬種だっただろうか。覚えている。こいつは小さい頃おれの手を噛んできた犬と同じ犬種だ。おれは怖すぎて、おれはしばらくの間、親の顔を見ながら固まってしまった。

「いいじゃないか。かわいいなぁ」

と父がいった。なんなんだよ。呑気だな。どうしよう。どうにかして親達の考え方を変えなければこの家がおれにとっての地獄となってしまうに違いない。まずい。おれはいろいろ言い訳を考えた。

「犬なんか拾ってきてどこで飼うんだよ。」

と文句を言った。

すると母親が

「リビングよ。広いし、みんなでお世話するからちょうどいいでしょ。」

と言った。

いやいやおれまだいいって言ってないし、リビングに二度と来ることができなくなってしまう。それは非常に困る。

「散歩とかトイレとかどうするんだよ。」

「今日から私たちの家族なんだからみんなでやるに決まってるでしょ?」

と母がいった。

いやだ。なんでおれが犬の世話なんかしなきゃいけないんだ。でも親に口喧嘩で勝ったことがない。他にも言い訳をたくさんしてみたが今回も親に勝つことができなかった。父も当たり前のように母の味方らしい。そんなわけでおれの家はおれにとって、心を休めるところではなくなってしまった。最悪だ。


リビングにいたら恐怖で何もできなくなってしまう。そう思って、おれは自分の部屋に引きこもった。リビングから大きな犬の鳴き声が聞こえてくる。怖すぎる。そんな中、無慈悲にも親がおれに声をかけた。

「自分の部屋にひきこもっているなら散歩に連れていきなさいー!」

まずい。逃げなければ。おれは寝てるフリをした。しかし、

「お母さんとお父さん出かける用事があるからお願いねー。」

と言われた。おれを逃がしてくれるつもりはないらしい。


そういえば名前をつけておけって言われたっけ。前の飼い主がなくなってしまったらしく、名前がわからないのだそうだ。どうすればいいんだ。まだよく顔もよく見たことがないのに。しかも散歩をしなきゃいけないのか。嫌すぎる。“あの子”に罪はないのだけれど逃げるために一眠りすることにした。


どれくらいの時間が経っただろうか。そろそろ起きるかと思い、眠い目を擦って、起き上がろうとした。だが、何かがおかしい。手がもふもふしているし、短い。しかもなんだか視界が低い。嫌な予感がした。なんだかあの動物に似ていないか。そんなアニメみたいな展開があっていいのか。飛び起きて鏡を見てみる。そこに居たのは犬だった。


おいおいおい。おれもしかして疲れてる?今日のことは全て夢なのではないのか。おれは現実逃避をした。そういえば今家に親がいない。おれにどうしろと言うのだ。とりあえずリビングに行って考えようと思い、リビングに行ってみることにした。


リビングに何かいる。そういえば今この家には犬がいるのだった。忘れていた。まずい。あの子は今ケージで寝ているようだ。いや怖い。犬になってしまった視界から見るゴールデンレトリバーは大きすぎる。

「ワン、!!」怖すぎて思わず悲鳴のような声を出してしまった。その声であの子が起きてしまったようで大きい目でこちらを静かに見てくる。怖い。近づいてきた。また小さい頃みたいに噛まれる!!そう思って、震えているとおもちゃを持ってきて、おれにくれた。そして横にぴったりとひっついて優しい目でこちらをみている。おれはびっくりした。さっきまで大きな声で吠えていたし、からだが大きいのもあり、怖い犬なのかと思っていた。それでも怖くて、震えていると

「どうしたの?」

とあの子が聞いてきた。犬の言葉がわかる。それはそうか、おれは今犬なのだから。しかし、まだ怖くて何も話せずに居ると

「大丈夫だよ。一緒にお昼寝しよ。」

と言っておれを抱きしめてくれた。


おれは大きな勘違いをしていたのかもしれないと気づいた。犬ってこんなに優しいのか。抱きしめられていることでなんだか暖かくて眠くなってきた。そうしておれはどうせ逃げることは出来ないと思い、諦めて寝ることにした。


なんだかいい夢を見たような気がする。っぎに起きた時、まだあの子に抱きしめられていた。おれが動くと起こしてしまったようだ。すると、

「もう大丈夫?」

と心配してくれた。なんだ、ぜんぜん怖くないじゃないか。怖いどころかとても優しい子なのだと気づいた。

「一緒に遊ぼ」

と誘ってくれたのでついて行くことにした。


それから2人で家を探検したり遊んだりした。一日が終わる頃にはおれはあの子のことが大好きになった。2人で遊ぶのはとても楽しかった。なぜかしっぽがふりふり揺れてしまう。今まで犬のことをよく知らなかったから、こんなことは全く分からなかったけれど、犬って嬉しいとしっぽをふる動物なのか?と気づいた。そういえば昔の噛んできた犬もしっぽをふりふり揺らしていた気がする。手を噛んではきたものの、全然痛くなかったような気がする。もしかするとあの時の犬も楽しくて、遊んで欲しくておれに甘噛みをしてきただけなのではないか。そう気づいた瞬間、おれはなんだかとても大きな勘違いをしていたと気づき、おもしろくなって笑ってしまった。そんなおれをあの子は優しく見つめていてくれた。


2匹で一日を遊び尽くして眠くなってしまった。なんだかベットが恋しくなって自分の部屋に戻ろうと思い、

「ありがと!楽しかったよ」

とあの子に別れを告げて自分の部屋に戻り、眠った。



眠ると何かが変わるのだろうか。おれは起きると人間に戻っていた。これから一生犬の姿だったらどうしようかと思っていたのでとても安心した。せっかく人間に戻ったのではやくあの子に会いたくなって、リビングへと急いだ。あの子は気づいてくれるのだろうか、ドキドキしながらあの子に近づき、頭を撫でてみた。すると気持ちよさそうにしっぽを振って喜んでくれた。さすがにさっきの犬がおれとは気づいてはいないだろうけれど、おれはそれがとても嬉しかった。


後でよくよく調べてみるとしっぽを振ることはやはり、犬が楽しんでいる証拠であると知った。他にも小さい頃に甘噛みをされたのも愛情表現の1種だということやおもちゃをくれるのも近くにひっついてきたのも慰めるためにしてくれた行動だと知った。

「なんだ、犬って表情豊かで優しくて、かわいいじゃないか」

と思わず笑いながら呟いてしまった。今までの自分がバカだったとつくづく思う。犬のことをよく知らないくせに食わず嫌いのようなことをしていたことがとても申し訳なくなった。親がにやにやしている顔が頭に浮かぶ。まんまと犬のことがすきになってしまったことがほんの少し悔しかったがそれ以上にこれからもずっと一緒にあの子と暮らせることが嬉しかった。おれは前は犬がいちばん嫌いだったが今では大好きになった。あの子には感謝してもしきれない。


そういえばまだ名前をつけてないことに気がついた。なんだか今更感はあるけれど、名前をつけることはとても大事なことであるため、たくさん案を考えようと思った。たくさん名前を考えて、1番あの子にふさわしい名前を付けてあげたいと思い、おれは今日も真剣に考えている。


おれを犬の魅力に気づかせてくれたあの子には感謝しかない。こんなことが起こるなら少しくらい人間じゃなくなっても楽しいかもしれないなと変なことを考えてしまった。

「また犬になってあの子とお話したい。」

そんなことを考えながらおれはひとつの名前を思いついた。この名前が1番あの子に似合っているはずだ。親達にも報告に行こう。でもまずはあの子に伝えに行くか。おれの話の内容が届いているかどうかは分からないけれど


よし決めた。あの子の名前は…

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