中編 聖なる光は奇跡の兆し
ブワァァァ
ウワーコッチカラモー! ニゲロー! オサナイデー!
『み、みなさん落ち着いて避難してください!! え、非常口が開かない!!? こんな時に!!? これはクロマック大臣の開会の話が長かったことと関係があるかもしれませんね!!!』
司会のコエデが考察を働かせている中、クロマック大臣の息子のレインが放った黒い霧は会場のそこら中から溢れ出していて、観客たちはパニック状態に陥っています。
「ククク、ハハハッ、ハァーッハッハッハ!!」
会場中がパニックの中、会場の中心であるステージにて、下半身から闇を噴出させつつレインが笑っています。
「無駄だ無駄だ! ここに居る者は全て我が闇の力の一端となるのだ!! クハァーハハハ!!」
ナンダッテー! アイツアンナキャラダッタカー? シッ、ダマッテテヤレ!!
「ハァーハハハァー!!」
ウワコッチキター! ニゲロー!! メッチャキニシトルヤンケ!!
レインが巻き散らす黒い霧が特定の観客を追っかけているころ、ティクビ団長とアテンは選手入場口から離れたところでそれを見つめています。
「このままではまずいな」
「ああ、あの黒い霧は人々からマナを奪っていて、そのマナを闘技場の中心に用意された召喚陣へ送っている。これほどの儀式だ。魔王クラスは下らないだろう」
歴戦の猛者でもあり光使いでもある二人は、レインが下半身から出している黒い霧がステージ上に刻まれた召喚陣へ力を送っているのを見抜きます。
「観客の避難も大事だが、クロマック大臣のご子息を止めるのが先決だろう。そちらには召喚陣をなんとかして頂きたい」
流石判断の早いティクビ団長。召喚術には同じ召喚術を操るアテムに任せ、自分は元凶であるレインを止めに行くつもりです。
アテンもその指示には同意しますが。一つだけティクビ団長にお願いをします。
「任せてくれ! だがその前に俺のデッキへ光のマナをかけてくれるか? この闇の霧の中じゃオレでは起動用のマナすら発動しない」
「えっ?」
アテムの言葉に、ティクビ団長は驚きの声を挙げます。
『デッキへ光のマナをかける』という行動はよくわかりませんが、とても嫌な予感がします。
「この
「う、ううむ…」
ティクビ団長は悩みます。
【乳首が光る能力】を隠すために参加したのに、一人とはいえバラしてしまってもいいものなのか。しかも相手は今日が初対面で、口の堅さを信用できるかは全くの不明です。
でも、彼はこの国の騎士団長なのです。
ティクビ団長は意を決して
そして、
「光れーーっ!!」
ビカーーーー!!!
「これは、まさかあんた!!」
アテンはティクビ団長の乳首から放たれる光を見てティクビ団長の事情を予想し、それ以上は何も言わずに
「はぁ、はぁ、はぁ……これで、良いだろうか」
「ああ、バッチリだぜ!! お礼と言っては何だが、ついでに俺の召喚術をお見せしよう! ドロー!!」
スチャ!!
アテムが叫びながら
そして、チラリと内容を一瞥した後、天高く掲げてその召喚符名を叫びます。
「マナコスト光2! 『一時的な蘇生』!! 墓地に居るキャラクター一体をこの場に召喚し、ターン終了時に墓地へ戻す効果だ!!」
「墓地とh」
「気にするな!!」
シュゥゥゥ ドンッ ブオンブオォン!!
「出光使いのカケル様参上!!!」
ブオオオォゥン!!
その場に現れたのは、先ほどティクビ団長に言いくるめられてうなだれていた男性と、その男性の愛車である魔導ハイスピードカーです。
ちなみに、彼は魔力ガソリンを『出光』というメーカーのガソリンスタンドでしか入れないので『出光使い』を名乗っていました。無理がありますね。
「なんと、人であっても召喚可能とは。それで、彼は何を?」
「焦るんじゃないぜ! 召喚符の引きは運命の引きだ。必ず何かは起こる!!」
ティクビ団長とアテムに見守られながら、カケルはいそいそと魔導ハイスピードカーに乗り込み、既に温まっているエンジンを確認してから天井に設置されている複数のスイッチを全て起動します。
「見てろやぁー! これが!! カケル様の!! エレクトリックパレードだぁー!!!」
ティンティラ ティンティラ ティラララ ララララ
カケルの掛け声とともに魔導ハイスピードカーはボディを1680万色に輝かせ、かわいらしい音楽を奏でました。
ア、エレクトリックパレードダ キレー
これには怯え逃げまどっていた人達も立ち止まって見物します。
ティクビ団長もアテムもそれを見守ります。
そして数秒後。
「おう、時間切れだ。あばよっ!」
ターンが終了したため、カケルは魔導ハイスピードカーに乗ったまま姿を消しました。
「な、なんだったのだあれは…」
ただ単に光る魔導ハイスピードカーを見せ付けただけで終わったカケルの行動に言葉を漏らすティクビ団長。
無理もありません。闇の霧が晴れたり、渦巻く闇の魔術がどうにかなった訳ではなかったのですから。
しかし、それはアテムにとっては別でした。
「よくやった! 一回の戦闘中に赤、橙、黄、緑、青、藍、紫の七つの光のマナを浴びたことで、オレの光デッキは特殊効果を発動する!!」
アテムはそう叫ぶと虹色に輝く召喚符を空中に散布させ、自分の周囲を囲むように飛び回らせます。
アテムにとっては『ただ単に光る魔導ハイスピードカーを見せ付けた』事が、この場では最適解だったのです。
「特殊効果発動! オレはこれからドローする三枚の召喚符をマナコストやタイミングを無視して発動出来る。これがオレのとっておきだ!!
アテムはそう言うと、自分の周囲を飛び回る召喚符の一つを掴み、天高く掲げてその召喚符名を叫びます。
「マナコスト無視! 『光のヴェール』!! 全ての味方は光の保護を受ける!! 保護は自らが攻撃を選択するまで継続する!!!」
ピカー
アテムが発動した召喚符により、会場中の人々に目に見えない光の保護がかかります。
「これで観客達のことは考えなくてもいい筈だ! 」
「なんと! これが光免許二級の力! ならば後は大臣のご子息を止めるのみ!!」
「応、行くぜ!!」
二人は強く声を挙げて自らを鼓舞させ、会場の中心へと向かいます。
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