トアル王国第一回光使い最強決定戦

@dekai3

前編 光使いじゃない奴は失格だ!

「次は貴殿だ!!」


 選手控室から出て直ぐの場所。

 会場へと向かう選手用通路の途中で、全身鎧フル・プレート姿のシャイニング・ティクビ団長が、他の出場者である魔術師のエアーに指を向けて叫んでいました。

 周囲には他の参加者とスタッフ、そしてうな垂れている男性。

 スタッフ達は相手が騎士団長だからか手を出しあぐねていて、周囲を囲むだけでティクビ団長を捕らえる気配はありません。


 緊迫した空気の中、ティクビ団長はエアーに向けて言葉を放ちます。


「貴殿は光使いではないだろう!!」


ナ、ナンダッテー!?


 ティクビ団長の言葉に周囲を囲むスタッフから声が上がります。

 無理もありません。

 エアーは予選では超高空から光を降らす事で周囲を爆撃して大量の参加者を倒したとてつもない魔術師なのです。

 それが光使いではないとは驚きです。一体、何使いなのでしょう。


「フフフ、よくぞ見抜きましたティクビ団長。流石は王国一の光騎士と呼ばれるだけはある」


 エアーは大きくスリットの入ったローブからムチムチの脚を覗かせながら答えます。


「そう、私は【空気使い】!!上空の空気を操作してレンズを作り出し、それにより光を集中させる魔術師よ!!」


ババーン!


 エアーは自信満々に自らの魔術を紹介すると、まるで満足いったかの様に爽やかな笑顔を見せます。

 そして、スタッフ達に「光使いじゃないから辞退するわ」と言い、控室に戻っていきました。

 ティクビ団長はまた別の人物に指を向け話します。


「そして貴殿もだ。光使いではなく【鏡使い】であろう!!」


ババーン!


「た、確かに!!!」


ナ、ナンダッテー!?


 次にティクビ団長に指を向けられたのは、光の手品師を名乗る青年ファントム。

 魔術で作り出した鏡で光を反射させ、幻像を操ったり火を発生させるのが得意の手品師です。


「言われてみれば確かに【鏡使い】ですね。光以外も反射できますし。だから光免許の試験受からなかったのか…」


 ファントムもエアーに続いてスタッフに「辞退します」と伝え、マントを翻して杖をくるくると回しながら控室に戻ります。


 場に残ったのは王スッフ達と残り六名の本選出場者。そのうちの一名は同じようにティクビ団長に事実を告げられ、ガクンとうな垂れたまま動きません。


「(よし、もう少し数を減らすぞ…)」


 先ほどから『光使いではない』と突きつける事で本選への参加資格をはく奪しているティクビ団長。

 彼は王国発行のれっきとした光使いのライセンス(通称:光免許)を所持している真っ当な光使いです。

 そんな彼が何故、このように正規の光使いではない参加者を排除しているのか。王国の為ではありません。その理由とは…


「(私の能力が【乳首が光る事】という事を隠さねばならぬ!!!)」


 ティクビ団長の光免許に記された能力は【光と共に身体能力を上げる能力】となっているのですが、これは魔界との大戦のいざこざで誤魔化して発行して貰った物で、実際の能力は【乳首が光る能力】なのです。

 気が高ぶると乳首が光ってしまうので普段はわざと力を抜いて戦い、乳首が光ってしまった時だけ本気を出すという戦い方で騎士団長まで上り詰めたのです。

 しかし、最近は年齢のせいか本気を出しても以前ほど強くなく、部下達から「能力を診てもらったらどうですか?」と言われています。

 そんな事をすれば【乳首が光る能力】とバレてしまうので、こうして光使い最強決定戦に出場して優勝する事で、副賞の光免許特級を手に入れるつもりだったのです。正式な光使いは世界でも少ないですから勝算があったんですね。

 しかし、それもクロマック大臣の「たくさん参加したほうが楽しいじゃないか」という一言で大規模な催しになってしまったので、こうして戦う前に口でごまかして数を減らそうとしています。


「(次は…あの太った青年だ!)そこの者もだ! 光使いなのか!?」

「むむ、拙者でござるか?」


 ティクビ団長が次に指名したのは、赤いバンダナに指抜きグローブ、よれたTシャツに革ジャンとジーンズの恰幅の良い眼鏡の男性のドルオ・ターです。


「ふふふ、やはり我が国の団長様の目は誤魔化せませぬか。そうでござる。拙者は光使いではなく、【精神感応石サイリウム使い】でござる!!」


ババーン!


 ドルオはそう言うと、ウエストポーチから棒状にして取っ手を付けた精神感応石サイリウムを両手に取り出し、ぐるぐる回したり体をひねったりして奇妙な舞を行います。


「この精神感応石サイリウムは光を吸収したり光を放つ特性はあれど、それは拙者の能力ではないでござる!!それを見抜くとは流石はトアル王国の騎士団長でござるなぁ~! せいやっは!! せいやっは!! き・し・だ・ん・ちょー!!」


セイヤッハ! セイヤッハ! キ、シ、ダ、ン、チョー!!


 急に謎の舞を舞いだしたドルオとスタッフ達に呆気にとられながらも、応援されるのは悪い気がしないので、ティクビ団長は特にドルオのことは止めずにそのまま次の出場者へと剣を向けます。


「貴でn…」

「オレは【光デッキ使い】だぜ!!」


ババーン!


 次の相手はティクビ団長が何かを言う前に自分から主張しました。

 彼はトゲトゲな髪の毛と力強い目をした少年のアテン。背は低いですが独特の存在感を放っています。


「ひ、光デッキとh…」

「光デッキとは召喚魔法を札に刻印した召喚符を四十~八十枚で一セットにしてランダムにドローするという独特の方式を用いたサモンズ・ザ・ギャザリングと呼ばれる新しい召喚術の光属性特化デッキの事だぜ!」

「さ、サモンズ・オブ・ギャザリング?」

「オレは元々光属性専門の召喚士なんだが産まれ付きマナの総量が少なくてな、こうして召喚札に召喚獣やマナブースターを封じておき、起動用のマナのみで召喚札を起動・連鎖させて少量のマナでも召喚獣を出せるように工夫しているんだ! ちなみにちゃんと光免許も持っているぞ! 二級だ!!」

「な、なるほど…免許持ちか……」


 ティクビ団長はアテンの怒涛の説明に気圧されたのと、光属性専門の召喚士な上に免許持ちという事でこれ以上追及するのは止めました。下手ないちゃもんをつけて「じゃあそっちの能力は?」と言われても困るのです。


「で、では、次はそこの…って、大臣のご子息のレイン殿ではないですか!」


 ティクビ団長が次のターゲットにいちゃもんを付けようとした時、ティクビ団長は彼が開催委員長であるクロマック大臣の一人息子のレイン・ボゥ・クロマックだと気付きました。


「ククッ、どうした、俺には光使いかどうか聞かないのか?」


 レインはティクビ団長が口撃で対戦相手を減らしている事に気が付いていて、それを自分にはしないのかと聞いているのです。


「あ、いえ…その…」


 ティクビ団長はレインの挑発に言葉に詰まります。

 何故ならば、レインは王国きっての無能貴族と言われていて、体力も魔力もなければ政治の才能もないのに国の重要ポストに就いている人物です。

 下手に何かを言えば父親である大臣を通して厄介な事を言われかねません。


アー モシカシテ トカ? バカオマエ!! ダマッテロ!!


「………」

「………」


 ティクビ団長でさえ言わなかった事を、スタッフの一人が漏らしてしまいました。


イヤデモユウメイジャン! オマエガシャベルトキジャナインダヨ!! イイカラダマッテロ!!


「………」

「………」


 選手用通路に微妙な沈黙が流れます。

 自信満々に「光使いかどうか聞かないのか?」と言った時の体制のまま固まるレインに対して、歴戦の勇士のティクビ団長も何を言っていいのか分からない様子です。

 しかし、その時、


『皆さん、司会のコエデ・カイネンです!! 選手入場口にやってきました。一体何があったのでしょうか!!』


 ちょうど本選出場者たちが中々現れない事に心配した決定戦の司会が出場者の様子を見に来ました。これはナイスタイミング。


『わたくしの目の前では王国騎士団長のティクビ氏によって、大臣のご子息である親の七光りのレイン氏が剣を向けられている様に見えます!!』


 しかしバッドキャスティング。


「うるさぁーーい!!! ああそうさ!! 俺は親七光り使いでなんの取り得もなかった!!! だが手に入れたのだ!!! この究極の闇の力をな!!!!」


ブワーーーー!!!!!


 司会の発言に我慢ができなくなったのか、レインは大きく叫ぶと体に巻いた漆黒のマントの中から真っ黒な霧を噴出させました。


ウワーーー!! ニゲローー!! コッチダハヤクー!!


「む、これはまずい!!」

「団長のおっさん、そこのお嬢さんと中継の人もだ!! こっちに! 早く!!」

『真っ黒です! 大臣のご子息である親の七光りのレイン氏が闇の魔術を使用して真っ黒な霧を放っています!!』


 真っ黒な霧は見るからに邪悪な物で人体に悪影響がありそうです。

 ティクビ団長達はアテンの声を頼りに選手用通路を駆け抜け、選手入場口から試合場へと脱出しました。

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