N高原−1

岐阜県にあるN高原は地元では昔から心霊スポットとして有名で、様々な噂が存在する。深夜にドライブをしていると見知らぬ女性がルームミラーに映っていたとか、カーナビが狂うとか、走行中に突然血のついた手形がフロントガラスに無数についたなど、枚挙にいとまがない。私が今滞在しているN高原ペンションにもいろいろな噂がある。


今回は私の友人であるKが先日体験したという、N高原に関する不思議な話を紹介する。


その日私は職場から家に帰り、ビールを片手に翌朝に控えるプレゼンの資料に目を通していた。時刻はすでに23時を回っており、そろそろシャワーを浴びようかと思いながらも、ソファーから動く気力が起きずにいた。


するとスマートフォンが突然鳴り始めた。

画面を見ると、そこには懐かしいKの名前が映し出されていた。

Kからの連絡は実に3年ぶりで懐かしい気持ちもあったが、その一方で夜も遅いことから一瞬電話を取ることを躊躇った。しかし、腐っても友人からの電話なので、私は重い腰をあげて電話を取った。


「ひさしぶり。今大丈夫だった?」


「大丈夫じゃねえよ。今何時だと思ってるんだ。久しぶり。用件は?」


「あ…ごめん。少し相談したいことがあって。今から会えないかな。」


「今から?明日も仕事なんだけど。」


「なんとか会えない?」


「電話じゃだめ?お酒も飲んじゃってるし。」


「会って相談したいんだ。今近くのファミレスにいるから来てほしい。」


夜中に会って相談したいことなんて、絶対面倒なことだ。そう確信がある私は遠回しに抵抗した。しかしKの深刻そうな声を聞くとだんだん可哀想になり、結局根負けして近所のファミレスで会うことにした。


ファミレスに着くと、そこにはKともう一人男がいた。私は来たことをひどく後悔した。間違いなく面倒なことに巻き込まれる。

しかし今更引き返すこともできず、やむなくファミレスの席に座った。


「久しぶり。急に呼び出して本当にごめん。」


Kは開口一番謝罪した。


「ひさしぶり。そちらは…?」


私が尋ねると、


「あ、Mだよ。学生時代2回くらい昔一緒にカラオケいったじゃん。」


初対面じゃなかった。しかも2回も会ってるらしい。


なんとなくの気まずさを覚えながらも、私は用件について尋ねた。


KはMと顔を見合わせて、Mのスマートフォンを差し出しながら、「これを見て欲しい」といった。


スマートフォンにはKの車が写っており、その助手席にショートカットの若い女の子が写っていた。


「彼女ができたっていう報告?おめでたいけど、休日じゃだめだった?」


私が苦笑いをしながらそう言うと、KとMは何かに怯えたように私の顔をじっと見つめて、小声で言った。


「やっぱり写ってるよね…?」


「写ってるって?イイ写真じゃん。これいつ撮ったの?」


「ついさっき。電話する直前。」


「じゃあ彼女もいる感じ?呼んできてよ!」


「無理だよ…」


「どういうこと?」


「だって車の中には誰もいなかったもん。」


「どういうこと?」


イマイチ状況が掴めていない私に、Kが話始めた。

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