第39話 学園へ
「ではな! また来る!」
「お世話になりました!」
「また会えるの楽しみにしているよ、ガストン。アベルもいつでも遊びに来てくれ」
マヨネーズの販売契約も交わし、オレと父上はブラシェール伯爵家からお暇した。
その際に、ちゃんとシャルリーヌは約束を守ってくれた。
「はい、これ。ちょっと足りなかったけど、エスコートについては合格点をあげるわ。それとあなたとの婚約についても考え直してみる」
そんな言葉と共に、シャルリーヌから小さくてかわいらしい白い花の植木鉢を貰った。ジャガの花だ。
ちょっと試しに掘ってみたところ、まだ芋と呼べる状態まで育っていなかったので、このままオレが育てようと思う。
それと、何と言ってもシャルリーヌがオレとの婚約を考え直すと言ってくれた。
オレとの婚約を白紙にしたがっていたシャルリーヌだ。異次元の移動性能を誇るヴァネッサの存在を知って、オレとの婚約を続ける気になったのだろう。
当たり前だけど、今のシャルリーヌにオレへの恋愛感情なんてないと思う。手紙は交わしていたけど、直接会ったのは今日が初めてだからね。恋愛もクソもない。
まぁ、シャルリーヌとの関係はこれからだね。二人でゆっくりと愛を育んでいけたらと思うよ。オレはもうシャルリーヌにメロメロなのだ。
ブラシェール伯爵家をお暇した後、オレと父上は一度学園に戻ってきた。オレの入ることになる男子寮の部屋に荷物を置くためだ。
学園に雇われているメイドや執事に手伝ってもらって部屋を片付けた後、父上はヴァネッサに乗ってヴィアラット領へと帰っていった。
寮の部屋は、幸運にも一階だった。聞いた話によると、親の爵位によって部屋のグレードが変わって、グレードの高い部屋は上層階の部屋になるらしい。まぁ、楽でいいけどね。
一階だから最下層のグレードとは言っても、結構広いし落ち着きのある部屋だ。さすが貴族の学園だね。
オレは一人残された部屋の中で考える。
明日はいよいよ学園の入学式。ようやくゲームの開始時点まできたな。
頭の中で思い出せる限りのゲームのイベントを思い出していく。大丈夫だ。オレは上手く立ち回れる。というか、オレは生粋のモブなんだからイベントの方がオレをスルーしていくだろう。
懸念されるのは、やっぱりシャルリーヌ関連のイベントだな。シャルリーヌにひどいことをしたという婚約者はたぶんオレだ。でも、オレはシャルリーヌにひどいことをするつもりはない。問題は……。
「シャルリーヌが主人公くんに惚れちゃった時か……」
考えたくはないが、ゲームにおいてシャルリーヌは主人公に惚れている。そうして主人公のハーレムでサブヒロインになるわけだが……。
「くっ! 考えるだけでハゲそうだ!」
シャルリーヌが自分以外の男と結ばれるなんて、考えるだけで頭を掻き毟りたくなる。
オレはべつにハーレムを否定するつもりはない。貴族の大多数が複数の妻を持つのも、確実に家を時代に引き継ぐためだというのもわかっている。
わかってはいるが、それで本当に女性たちは幸せなのだろうかとも考えてしまう。
シャルリーヌが他の人に本気で惚れてしまったのなら、オレは潔く身を引くべきなのかもしれない。
だが、主人公ハーレムのサブヒロインなんかになって、本当にシャルリーヌは幸せになれるのか?
シャルリーヌの幸せをオレが勝手に決めつけるようなことは避けたい。
しかし、考えてしまう。
「はぁ……。ん?」
堪らなくなって溜息を吐くと、コンコンコンッとノックの音が飛び込んできた。
「どうぞ」
「アベル・ヴィアラット様、お食事の用意ができました」
「もうそんな時間か」
思ったよりも時間が経っていたらしい。でも、ブラシェール伯爵家で死ぬほどケーキを食べたからあんまり腹は減ってないんだよなぁ。
だが、食べないという選択肢はオレにはない。今日はまだタンパク質を全然摂取できてないからな。
強い肉体というのは一日にしてならず。日々の生活の中でコツコツと創り上げていくものだ。
オレは最強を目指す者。今日という一日を無駄にはしない。
「わかった。案内を頼む」
「かしこまりました」
執事服を着た初老の男性に付いて行くと、広い部屋に案内された。たくさんのテーブルと椅子が並べられた空間で格好もさまざまな男の子たちが思い思いに食事を取っていた。
「こちらが食堂でございます。あちらでトレイを受け取り、あちらから順番にご所望の食事を受け取ってください」
「ああ、金はかかるのか?」
「無料でございます」
「なるほど。助かるな」
「席次についてでございますが、食堂ではお気になさらなくても大丈夫でございます。ただ、日当たりのいい場所は上級生の高位貴族のご子息が使うという不文律があるようでございます」
「ほう。感謝する」
不文律、ね。面倒だが従っておいた方がいいな。
オレはさっそく木のトレイを持つと、食事を待つ男の子たちの列の最後尾に並んだ。
貴族の食堂だからもっと高級レストランのような形式を想像していたのだが、なんだか学食のような感じだな。まぁ、人数が多いからいちいち対応していられないのだろう。
ガヤガヤと聞き取れない声が響き、おいしそうな匂いが充満する空間になんだか懐かしさを覚えた。
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