第40話 歓迎会

 日当たりがいい席が上級生や高位貴族の席ならば、逆に日当たりが悪い席がオレの席だろう。


 そんなことを思って移動している時に、オレはあることに気が付いた。


 なるほど。生徒たちの服装でだいたいのところはわかるな。


 今日は学園はお休みだからか、皆が私服を着ている。だからこそ、私服にどれだけ金をかけているかでだいたいの爵位がわかるのだ。


 日向のいい席に座ってる奴らは良い服を着ているし、こっちの日陰の奴らは簡素な服だ。見ただけでわかったよ。オレはこっち側だな。何と言っても、オレの服は母上やデボラの手作りだし。華やかなブランド品なんて縁がない。


「ここ、空いてるか?」

「うん?」


 オレのような男爵子息の一年生なんてのは底辺だ。そんなわけで一番日当たりが悪い席の男子に声をかけると、男子はオレの姿をマジマジとみて頷いた。


 なんだかジャガイモみたいな顔をした男だな。


「いいぜ。あんたも一年生か? 俺はエロワ・ビュルル。ビュルル男爵家の者だ。んで、こっちが……」

「ポール・ジケル。おらも一年生だーよ」


 エロワと向かい合って座っていた太った男がのっそりと頷いた。ポールと名乗った男の前には、見ていて胃もたれがしそうなほど大量の昼食が並んでいる。見た目通り、よく食べるようだ。


「オレも一年生だよ。名前はアベル・ヴィアラット――――」

「「ヴィアラット!?」」

「お、おう?」


 とりあえず空いた席に座って自己紹介すると、エロワとポールが驚いた表情でオレを見ていた。なんでだ?


「ヴィアラット男爵家か?」

「そうだけど? 何か問題でもあるのか?」


 恐る恐るエロワに確認すると、なぜかエロワはニカッと笑顔を見せた。


「問題なんてねーよ! ヴィアラット家といえば、辺境の救世主じゃねえか! 俺んとこも世話になったぜ!」

「おらのとこもだーよ」

「辺境の救世主って?」


 そんな評判初めて聞いたぞ。


「おいおい、自覚ないのか? ヴィアラット男爵家が始めたんだろ? 航空戦闘団。あれのおかげで領地は魔獣に怯えなくてよくなったし、塩や酒も気軽に手に入るようになった。感謝感激雨霰ってやつだ! 俺たちだけじゃないぜ? 辺境出身の先輩たちも、みんなヴィアラット家には感謝してるって言ってた!」

「んだんだ!」

「こうしちゃいられねえ! 先輩たちにも知らせてこにゃ!」


 エロワは勢いよく立ち上がると、そのまま駆けて行ってしまった。


 そして、続々と上級生を連れてくる。


「先輩方! こいつがヴィアラット男爵家のアベルだってよ!」

「ほお! 俺はヤン・エペー。アベルのことは父上からの手紙で知っている。我がエペー男爵領のために一緒に戦ってくれたんだろ? ありがとう。学園で困ったことがあったら何でも言ってくれ」

「辺境最強の戦士、ガストン・ヴィアラットの息子なんだろ? やっぱお前も強いのか?」

「俺の領地も助かった。お前もかなり強いらしいな? ずっと気になっていたんだ。」

「おいらの領地も助けてもらったって聞いたぞ!」

「塩が安くなってずいぶん助かったって聞いてるぜ! ありがとよ!」

「飛空艇を持ってるんだろ? あの銀色のやつがそうなのか? 学園で噂になってたぜ?」

「航空戦闘団かっこいいよな! なあ、俺も入れねえかな?」

「感謝するぞ、ヴィアラットの者よ!」


 その後も次々と感謝を述べる男たち。


 それにしても、まさか父上の始めた航空戦闘団がこんなにたくさんの人たちを助けていたとはね。


 彼らは辺境に領地を持つ貴族の息子たちだ。ということは、それだけ多くの領地を救ったということである。


 やはり父上はすごいな。オレも父上の息子として恥ずかしくない男にならなければ!


「ん?」


 その時、なんだか嫌な視線を感じてオレは後ろを振り向いた。武術を始めてから、オレは人の悪感情には少しだけ鋭くなった。確実に、オレに対して悪意を持った視線を感じた。


 食堂の中では、たくさんの生徒たちが、あれは何の騒ぎだとオレたちを見ている。その中の誰かまではわからないが、オレでも感じるほど強い悪感情を持った者がいるのは確実だ。


「アベル、どうしかしたのか?」

「いえ、なんでもないですよ、エペー先輩」


 オレ以外は気が付いていないようだな。


 やれやれ、まだ学園生活が始まってもいないのにここまで嫌われるとは……。先が思いやられるなぁ。


 その後、三年生のヤンが中心になって、そのまま食堂でささやかながら辺境の新入生の歓迎会が始まった。


 辺境の出身者は全学年で八名もいた。一年生はオレとエロワ、ポールの三人だ。


 先輩たちの話では、辺境の出身者は田舎者、貧乏貴族とバカにされることもあるようだ。まぁ、実際に田舎者だし、貧乏だし、否定はできないよなぁ。気分はよくないけどね。


 そうやってバカにしてくるのは、主に親の爵位を笠に着た次男や三男らしい。


 彼らもかわいそうなところはある。嫡子の予備として扱われ、家を継ぐことができない奴らだ。貴族の中でも底辺に近い。


 そんな奴らがオレたちを積極的にバカにしてくるのは、そうでもしないとやってられないのだろう。その気持ちには同情するが、八つ当たりは勘弁してほしい。


 同じ底辺同士で争うよりも、己を磨いて騎士になって出世すればいいのに。よくわからん奴らだ。

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