第27話 王都マルリアーヴ
「失礼いたしました、ヴィアラット卿! 我ら、この学院の警護を担当する者です。重ねて失礼を申し上げて申し訳ございませんが、何か身の証となるような物を拝見させていただきたく……」
「うむ! 諸君らの務めもわかっているつもりだ。今はこれしか持ち合わせがないが、かまわぬか?」
父上は苦笑すると、腰から短剣を鞘ごと抜いて兵士の中でもリーダー格の男に渡す。
「ありがとうございます。……ヴィアラット卿、学園へようこそおいでいただきました。しかし、飛空艇でグラウンドへの着陸はお止めください。ここは生徒の方たちが使う場所となっておりますので、万が一のことがありますと、その……」
「すまん、すまん。飛空艇で初めて王都に来て、泊める場所がわからなくてな!」
頭の後ろを掻きながら誤魔化すようにはっはっはっはっはっと笑う父上。
「学園には専用の係留場がありますので、そちらをお使いください」
「そうか。よければ案内してくれないか?」
「かしこまりました」
「それと、馬車の用意とブラシェール伯爵家への先触れを頼みたい」
「かしこまりました。すぐにご用意させていただきます」
学園の施設なのに、まるで自分のもののように指示を出す父上を見ていて不安になってしまう。
そんなことは信じたくない。でももしかして、父上って迷惑系貴族なのか?
「父上、その、いいんですか? ここは学園の施設ですけど……」
「ん? 学園の施設は卒業生なら自由に使えるんだ。我ら辺境の貴族みたいに王都に屋敷を持たない者たちは、当然だが馬車なども持っていない。だから、学園の馬車を借りるんだ」
「そうですか!」
よかった。父上は貴族だからと無理を言っていたわけではなかったらしい。
そうだよね。父上にそんな安っぽい悪役は似合わない。
「それよりも、心の準備はできているか? これからブラシェール伯爵家へ行くぞ」
「それって……」
ブラシェール伯爵家はシャルリーヌの実家だ。
え? 今からシャルリーヌと会うの?
やべっ!? 緊張してきたあああああ!
◇
学園の警備隊に案内されてヴァネッサを係留場に泊めた後、オレと父上は馬車に乗って王都の街並みを走っていた。
王都の大通りは石畳で舗装されているからか、馬車も最新の物なのか、揺れが少ない。
「おぉー」
馬車の窓からは王都の街並みが見えるのだが、先ほどからひっきりなしに馬車とすれ違うし、たくさんの人々が行き交っている。建物も平屋はなく、石造りの高い建物が軒を連ねていた。
高い建築技術とセンスの良さを感じる街並みだ。ヴィアラット領の外観とはまったく違うな。
だが、オレにとってはゲームを通して見知った光景だ。
「アベル、ここが中央広場だ。大きな噴水がある広場でな。観光名所にもなっている。屋台なども立ってな、劇などの催し物もあるぞ。シャルリーヌをデートに誘うのもありだ。そして、あの大きな建物が王立演劇場でな、プロの演者によるさまざまな劇がおこなわれている。あそこもシャルリーヌをデートに最適だぞ」
「はい……」
先ほどから父上が王都のお勧めスポットを教えてくれるのだけど、どうもデートスポットに偏っているような……。
「アベル、あの塔が見えるか?」
「あれは……ッ!」
父上の指差す先に、まるで引き延ばされたピラミッドのような細長い四角錐の物体が見えた。それはどこまでも白く、太陽の光を浴びてキラキラと輝いている。
「ああ、あれがこの王都に巨万の富をもたらしているダンジョンだ。我が領にもゴブリンのダンジョンがあるが、あれとは比べ物にならんくらい大きくて難易度が高いぞ!」
父上が嬉しそうに語る。
王都のダンジョンは最高難易度のダンジョンだからね。戦闘大好きな父上が滾るのもわからんでもない。
だが、ダンジョンが巨万の富をもたらしているなんて初めて聞いたぞ?
「父上、ダンジョンがあると儲かるのですか?」
「うむ! アベルもダンジョンに潜ったことがあるからわかるだろう? あのゴブリンキングが落とす王笏もいい値段で売れたが、注目するべきは普通のゴブリンが落とす錆びた鉄の武器の方だな。あのゴブリンダンジョンからは、少量ずつではあるが鉄が永遠に手に入る。ダンジョンは無限に資源を吐き出す鉱山のようなものだ」
「なるほど……」
鉄が手に入るのはありがたいと思っていたが、そこまで考えられなかったな。
たしかに、ダンジョンのモンスターは一定時間で復活する。そして、倒すとアイテムをドロップする。それは、父上の言うように永遠にドロップアイテムが手に入ることを意味している。
なるほどなぁ。鉱山とはよく言ったものだね。
そう考えると、『ゴブリンの地下王国』とは比べ物にならないくらいさまざまなアイテムが手に入るダンジョン『女神の試練』を擁する王都の賑わいもわかる気もした。
冒険者たちの聖地、王都マルリアーヴ。オレも早くダンジョンに挑戦したいな!
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