第15話 『ゴブリンの地下王国』
「さて、行くか!」
『ゴブリンの地下王国』が見つかって一か月ほど経ったある日。オレは一人で森の中に入っていた。向かう先は先日見つかったダンジョン『ゴブリンの地下王国』だ。
あの時はなぜ知っているのか問われると面倒になるため回収しなかったが、実は『ゴブリンの地下王国』にはある秘密があるのである。今回は、それを回収しに行くところだ。
「ふぅ……」
一か月前に大人数が通ったからか、森の中にはダンジョンに続く一本の獣道ができていた。ふかふかの腐葉土の上を歩くのは意外と歩きにくくて体力を消耗するので助かる。まぁ、鍛錬には使えるだろうが。
木漏れ日なんてなく、薄暗い森の中を歩くこと一時間ほど。目の前には切り立った崖が姿を現し、大きな洞窟の入り口を発見した。
あれが『ゴブリンの地下王国』ダンジョンへの入り口だ。
「ホーリーライト」
オレはさっそくダンジョンに潜る。本当なら休憩してから潜りたいところだが、時間は有限だからね。できれば夕食までには戻りたいところだ。じゃないと心配されてしまう。
「せあっ! はあっ!」
現れるゴブリンたちをサクッと倒し、オレはどんどん洞窟の中のようなダンジョンを進んでいく。道順は覚えているので迷うことはない。
「やっぱ復活してるよなぁ……」
ダンジョンの土壁から顔を覗かせると、今まで通ってきた通路とは違う広い空間があった。そこにいるのは一匹のゴブリンだ。だが、その見た目はずいぶんと普通のゴブリンとは違っている。
人の頭蓋骨を三つ連ねたような首飾りをして、その手には骨で作られた白骨の杖を持っている。まるで、邪悪な部族の呪術師みたいな恰好をしているゴブリンだ。
ゴブリンシャーマン。魔法を使うゴブリンだ。このダンジョンの中ボスでもある。一か月前に父上が魔法ごとぶった切って倒したのだが、さすがに一か月もあれば復活するか。
オレは、用意していた秘策を手に走り出す。
いきなり飛び出したオレを見て、ゴブリンシャーマンは慌てることなく魔法を詠唱し始める。ムカつくほど冷静だね。ちくしょうめ。
当然だが、オレの剣よりもゴブリンシャーマンも魔法の方が射程は長い。オレは魔法を避けつつゴブリンシャーマンに近づく必要がある。
だが、魔法というのは極めて避けにくい。父上は大剣を盾に無理やり距離を詰めたが、オレに同じことができるとは思えない。
そこで考えたのが――――ッ!
「喰らえ!」
オレは右手に持っていたアイテムをゴブリンシャーマンに投げ付けた。
オレの手から飛んで行った卵状のアイテムは、見事ゴブリンシャーマンに命中した。
その瞬間、ピシッと軽い音を立てて割れて粉々になるアイテム。ゴブリンシャーマンに大したダメージは与えられていないが、これでいい。
「WOHO!? GEHA!? GEHA!? AGYAAAAA!?」
粉末を吸い込んだ瞬間、ゴブリンシャーマンが盛大に咽た。
オレが投げ付けたアイテム。それは、トウガラシの粉末を卵の殻に詰めた物だ。ゲームではトウガラシ爆弾の名称で登場し、使うとモンスターを一定確率で混乱にするアイテムだった。
混乱状態になれば、魔法の詠唱もできないだろうと考えて作っておいたのだが、予想以上の効き目だね。ゴブリンシャーマンは魔法の詠唱どころか、目を開けることもできないみたいで、闇雲に杖を振り回している、
こうなるとちょっと哀れだが、仕方ないね。
オレは音もなくゴブリンシャーマンの背後に回ると、一撃でその首を刎ねた。
「ふぅ……」
ボフンッと白い煙となったゴブリンシャーマンに安堵の溜息が出た。
どうなるか賭けの部分もあったが、上手くいってよかったよ。
残るトウガラシ爆弾は二つ。有効活用していかないとね。
「ん?」
白い煙が晴れると、そこには一本の短剣が落ちていた。
「やった。レアドロップだ!」
ダンジョンのモンスターのドロップ品には、通常ドロップ品とレアドロップ品があるのだが、この短剣は後者だ。
短剣の柄にドクロが彫られ、なんとも気味の悪い感じだが、装備すると魔法攻撃力が上がる珍しい短剣である。
まぁ、ヴィアラット領には魔法使いなんていないし、売ってお金にしちゃおう。
オレはバックパックに大事に短剣を仕舞うと、更にダンジョンの奥へと足を進めるのだった。
◇
中ボスの部屋を超えると、ダンジョンの難易度が少し上がる。今まで棍棒しか持っていなかったゴブリンたちが、錆の浮いた鉄の武器を持つようになるのだ。
そして、弓矢を使うゴブリンアーチャーや、ホブゴブリンなんかも普通に現れるようになる。どちらも厄介なモンスターだ。気を引き締める必要がある。
「くっ!」
コッと鋭い音を立てて、盾に矢が生える。ゴブリンアーチャーの放った矢だ。
父上と母上から贈られた盾を傷付けられ、怒りでどうにかなってしまいそうだが、努めて冷静であることを心掛ける。
もう一回、矢を盾で防いでから、オレはゴブリンアーチャーとの距離を詰めてその首を刎ねた。
ボフンッと白い煙になって消えるゴブリンアーチャー。盾に刺さっていた二本の矢も白い煙となって空気に溶けるように消えていく。
残ったのは、傷付いた左腕の盾だけである。
「あぁあ……」
盾で防ぐ必要があったのは事実だし、盾は見事オレの命を守ってくれた。盾を使えば、傷付くのは当たり前。そのことはわかっているが、実際に傷付くと凹むなぁ……。
「はぁ……」
オレはやりきれない思いを溜息で体の出しながら、トボトボとダンジョンの最奥を目指すのだった。
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