第16話 『ゴブリンの地下王国』②
「ふっ! ほっ!」
オレは洞窟の通路で連続でステップを踏む。まるで踊っているみたいだと自分で思うのは余裕の表れであってほしいところだ。
ブオンと重たい風切り音を立てて目の前をオレの腰くらいの太さがありそうな丸太のような棍棒が通り過ぎていく。
今のオレは、ホブゴブリンとの戦闘中だ。でたらめに棍棒を振るホブゴブリン相手に苦戦しているところである。
ホブゴブリンの棍棒のような重量物、まともに受け止めたらぶっ飛ばされる。受け流すのをミスれば大怪我は必至。かといって、このまま回避し続けても先はない。なんとも分の悪い相手だ。
だが、倒さねばならない。
オレは覚悟を決めてホブゴブリンの間合いに飛び込んだ。
その瞬間、ホブゴブリンの棍棒がオレを叩き潰さんと振り下ろされる。ラッキーだな。横薙ぎならどうしようかと思ったが、振り下ろしならば――――ッ!
軽くサイドステップを踏むと、今までオレがいた空間を棍棒が通り過ぎ、地面にぶつかってまるで爆発音のような音を立てた。
たしかにその怪力は脅威だが、当たらなければどうということはない。
オレはダッシュでホブゴブリンとの距離を詰めると、右手に持った片手剣を走らせる。
「せあっ!」
右手に感じる灼熱。見れば、オレの持つ片手剣からは炎が噴き出していた。
『ブレイズブレード』。片手剣のスキルだ。対象に火属性物理ダメージを与え、確率で火傷状態にするスキルである。
そして、『ファストブレード』よりもダメージがデカい。
燃える片手剣は、まるでバターを切るようにホブゴブリンの胴を両断した。すごい威力だ。
斬り分けられたホブゴブリンの上半身と下半身が白い煙となって消える。
これでオレの勝利だ!
白い煙が晴れた後、カランッと何かがダンジョンの床に落ちた。
「うぅーん……。ゴブリンが鉄武器をドロップするのに、それより討伐難易度の高いホブゴブリンのドロップ品が木の棍棒というのはどうなんだ……?」
なんだか釈然としないものを感じながら、オレは棍棒を蹴飛ばしてダンジョンの奥に進むのだった。
◇
「やっとボス部屋か」
オレの目の前には、洞窟には不釣り合いな大きな両開きの扉がある。この先が『ゴブリンの地下王国』のボス部屋だ。
あれからオレはゴブリンたちを千切っては投げの勢いで討伐し、ついに『ゴブリンの地下王国』のボス部屋へとたどり着いた。
いやぁ、今回は宝箱を見つけることはできなかったけど、ゴブリンのドロップ品である錆びた鉄武器が大量に手に入った。ヴィアラット領では鉄が不足しているから助かるね。おかげでバックパックが重たくて仕方がないけど、これは持ち帰らないとな。
オレはバックパックを下ろすと、盾と剣の具合を確かめる。盾には無数の傷が付いていた。ゴブリンアーチャーに付けられたものだ。帰ったら直してもらわないと。
「じゃあ、行くか……!」
オレは両開きの扉を蹴り開けると、すぐに走り出す。大きな部屋の中央には、薄汚れた豪華な衣装を身に纏ったゴブリンキングが一体だけ確認できた。
中ボスであるゴブリンシャーマンが復活してたんだ。やっぱりボスも復活してるよなぁ……。
ゴブリンキングがオレの存在に気が付くと、すぐに王笏を振り上げる。
すると、ゴブリンキングを守るようにゴブリンの軍団が姿を現した。その数五体。
これがゴブリンキングのキングたる所以。ゴブリンキングは、リキャストタイムこそあるが、無制限にゴブリンたちを召喚できるのだ。非常に厄介な能力である。特に、ソロで挑戦しているオレには、一番嫌な能力といっても過言ではない。
召喚されたゴブリンたちは、錆の浮いた剣を振り上げてこちらに駆けてきた。
普通は、最初にこのゴブリン軍団を倒さなければいけないのだが、オレには秘策がある。それが――――ッ!
「これでも喰らっとけ!」
オレが投げたのは、この日のために作ってきたトウガラシ爆弾だ。
オレの投げたトウガラシ爆弾は、洞窟の天井に当たると、まるで赤い煙のようにモクモクとトウガラシの粉末を撒き散らす。
「GEGYA!?」
「GYAHUN!?」
「AGYAAAAAAAAA!?」
いきなりトウガラシの粉末に包まれたゴブリンたちは、涙を流しながら咽ていた。
予想通り、ゲームでのトウガラシ爆弾は一体のモンスターしか選択できなかったが、使い方次第では複数体を混乱状態にして、ここまで強力な効果に化ける。
ここがゲーム中ではなく、ゲームに似た現実世界だからこそできたことだろう。
オレは混乱しているゴブリンたちを迂回する形でゴブリンキングへと迫る。
そして、サクッとその首を刎ねた。
ゴブリンキングは確かにダンジョンのボスに相応しい凶悪なモンスターだが、その凶悪さは無限にゴブリンを召喚できる物量にある。ゴブリンキング自体は、そんなに強いモンスターではないのだ。
予想外に作戦が上手く決まって楽に倒せたな。いつもこんな感じだったらいいのに。
「さて、あとはゴブリンを片付けて終了だな」
オレは振り返ると、未だに混乱して錆びた剣を振り回しているゴブリンたちを一体ずつ片付けていくのだった。
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