第13話 打ち上げと婚約者

 その後、父上の力もあってサクッとダンジョンをクリアした。『ゴブリンの地下王国』は、そんなに難易度の高いダンジョンじゃないからね。オレもパーティのタンクとして、そしてヒールで仲間を癒したりして大活躍だった。


 やはり、片手剣と盾を持ったこの戦闘スタイルは安定感があるな。神聖魔法でヒールも使えるし、耐久力も高い。即席のパーティだったけど、そのことを確認できてオレとしても大満足だ。


 そして、大満足だったことはまだある。ダンジョンをクリアする過程で、いくつか宝箱を見つけたのだ。大した物は入ってなかったけど、それでも多少は金になる。


 まぁ、一番の儲けはやっぱりラスボスであるゴブリンキングがドロップしたゴブリンの王笏だろう。王笏らしく金銀や宝石をあしらった豪華な杖だ。ゲームでは魔法使い用の装備だったが、店売りの価格が高かったから金策にも使われていた。これでヴィアラット領も少しは豊かになるだろう。そのことが嬉しいのか、父上も上機嫌だ。


 そんな父上だが、今は滅多に飲まないお酒を呑みながらご機嫌だった。今は、村の広場でゴブリンを殲滅したお祝いでキャンプファイヤーを作ってお祭り騒ぎなのだ。村で飼っていたブタを一匹潰して、バーベキューパーティーである。


「はっはっはっはっはっはっ! アベル、食っているか?」

「はい、父上!」


 オレもパクパク焼かれた豚肉を食べながら、ご機嫌で頷く。焼いた豚肉に塩を振りかけただけなのだが、これがなかなかおいしい。ハーブをすり潰して作ったソースをかけるとまた違った味わいをみせて無限に食べられそうだ。


「ならばよし! たくさん食っておけよ!」

「あなた、アベルの活躍をもっと教えてください」

「やれやれ、アポリーヌはそればかりだな。だが、いいだろう! アベルの胆力は見事なものだったぞ。ゴブリンキング相手にも一歩も退かなかった。そしてなんといっても神聖魔法だ! アベルのおかげでワシたちは安心して戦うことができたのだ」


 父上がオレの活躍を母上に語って聞かせている。父上はさっきから何度も同じことを言っているのだが、母上は何度も聞きたいのか、何度も父上にねだっている。


「さすがアベルですね。あなたの努力を女神様もご覧になっておいでだったのでしょう。わたくしはあなたの母上として誇らしいです」

「ありがとうございます、母上」


 そして、何度もオレの頭を撫でながら褒めてくれるのだ。ちょっと照れ臭いが、母上が喜んでくれるならオレも嬉しい。


「坊ちゃま、おかわりをお持ちしました」

「ありがとう、デボラ! デボラも楽しんでくれ」

「はい。ありがとうございます」


 オレはデボラから豚肉が山盛りに盛られた大きな皿を受け取り、さっそく食べ始める。やっぱうまいなぁ。体を動かした後にタンパク質をたくさん摂取できて、筋肉も喜んでいるのがわかるよ。


「ではははははははは!」

「うひょひょひょひょひょ!」

「ええぞー、ええぞー!」


 キャンプファイヤーを見ると、領民たちが歌えや踊れのどんちゃん騒ぎだった。領民たちにもここのところの避難生活やゴブリンとの戦闘でストレスが溜まっていたのだろう。


 オレには領民たちが笑って楽しんでいる姿がなんだか尊いもののように感じた。オレもすっかりヴィアラット領の人間になったんだなぁ。オレも将来、父上の跡を継いで彼らをしっかり導いていかなくては!


「まぁ、独りよがりになってもダメだから、ちゃんと話し合って決めていかないとなぁ」


 そんなことを考えながら、オレは肉をバクバク食べる。うめー。



 ◇



「アベル、喜べ! ついにお前の婚約者が決まったぞ!」

「え?」


 数日後の朝。朝食の時間。オレが食堂に入ると、ニコニコ顔の父上がいきなり宣言した。


 婚約者? あぁ、ついに決まったのか。見ず知らずの人といきなり婚約者になるなんて、なんだか実感が湧かないなぁ。いい人だといいんだけど……。


「それで、どんな人なんですか?」

「気になるか? 気になるよなあ!」

「あなた、もったいぶらずに早く見せてあげてください」


 母上に急かされて、父上が後ろから何かを取り出した。あれは、キャンバス?


「うむ。アベルよ、これを見るがいい!」

「はい」


 オレがその小さめのキャンバスを受け取ると、そのキャンバスにはかわいらしい女の子の絵が描いてあった。色白で、細身。髪色は白で、瞳は涼し気な水色をした少女だ。


「この子はッ!?」


 オレはこの子に見覚えがあった。


 知っているぞ、シャルリーヌ! この子はゲームの本編でサブヒロインだった子だ!


 サブヒロインながら人気投票ではメインヒロインを抑えて一位に輝いた大人気の美少女だった。当然、オレも大好きな一番の推しキャラである。小さくて小動物みたいでかわいいんだ。


 だが、待てよ? たしかシャルリーヌは――――。


「うむ! アベルの婚約者である!」


 父上が力強く頷くのを見て眩暈がしそうだった。


 たしかシャルリーヌは、婚約者にひどい扱いをされて男性不信になってしまった少女だったはずだ。その婚約者がオレ? オレがシャルリーヌにトラウマを植え付けた犯人なの!?


「かわいいだろう? 聞いて驚け! この子はブラシェール伯爵家の三女でな。名前はシャルリーヌ。歳はアベルと同じの十一歳だ。王都でも評判のご令嬢だぞ?」

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