第12話 ゴブリン殲滅戦③
切り立った崖にある洞窟の前。
「セザール、後を頼むぞ」
「お任せください、領主様」
「言わなくてもわかっていると思うが、森からの襲撃に気を付けろ。一匹も逃すなよ?」
「へい!」
この先はゴブリンたちの巣穴だ。どこにゴブリンが隠れているかもわからないし、洞窟の中は真っ暗で松明の明かりだけが頼りとなる。非常に困難な戦闘になることが予想された。
「行くぞ、アベル」
「はい、父上!」
「アベル様、お気を付けくだされ」
「ああ、シリルも気を付けてな」
洞窟の前でシリルたち洞窟の入り口を守る者たちと別れ、オレたちは洞窟の中へと入っていく。
「ホーリーライト」
すぐに暗くなったので、オレはホーリーライトの魔法を使った。いつも夕食の時活躍してくれている魔法だ。ただ明るくなる以外に使い道のない魔法だが、光源を確保でき、なおかつ手を塞がれないというのはかなり大きい。
「アベル、魔法を使って大丈夫か? お前にはいざという時ヒールを使ってもらいたいんだが……」
「大丈夫ですよ、父上。私は魔力が多い方なので」
魔力は瞑想すると増える。神聖魔法が使えるようになる前の幼い子どもの頃から魔法への憧れを捨てられずに瞑想しててよかった。おかげで、オレのMPの最大値はシリルよりも多いくらいだ。
というか、この世界ではまだ瞑想によってMPの最大値が増えることが証明されているわけではないらしい。シリルも瞑想によってMPの最大値が増えることを知らなかった。
MPの最大値は、生まれ持った才能として扱われることが多い。
まぁ、この世界ではステータスが数値として見れるわけじゃないし、仕方のないことかもしれないね。
オレはこの情報を隠すつもりでいる。話すにしても、よほど信頼している人だけに話すだろう。情報は力だ。そして、情報は秘することでその強さを増すのである。
「父上、分かれ道です!」
「分かれ道か……」
先頭を歩くオレの言葉に返すように、父上の声が反響して聞こえた。
「コームは、右を頼む。ワシらは左に行く」
「はい!」
コームたちのパーティとも別れ、オレたちはずんずんと洞窟の中を進んでいく。途中で現れたゴブリンを斬り捨てていたのだが……。
「えっ!?」
何気なくゴブリンの首を刎ねたら、そのゴブリンの死体がボフンッと煙となって消えた。なんだこれ?
「父上! ゴブリンの死体が消えました!」
「なるほど、そういうことか……」
さすが父上だ。この不可解な現象も父上にはわかるらしい。すごいね!
「ここはおそらく、ダンジョンだな」
「ダン、ジョン……?」
ダンジョンって、あのダンジョンだよな?
ダンジョンならゲームでも登場した。一番有名なのは、王都にある『天の試練』と呼ばれるダンジョンだろう。やり込み要素満載のエンドコンテンツとして登場する。全プレイヤーのクリア率0.3%という極悪な難易度だ。
まぁ、オレはクリアしたけどね。
一番有名な『天の試練』ダンジョンの他にもダンジョンは各地にある。それがここヴィアラット領にもあったということだろう。
「どうやら、ここはゴブリンの出るダンジョンのようだな。野生のゴブリンたちが自分たちの仲間と勘違いしてこのダンジョンを勝手に巣にしているのか……」
「なるほど……。ん?」
父上の言葉に頷きかけて、オレの記憶に引っかかるものがあった。
ここヴィアラット領は王国の北東部にある。
王国の北東部にあるゴブリンの出るダンジョン?
それって、『ゴブリンの地下王国』じゃね?
ということは、つまり……!
「ははっ……!」
まさか、いつか探しに行こうとしていたダンジョンがこんな近くにあったなんて! 幸運過ぎて怖いくらいだ!
「ダンジョンなら冒険者に頼んだ方が……」
「領主様、このまま進むだか?」
「無論、進む。ゴブリンを皆殺しせねばならんからな。一匹でも逃せば、後の災いとなる」
「そうは言っても……」
「クククククッ」
父上と領民たちの会話を聞きながら、オレは溢れ出そうになる笑いを堪えるのに精一杯だった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます