第11話 ゴブリン殲滅戦②

「ほう。オークを倒すとは。アベル、やるじゃないか!」

「父上!」


 父上の声に振り向けば、ニカッと男臭く笑っている父上がいた。その後ろには、両断されたオークの死体が二体分転がっている。


 すごいな。父上はオークを真っ二つか……!


 戦線を保っていたオークが討伐され、ヴィアラット領民軍は一気に戦線を押し上げた。そして、もうすぐで洞窟の入り口に到達するというところで――――!


 それは大きかった。緑の肌、尖った耳など、特徴を挙げればたしかにゴブリンに近いかもしれない。しかし、それは並みのゴブリンの倍はあった。


 二メートル近い巨躯。そして、オークとは違う引き締まった筋骨隆々な体。そのどれもが、ゴブリンとは違う生命体であることをわからされるのには十分だった。


「ホブゴブリン……!」


 ホブゴブリン。ゴブリンの突然変異だ。その強さはゴブリンの比ではなく、オークをも凌ぐ。


 ホブゴブリンの棍棒に殴られ、領民の一人が宙を飛んでいた。一度、洞窟の入り口まで到達した戦線も今にも押し返されそうだ。


「父上! ホブゴブリンが!」

「そうだな」

「えっ!?」


 ホブゴブリンの登場に、父上はなんでもないようにオレに答えてみせる。父上には、あの飛んでいった領民の姿が見えなかったのか!? このままだと大変なことに……!


「そう焦るな、アベル」

「しかし! 早く倒しに行かないと!」

「まぁ待て。ピンチの時こそ笑えと教えただろう?」


 そんなこと言われても!? 笑うだけでホブゴブリンが倒せるのなら苦労はしないぞ!


「辺境の男たちよ! 今こそ笑え! お前たちの力を見せてくれ! 迎撃だ! ホブゴブリンごとき、容易く仕留めてみせろ!」

「「「「「はっはっはっはっはっはっ!!!」」」」」


 父上の号令に返ってきたのは幾重にも重なった笑い声だった。


「えぇー……?」


 辺境の男たちが笑っている。ホブゴブリンという絶対的な強敵を前に。頭でもおかしくなってしまったのかと心配してしまうような光景だ。


 しかし、その効果は劇的だった。


 巣穴から飛び出してきた三体のホブゴブリンがギョッとしたように一瞬動きを止めた。耐えたのだ。今まで容易く棍棒で殴り飛ばしてきた領民が、ホブゴブリンの一撃を耐えてみせたのだ。


「なんで……?」

「アベルよ、辺境の男たちはな、笑うと強くなるのだ」


 んなアホな。そう思うのだが、実際目の前でホブゴブリンを倒す男たちを見ていると、軽々と否定できない。


「だからな、アベルよ。苦しい時こそ笑え! 逆境を楽しんでこそ、真の辺境の男よ!」


 巣穴から次々と飛び出すホブゴブリンやゴブリンをどんどん倒していく男たち。たしかに怪我人は出ている。だが、それでも男たちの陣形は小動もしなかった。



 ◇



「ふむ。出て来なくなったか」


 父上の低い声が森に響く。


 オレたちが洞窟前の開けた所を確保して一時間も経った頃。それまで延々と洞窟を飛び出し続いていたゴブリンたちの列がついに途絶えた。


 おそらく、なんとか領民による包囲網を突破しようとしたが、突破しきれず諦めたのだろう。


 もしくは、決戦の地を洞窟内に定めたか……。


 いずれにせよ、ゴブリンは殲滅する必要がある。洞窟の中に入ってゴブリンを倒していくしかないのだが……。


 ここで人選に揉めることになった。


「領主様! オラに行かせてけろ!」

「おめ! 抜け駆けすんな!」

「おいらに行かせてくだせえ!」


 なんだかみんなゴブリンの巣穴に入りたいようだね。


 まぁ、気持ちはわかる。オレも入りたい。入ってゴブリン倒して、経験値をがっぽり稼ぎたいところだ。


「ゴブリンを一匹たりとも逃がしたくはない。従って、この洞窟の入り口を見張る者たちが必要だ」


 みんなが固唾を飲んで父上の言葉に耳を澄ませていた。誰も父上の言葉を遮ろうとしない。このあたりの統率力はめちゃくちゃすごいね。オレは父上を尊敬の眼差しで見ていた。


「ここの指揮はセザールに任せる。コーム、お前は好きな者を選んで六名のパーティを作れ。ワシも作る。洞窟の中の捜索は、ワシとコームのパーティでおこなうことにする。アベル!」

「はい!」

「お前はワシと共に洞窟に潜るぞ。準備しろ!」

「はい!」


 よっしゃ! オレも洞窟に潜れる!


 オレは剣を磨きながら自然と口角が上がっていくのを感じた。

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