第10話 ゴブリン殲滅戦

「行くぞ!」

「「「「「応!!!」」」」」


 そして、ついに父上の号令でヴィアラット領の領民たちが動き出す。


 男たちは武器を手に、森の中で大きな半円を作るように陣を形作っていた。鶴翼の陣が近いだろうか。このまま切り立った崖まで移動し、まるで洞窟に蓋をするように崖と半円の陣形で囲むつもりだ。ゴブリンたちを一匹たりとも逃がさない父上の強い意志を感じる。


 半円の陣形は、一直線に行軍していた領民たちをセザールとコームが両端を誘導して作ってくれた。森の中での狩人の働きはすごい。彼らには、そのまま右翼と左翼に残って、弓隊の指揮を頼んでいる。


 百を超えるヴィアラット領軍が動けば、さすがにゴブリンたちも異変に気が付く。オレたち中央部隊が顔を出す頃には、先ほどまでのんびりしていたゴブリンが手に棍棒を持ち、戦闘態勢を取っていた。


「両翼を閉じよ!」


 そして、父上の号令を合図に、森の左右からヴィアラット軍が姿を現す。


 これに驚いたのがゴブリンたちだ。自分たちが三方向から囲まれて、不利を覚ったのだろう。やはり、ゴブリンたちはただのバカじゃない。たしかに人間よりも愚かかもしれないが、それなりに知恵は働くのだ。


「すり潰せ!!!」

「「「「「応!!!」」」」」


 父上の命令に応じるように戦闘の幕が切って落とされた。


 森の左右から矢が飛び、次々とゴブリンたちを倒していく。


 それと同時にどんどんと半円の陣形が狭まっていき、ゴブリンたちを三方向から攻撃していく。一糸乱れぬ兵の運用は、父上がそれだけ領民たちから信頼されているからだろう。


「怪我人は下がれ! 無茶するな!」


 今回の遠征には、教会のおじいちゃん神官であるシリルも動員されている。戦闘で傷付いた者たちを癒すためだ。


「ヒール」


 オレも父上の指揮する姿を見ながら、怪我した者たちを癒していく。


「ありがとうございます、アベル様。っしゃ! さっきのお返しじゃー!」

「……血気盛んだなぁ」


 これが辺境の男たちなのか、みんな恐れることなくゴブリンへと突撃していく。父上のカリスマがそうさせるのかもなぁ。


 そんな一方的な戦闘が続いていたが、ある時を境に戦況が膠着してしまった。オークだ。オークが、前線に出てきて猛威を振るっている。領民たちは果敢に応戦しているが、ちょっと押され気味だ。


「アベル! 来い!」

「はい!」


 父上に呼ばれ、オレは父上と一緒に前線へと躍り出た。


「アベルは右の一体を片付けろ! いけるな?」

「はい! 父上、オークはまだ二体いますが?」

「はっはっはっはっはっはっ! それはワシの獲物だ!」

「一人で二体ですか?」

「ワシなら余裕だ! もたもたしていると、お前のオークも喰ってしまうぞ?」

「わかりました!」


 これは早く倒さないと本当に獲物を取られちゃいそうだな。


「来い! お前の相手はオレだ!」


 オレは右手で腰の剣を抜くと、左腕の盾に打ち付けて音を鳴らす。オークの視線がオレを捉えた!


 ニヤリ――――。


 オークはオレをバカにするように目を細めた。たしかに、オレはその辺りの領民たちよりもまだ背が低いからな。オークから見たら雑魚に見えたのかもしれない。


 その勘違いは身を亡ぼすぞ?


 オレはオークへと駆ける。オークもオレを迎え撃つつもりのようだ。


 オレの足が、ついにオークの間合いへと侵入した。


 それと同時に、オレは渾身のバックステップを踏む。


 その瞬間、つい先ほどまでオレのいた所をオレの胴体くらい太い棍棒が薙ぎ払っていく。


 ここまでは予想通り。オレは再び疾走を開始すると、オークが予想外の速さで振り抜いた棍棒を返してきた。


 オークの腕力はオレの予想以上だ。振り抜いた棍棒を力任せに再度振ってきた。


 唸るような風切り音を上げて右から迫るオークの太い棍棒。オレはその棍棒を受け止めるように盾を両手で構える。


 ついに棍棒と盾がぶつかり、体が吹き飛ばされそうな暴力と対峙した。


 その瞬間、オレは体を地面に投げ出すように低くする。頭上をものすごい風圧を纏った棍棒が通り過ぎ、なんとか棍棒を受け流すことに成功した。


 オレがいつも父上の大剣相手に受け流す練習してるんだぞ? オークの棍棒なんて、父上の大剣に比べればまったく脅威ではない。


 地面に倒れそうになった体を足を踏み出すことで前進の力に変えて、オークに肉薄する。


「せあっ!」


 発動するのは、剣技『ファストブレード』。片手剣の一番最初に覚えるスキルだが、その発動スピードの早さから汎用性が高い。


 オレの掬い上げるような一撃は、オークの股から腹までを切り裂いた。円弧上に血飛沫が飛び、オークが野太い悲鳴を上げて前へと倒れ込む。


 その隙を見逃すオレじゃない。


「だらっ!」


 オレは下がったオークの首へと片手剣を突き立て、ねじる。


 オークの体がビクンッと大きく震えた後、だらんと全身の力が抜けたように弛緩した。


 やった! オークを倒したぞ!

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