第3話 強くなる
父から麻袋を受け取ると、ずっしりと重かった。カチャカチャとくぐもった金属音が響く。
「開けてもいいですか?」
「ああ!」
「さあ、早く開けてみて」
頷く父と母に急かされて、オレは麻袋を開く。
「これは……!」
麻袋の中には、一振りの片手剣とカイトシールド、そして大ぶりのナイフが入っていた。オレが欲しがっていた、しかし諦めていたものだ。
「本当は息子の十歳の誕生日にはナイフを贈るのだが、お前にはそれだけでは不足だと思ったのでな」
「アベルは剣が大好きですからね」
そう言ってニコニコ温かい笑顔で笑う両親の姿に、オレは胸がいっぱいになる。
オレは、前世の記憶を思い出す前のアベルの記憶も持っている。だからなのか、ガストンとアポリーヌの二人を、オレは違和感なく本当の両親だと思えた。
それに、二人はいつでもオレに優しかった。オレに本当の親の姿というのを教えてくれた。
オレは二人に感謝してるんだ。
「ありがとう、ございます。でも、これ高いんじゃあ……」
この剣や盾、ナイフだって、余計な装飾はないけど丁寧な仕事がされているのがわかる。きっと買えば高いだろうに……。
「なに、アベルの魔法で蝋燭代が浮くからな」
「そうですよ、アベル。気にしないで」
家はあんまり裕福じゃない。このプレゼントだって用意するのもたいへんだっただろうに……。それなのに、二人はまるでなんでもないような風に笑っている。
二人には貰ってばっかりだな。いつか二人にもお返ししたいところだ。
父上に聞いた話では、この世界では個人の強さが貴ばれるような世界らしい。ならば、オレが最強になるしかないな。そうすれば、昇進やお金にも困らないだろう。両親にも少しは楽をしてもらえるはずだ。
できれば、オレを産んでよかったと思ってほしい。
「そうだアベル、明日は父さんと模擬戦をしよう!」
「父上と?」
「ああ! アベルももう十歳だからな。毎日素振りばかりじゃつまらないだろう。これからは父さんとも模擬戦しよう。それに、安全な狩りにも連れていくぞ。アベルにも仕事を覚えてもらわないとな」
「はい!」
なんだか父上に認められた気がして嬉しい。
この世界では、十歳になると神様の子から人間の子どもになると信じられている。たぶん、医療技術の未発達によって、子どもの死亡率が高いからだろう。そう思うことによって、子どもが死んでしまった時の心の痛みを和らげているのだ。
だからこそ、子どもの十歳の誕生日をこうも盛大に祝う。
「まあ! いいですね。アベル、がんばってくださいね。でも、二人とも怪我だけはしないようにね」
「はい! 父上、母上、ありがとうございます!」
オレはこの両親の子どもで本当によかった。オレは心からそう思う。二人に愛されたアベルの記憶があったから、前世で壊れてしまったオレは人の心を取り戻せた。生きる目標を見つけることができた。
◇
「せやあ!」
「もっと相手をよく見ろ!」
その翌日から、オレは素振り以外にも父上と模擬戦をすることが増えた。
父上は強い。父上は大剣を使うのだが、盾で受けても体格や筋力の差からすぐに吹き飛ばされてしまう。父上の大剣を耐えるには、受けるのではなく受け流す技術が必要だ。
ギィイイイイイイイ!
盾を斜めに構え、振り下ろされた大剣を盾の上で滑らせる。つんざくような音が耳に残り、火花が散った。
腕が折れてしまうのではないかと思うほど腕全体にグッと力がかかり、父上の大剣のすさまじい重圧を感じる。
でも、いつもより軽いような? 手加減してくれたのか?
なんとか耐えて父上の大剣の軌道を逸らし、一歩前に出る。
オレと父上では体格や武器の差でリーチが大きく違う。まずは父上の攻撃を凌ぎ、それから父上の懐に潜り込む必要があるのだ。
さらに一歩踏み込もうとしたところで、不意に左から右に吹き飛ばされた。
「くっ!?」
地面をゴロゴロと転がって、立ち上がろうとした時には、父上の大剣が目の前に突き付けられていた。
オレの負けた。
しかし、いったい何が……?
「アベルよ、我が剣を受け流したのは見事! しかし、受け流したからと安心してはいかんな。熟練の大剣使いは、受け流されることも考慮して、敢えて一撃目は軽く当てることもある。先ほどのわしの本命は、受け流された後の一撃にあった。わしが本気だったら、二撃目で胴が真っ二つになっておったぞ?」
「はぁ……」
どうやらオレはこのニッコニコの父上に騙されたらしい。どおりでいつもより一撃目が軽い気がしたわけだ。やられたな……。
当たり前だけど、この世界はゲームの世界のように見えてゲームそのものじゃない。戦闘だって、ターン制でコマンド選択すればいいだけじゃないんだ。どちらが機先を制するかの駆け引き、フェイントだってもちろんあるし、耐えて待っていれば自分の順番が必ず回ってくるわけでもない。前世の武術の心得がないオレには難しい世界だ。
だが、こんなことでへこたれていられない。オレは最強になるんだ!
「父上! もう一本お願いします!」
「うむ! その意気やよし! 来い!」
「はい!」
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