桃・模墓
その島の中心は見るも無残な有様でした。
何も聞こえてこないその場所は、建物はすべて吹き飛び、焼け焦げています。がれきの下から血まみれの四肢や顔がのぞいています。その中には関節が逆に曲がっているももあります。四肢だけのものや頭部だけしかないもの、がれきに押しつぶされて内臓がはみ出ているものもいます。
共通しているのは、全員すでに死んでいることだでした。
血が建物の隙間から滲み出してきます。その血も燃え始めた建物の熱で蒸発して赤黒いシミを残すのみとなりました。人々の死体もその火に焼かれ異臭と、鳥のささみのようなにおいがあたり一面に漂います。あたりに充満したその死臭は鼻孔にこびりつき、しばらくそれから逃れることはできません。
しかし、本当に問題だったのは生き残って中心に集まった人々の方でした。その有様を見て、顔を青くしながら泣き叫び、崩れ落ちる人もいれば、顔が焼けた蛾れたせいで声も上がることができず、膝から崩れ落ちる人もいます。
四肢が無くなっていようと、皮膚が焼かれていようと、皮膚が剥がれ落ちていようと中心につけば大丈夫だと信じていた住民の心は簡単にへし折られました。彼らにはもはや、何かをする気力は残っていませんでした。大半のものはただ、その場に崩れ落ちて2度と動くことはありませんでした。それでも生きる希望を見出し、海の方へ歩き出すものもいましたが、彼らのほうがかえってつらい目に合うことになしました。
島の火がだいぶ落ち着いたころ、船から兵士が上陸しました。その手に様々な形状の銃や盾を持っています。オラトモも船から降りてきました。
オラトモが声を上げると、兵士は一斉に走り始めました。図らずもその先には中心から移動してきた島の人々がいました。兵士は銃を向け、何も言うことなく発砲しました。慈悲も何もないただの虐殺でした。
その場にいた住民を全員射殺した後、兵士は中心に向かっていきました。血が垂れている後をたどったのです。兵士が中心につくと、人間の焼けたにおいと燃えた後の瓦礫、瓦礫につぶされた白骨死体がありました。
兵士は手分けしてその場所をくまなく捜索し、生存者を探しました。勿論殺すためです。しばらくしてオラトモが中心に表れて声を上げました。島を制圧したこと宣言したのです。その瞬間兵士は雄叫びを上げました。勝利の雄叫びというものです。
しばらくすると兵士とオラトモは本国に帰りました。
そして島の住民を根絶やしにしたことが宣言されると、すべてのメディアで報道され、SNSのトレンドに載りました。その日は今まで起こった度の祭りよりも盛り上がりました。1週間その熱気は絶えることなく、1週間たってもどこかで騒ぎが起こっていました。
しかし、1か月もすればその騒ぎも収まり、かつての日常が淡々と続いていきました。専門家の中では一つの疑問が残っていることを除いて。それはあまりにもあっさりと終ったこと。本国よりはるかに高い技術を持っているという説が通説だった鬼ヶ島が、画像の限り本国よりも低い文明と技術しか持っていなかった。何が原因となって本国よりも高い技術を持っていると誤認されたのか。それが一切解明できなかったのです。
その真実が判明することは、ありませんでした。
真実を知っているのは、鬼ヶ島の住民と一部の外部の人のみです。
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