嗚仁・喪模
ある日、一つのアカウントがSNS上に誕生しました。
そのアカウント主は、鬼ヶ島を悪だとして、鬼ヶ島を滅ぼそうとしています。そのアカウントは急速に知名度を伸ばしていき、物珍しさからフォロワーも急速に増えました。少し前に注目の的になった鬼ヶ島は今ではほとんど話題にすら上がることはありませんでしたが、ここまで大体的に悪だと決めつけているものはなかったからです。独特な文面とその強烈な個性でそのSNSアカウントを知らいない若者はもはや一人もいないほどに有名になりました。
メディアも少したってからこのSNSアカウントを取り上げ専門家の意見を報道するものまでありました。主にその報道はSNSアカウントと同じく、鬼ヶ島を悪だとして断罪する方向性のものばかりでした。
政府ですらそのSNSアカウントに対して過度な活動はしないでほしいとしながらもその理念については否定していません。まるで操られているかのように、本国にいる人びとはほぼ全員が鬼ヶ島を悪だと判断していました。
例外があるとすれば、鬼ヶ島に一番近い島に住む人々くらいだったそうです。
SNSアカウントが世間に広まったころ、アカウント主、オラトモは動き出しました。政府の人間とアポイントを取り、会談をしたのです。内容はもちろん、鬼ヶ島についてです。会談は順調に進み、いつしか政府も鬼ヶ島に侵攻する準備を始めていました。そのことが世間に発表される頃には外国にもSNSアカウントの情報が広まり、「リアル桃太郎」だと話題になっていました。侵攻する準備をしているという発表に対しても、賛同の声が大半でした。自ら戦争を起こさないと日本国憲法で宣告した日本が戦争を仕掛けようとしているのにです。むしろ外国も支援をはじめる始末です。彼らの頭の中には「リアル桃太郎」の結末を早く見たいという感情だけが渦巻いていました。
そしてとうとう政府の準備が整ってしまいました。その戦力は、第二次世界戦争で日本が保有していた武力を上回るものです。ただの島に対して明らかに過激であることに誰もが気が付きながら、そのことに言及するものは一人もいませんでした。
どうやったのか一般国民であるはずのオラトモもその軍に加わり、SNSアカウントの主として正体を隠しながら代表のような振る舞いをしています。
侵攻の開始は八月の初めのころ。その時まで残り一か月を切っていました。作戦発表から実行まで半年かかっていません。明らかに速すぎでした。
世界全体で興奮が冷めない中、とうとう侵攻が始まりました。
侵攻開始の合図は、一発のミサイルでした。
そのミサイルは、山なりな軌道をえがき鬼ヶ島に命中しました。島をかこっていた岩肌の一部が吹き飛びそこから小さな集落がうっすらと見えます。その様子は、以前の予想とは裏腹にそこまで繁栄しているようには見えませんでした。
軍は休まるところを知らずにミサイルをたて続けに発射します。すべてが鬼ヶ島に命中し、その外壁を吹き飛ばしました。ミサイルがやんだころ、かつて鬼ヶ島があった場所にあったのは小さな集落がある小さな島でした。中の様子はよくわかりませんが、ところどころに火のようなものが立ち上がっているのが見えました。軍は船や戦闘機を使い島に近づきました。島の住民は何が起こったのかまるで分らないといった様子で家に閉じこもっていきます。
戦闘機が爆弾を落としました。ほぼ島の中心で爆発したそれは激しい爆風と熱をまき散らします。家が吹き飛んでいき、それに交じってところどころ人影が見えます。その顔は焼けただれていたり、四肢が吹き飛んで血を噴き出しているものなど様々です。爆風で飛ばされなかった家も熱によって炎上しています。玄関から人影が出ていくのが見えます。彼らは島の中心に向かって走っていきます。ほかの家から出てきたものも同様です。全員一寸の迷いも無く島の中心めがけて走っていきます。
そうしてたどり着いた人々はその有様を見て絶望しました。
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