第2話 終わりなき旅路

 風の精たちと水の精はあれから多くの場所を訪れました。


 水の精が今まで見たことのなかった景色を楽しめたのは、風の精たちが声をかけあって連れ去ってくれたからです。


 水の精はお礼に風の精たちの姿が見えるようにしましたが、それだけでは物足りませんでした。


 水の精は良いことを思い付きました。


 風の精たちに虹を見せるのです。


 しかし、どうやって風の精たちに虹を見せるか、水の精は悩み、考え込みます。


 風の精たちには内緒で、水の精は自分の体を工夫して動かし続け、ようやく虹を見せるのによい動きを習得したときです。


「あっ! 虹だ!」


 風の精の一人が虹に気づき、みんなに声をかけました。


 水の精は自分が工夫して見せられるように体を動かしたのだと言いづらくて黙りました。


 本当は、水の精は風の精のみんなに、あっちを見てみてと言いたかったのに、先を越されてしまって言い出せなくなりました。


 あとから水の精が出したのだと主張してしまうと、風の精たちから水の精が傲慢なように思われないか気になったためでもあります。


 水の精は黙って風の精のみんながはしゃいでいる様子を見て、心の中でひっそりと満たされました。


 水の精は、別にみんなに気づかれなくても良いと思いました。すごく楽しそうにしてくれたからです。


 風の精たちの喜んでいる様子が見れて、水の精はそれだけで満足しました。別に知られる必要もないだろうとも思ったためです。


 水の精にとって、風の精たちは恩人であり、友人と呼びたくなる間柄だったためでもありました。




 そのうち、風の精たちは気まぐれなので、各地へばらばらと散らばっていき、数が減りました。


 水の精は少しだけ不安になりながら風の精たちを見送りました。


 残った風の精たちと相談して、水の精は雲になり、風の精たちに運んでもらうことになりました。


 前と違って勢いも激しさもなくなりましたが、のんびりと旅を続けることができて、水の精はおおはしゃぎです。


「残ってくれて、提案してくれてありがとう。風の精さんたち」


 水の精の言葉にうなずき、微笑んだ風の精たちは言いました。


「虹のお礼をさせてください。私たちはあなたが見せてくれたことに気づいています。去っていったのはその事に気づかなかったものたちです。あなたは黙ってあたたかく見守っていました。あなたをもっとよく知りたいと思ったのです」


 残った風の精たちは気づいた子たちのようでしたが、水の精は嬉しさ半分、プレッシャーが半分でした。


 水の精は少し不安にもなりました。もしこれからなにか特別なことがあったとき、風の精たちに勘違いされて持ち上げられたらどうしよう?


 そこで水の精は尋ねてみることにしました。


「虹を見せたのが私だと、どうして思ったのでしょう?」


 水の精は、理由を知れば、これから先の不安が少しは軽くなるのではないかと思ったからです。


 風の精たちは優しく微笑みながら答えます。


「体を動かしているの、ちゃんと見てたよ!」


「何か考え事してたみたいだった」


「お日さま眺めてた」


 水の精は少し安心するとともに照れ臭くなりました。ちゃんと根拠があったことや、工夫していたことに気づいてくれて、思っている以上に見られていたことが心を昂らせました。


「案外見られているんですね」


 水の精は本当はお礼を言いたかったけれど、照れ臭くて最初に出てきた言葉がこれだけでした。あとはだんまりです。


 風の精たちは水の精を優しく撫でました。春の風のように涼やかだけれど優しい風を水の精は感じとります。何て心地よい風でしょう。


 水の精も、風の精たちのことをもっとよく知りたくなりました。


 終わりのないお返しの次は、お互いをよく知る旅の始まりです。


 水の精と風の精たちの旅はこれからも続きます。


 風の精たちは世界を駆け巡り、時には嵐となりながら。


 水の精は雲として小さくなったり大きくなったり、時には雨を降らし、風の精たちと違った意味で世界を巡りながら。

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