第3話 出会いの奇跡
残った風の精たちと水の精はゆっくりと空を漂いました。
風の精たちは水の精に、虹を見せてくれたお礼に歌を歌って聴かせました。
水の精は目を閉じ、風の精たちの歌声に心を動かされ、涙を流しました。とても心に響く歌詞と歌声に、感情が昂ったからです。
見られていなくても ひとりぼっちでも
花が開くときは来る
日の光も 月明かりも 星たちの煌めきも
あなたを見つけて微笑んでる
風の精たちは水の精が虹を見せられるように頑張っていたことを歌にしたようでした。
水の精は、虹を見せたことについて風の精たちが歌ってくれていることに気づいていました。しかし、水の精は風の精たちに見つけてもらって、嵐として巻き上げてもらうまでにしていた努力を頭に浮かべていました。
実ることのなかった努力の数々。ひとりではなしえなかった幸せな旅。
風の精たちに心から感謝をしながら、水の精は静かに涙をこぼしました。
地上では風が切なそうな音を立てて吹きすさび、雨が開演後の代喝采のような音を立てています。
水の精は楽しくなって、風の精たちの歌にあわせて水を操り、水滴の落ちる音でメロディを紡ぎました。
風と水のハーモニーに身を委ねているうちに、水の精と風の精たちは砂漠を流れ、密林を行き、雪山を越え、海を眺め、島々を渡りました。
日に照らされた白い砂浜や雪山、月明かりに照らされ神秘的に輝く水面や砂漠、雨に打たれて輝く木々。様々な自然を心から堪能しました。
どの地域にも、いろいろな人の営みがあり、いろいろな人がいて、いろいろな出来事がありました。
幸せそうに暮らしている裕福な人々、貧乏でものどかな場所で楽しく暮らす人々、いじめられて芽吹かない人々、蹴落としあう人々、賭けをして事実をなかったことにする人々、なかったことをあったことにする人々、様々な人々です。
中でも、ひとりの人間を記憶喪失に追いやり、記憶を取り戻したタイミングで、書かれるより先に過去にあったことと同じ情報を流しました。
それを記憶喪失の人の目につくようにすることで、被害妄想と思い込みで頭のおかしなことを言い、言いがかりをつけているように見せかけようとしています。
いじめていた人達に関するまずい証拠だけを消し去って。
おまけに、記憶の戻った人が繰り返されないように訴えかけても気のせいだと言い張り、暴言で黙らせようとしています。エッセイでなくフィクションじゃないと殺すと脅しまでかけています。
記憶を取り戻した人は、元気を出して頑張ろうとしているのに、いじめた者達は助かるために、記憶の戻った人が元気を出せないよう嫌がらせをしているようです。
水の精は風の精たちと出会えて、連れ去ってくれたことをさらに嬉しく思いました。もし、今いる風の精たちと出会えていなかったなら、もし意地悪な他の精たちに目をつけられていたなら、こんな幸せな旅を楽しむことなんてなかっただろうと、人々の営みを見て気づけたからです。
水の精は思いました。どうか、同じように仲間に恵まれる人々が増えますようにと。
風の精たちは水の精と出会えたことや、水の精に手を差しのべたことを誇りに思いました。
水の精と風の精たちの旅路はこれからも続きます。
きっと、これからずっとずっと。
歌を歌い、音を奏で、涙をこぼし、笑いあいながら、ずっとずっと。
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