幼馴染みエルフの見た目が幼女(ロリ)すぎる!

英 慈尊

幼馴染みエルフの見た目が幼女(ロリ)すぎる!

 明晰夢というものがある。

 寝ながらにして、自分の見ている夢が夢であると自覚できる夢のことだ。

 まさに、今この俺が見ている夢こそがそれで、展開されているのは、幼い頃に起こったある出来事であった。


 なんてことはない。

 幼馴染みの女の子と、俺が結婚の約束を交わす。

 そんな、どこにでもありそうで、そうそうはないような……。

 強いていうならば、漫画やラノベの世界にありそうな、そんな出来事の回想。


 ただ、事実は小説よりも奇なりとはよく言ったもので、この夢――過去には、フィクションでも見かけられないある特徴が存在した。

 それは、結婚を約束した彼女が……。




--




「――ぐうおっ!?」


 目の覚まし方にも色々とあるが、無防備な腹に30キロくらいの衝撃を受けるというのは、おおよそ最悪な部類に属するそれであろう。


「おきてー! おきろー!

 もう朝だよー!」


 腹の上……。

 俺の上にまたがった彼女が、そう呼びかけてくる。


「……最悪な目覚め方だ」


「えー?

 最高の目覚め方の間違いでしょ?

 将来結婚する可愛い幼馴染みが、わざわざ起こしてくれてるんだよ?」


 寝ている俺に無情な一撃を見舞った少女が、不満げに頬を膨らませた。

 そう……。

 彼女こそが、夢で結婚を誓いあった同い年の幼馴染みその人であった。

 また、自分で可愛いというだけのことはあり、抜群の美少女でもある。


 腰まで伸ばされた黄金の髪は、ツーサイドアップで結わえられており……。

 顔立ちは、猫科の幼獣を思わせる愛らしさだ。

 深い海を思わせる瞳は大きく、ぱちりとしていて……見ていると、吸い込まれそうな神秘性すら感じられた。


 ただし……。

 ただし、だ。


 ちんまい。

 確か、先日の身体測定ではようやく身長140センチを超えたと自慢していたが、それは高校一年生の身長としては、ぶっちぎりの最底辺である。


 何故、彼女がこんなにもちみっこいのか……。

 それは、別段発育が悪いからではない。

 むしろ、彼女の種族から考えると、平均以上の発育ぶりであるのだという……。


 ああ、そうそう。

 彼女の特徴について、ひとつだけ触れ忘れていることがあった。

 俺はその特徴――ナイフのように鋭く尖った耳を両手で掴み上げる。


「いいか……?

 起こしてくれることは、ありがたいと思っている。

 ただし、平日の朝で、普通の起こし方をしてくれた場合は、だ。

 今日は何曜日だ? 日曜日だろう?

 しかも、今の時間は――」


 ちらり。壁時計を見た。


「――六時じゃねえか。

 俺は休日だからといってダラダラと寝続けたりはしないが、それでも七時くらいまでは寝ていたいんだ。

 そして、これが一番の問題だが……。

 人の腹へ飛び乗るやつがあるか……!」


「痛い痛いいたたたたたっ!?

 耳を引っ張るのはやめてえ!?

 エルフは耳が弱いのー!」


 俺に耳を引っ張られた幼馴染みが、そう言って抗議する。

 そうなのだ。

 生まれた時から隣同士へ住み、こうやって気軽に互いの部屋へと入ってくる間柄。

 幼い頃に結婚を誓い合った関係。

 そんな幼馴染みは、エルフだったのである。


「まったく……。

 なあ、アイコ。

 俺と同い年なんだから、もう少し落ち着きを持てよ。

 いくらエルフの成長が遅いっつっても、体と心は別だろう?」


「落ち着いてるもーん。

 ほら、この格好だって見てよ?

 一人前のレディでしょ?」


 耳を離してやると、アイコはぴょんとベッドから飛び降りて、その場でくるりと回ってみせた。

 そして、そのまま締めのカーテシー。

 なるほど、そのコーデも所作も、言うだけあってバシリと決まっている。

 決まってはいるが、しかし……。


「……それ、上から靴下に至るまでキッズブランドじゃねえか。

 そんなもんで全身固めて一人前のレディを名乗るとは、片腹痛いぜ」


「ひどーい!

 この溢れ出る魅力が分からないの!?」


 プンスカと怒ってみせる仕草も、完璧にガキのそれだ。


「はあ……やれやれ。

 それで、今日は何の用だ?」


「んーと、まずはいつも通りダイちゃんとニチアサ見るでしょ?

 それから、モールに行ってショッピング!」


「ほう……ちなみに、何をショッピングするんだ?」


「いつも通り、アニメショップで新刊漁りだよ?」


 小首をかしげるアイコである。

 うん……趣味に至るまでガキ!

 いや、この場合は、オタクと呼ぶべきか?

 とりあえず、俺はこいつのおかげで、平成後期と令和のライダーは空で名前を列挙できるようになっていた。


「お昼は、そこのカフェで食べようね。

 今、カップル限定のパンケーキをやってて、女子の間で話題なんだー」


「カップル……カップルね」


 苦笑いしながら答える。


「お前、分かってんのか?」


「何がー?」


 やはり、きょとんとした風にアイコが首をかしげた。


「わたしとダイちゃんは、将来結婚する恋人同士でしょ?

 これがカップルじゃなきゃ、何がカップルなの?」


「いや、まあ……いいんだ」


 やっぱり分かってない。

 しかし、実際に現地へ行けば、嫌でも思い知るだろう。


「はあ……。

 分かった分かった。

 とりあえず、朝飯食ってからニチアサ見ようぜ。

 今週は三個目のフォームが出るんだっけ? 節操なくパワーアップするよなあ」


「は、はわわ……」


 言いながらベッドから降り、着替え始めた俺を見て、アイコが両目を塞ぐ。

 塞ぎつつも、指の隙間からバッチリこちらをうかがってはいるな。


「女の子の前で服を脱ぐなんて……。

 ――はっ!? まさか、襲うつもり!?

 ダイちゃんのエッチ! スケベ! 野獣!」


「……着替えるだけだ。あほう」


 溜め息混じりに返して、着替えを続行する。

 本当、襲いたくなるくらい発育してればよかったのに……。




--




 様々な店舗を集約させたショッピングモールは、休日ということもあり、実に大勢の人で賑わっていた。

 とりわけ目立つのは、やっぱり、カップルの姿だな。

 このモールには、デートで定番の映画館も大規模なゲームセンターも存在するので、近隣に暮らしているカップルがよく利用しているのだ。


「ふんふんふふーん! ふんふんふふふーん!

 ふんふんふふーん! ふんふんふふふーん!」


 そんなカップルたちが、俺たちに向ける視線は――ほほ笑ましさ。

 それもそうだろう。

 俺の隣では、幼女としか言えない見た目の女の子が、気分ブンブン爆上げな歌を歌いながらご機嫌で歩いているのだから……。


 ちなみにだが、俺の方は漫画だのラノベだのグッズだのがぎっしり詰まった青いビニール袋を両手に下げており、重さに辟易しているところであった。


「なあ、アイコ。

 これ、さすがにちょっと買い過ぎじゃないか?」


「だって、欲しいものの発売日が重なっちゃったんだもーん!」


「だったら、せめて書籍は電子にしろよ。

 スマホさえあればいつでも読めるし、保管場所にも困らず済むぜ?」


「分かってない! 分かってないよ、ダイちゃんは!

 紙の本は、なんかこう……いいの!」


「ふわっとしたお答え、どうもありがとよ。

 俺の方は、両手にズシッと紙の重さを感じてるぜ」


 アイコのやつと、そんな会話を交わしながら歩く。

 すると、どうしても聞こえてくるのは、周囲の人間がささやき合う声であった。


 ――見て、あの子たち。


 ――兄妹かしら?


 ――兄貴の方が荷物持ちしてやってるんだな。


 ――ほほ笑ましいじゃないか。


 ……うん、完全に兄妹扱いされている。

 しかしまあ、彼らに文句を言うことは出来ない。

 はた目には、確かに兄と妹にしか見えないしからな。

 まあ、中にはエルフの種族的特徴である長い耳に目を向ける人もいるようだったが……。


 ――見て、あの小さい子。エルフじゃない?


 ――本当、初めて見た。


 ――隣にいるのは、保護者代わりか何かかな?


 ……こんな感じで、俺たちが同い年だと気づく者はいない。

 エルフは少数民族で、その特徴も世間には細かく知られていないからな。

 そりゃ、そういう推測にもなるだろう。


 と、なると、たった今向かっているカフェでの反応も知れたものであり……。

 俺たちを待ち受けていたのは、想像通りの対応なのであった。




--




 例えるなら、これは、小麦粉と砂糖と生クリームとアイスクリームとフルーツの暴力といったところだろうか。

 見た目の盛り付けがかわいらしいという大きな相違点こそあるが、俺の目には、次郎系ラーメンと方向性の違いが見い出せない。


 強いていうならば、これをカップル限定メニューとしたのは、店側の冷静な配慮といえるだろう。

 とてもじゃないけど、一人で食い切れる量じゃないからな。これは。

 というか、シェアを前提としてもかなりきつい。別に俺、甘いものが苦手というわけじゃないけど、物事には限度というものが存在するのだ。


 さて、ファンシーという言葉が相応しい内装の店内で、俺と向き合いながら念願のカップル限定パンケーキを眺めているアイコ氏の様子はといえば……。


「むううう……!」


 これが、プクーッとハリセンボンのように頬を膨らませており、大変に不服そうであった。


「どうした? 食べないのか?

 ちなみに、俺の方はあまりのカロリー暴力っぷりに、かなり恐れをなしているぞ」


「食べる! 食べるよ! とっても美味しそうだもん!

 だけど……」


 いそいそとフォークを手にしたアイコが、いよいよ不満をぶちまけ始める。


「だけど……ど・う・し・て! 学生証まで提示してるのに、店員さんは苦笑いしてオーダーを請け負ったのかな!?

 そりゃ、最初に兄妹と見間違えたのも少しは頭にきたけど、それはしょうがないと思うよ? 毎度お馴染みのことだし。

 でも、年齢まで証明してるのに、カップルであることを疑うのはおかしくない!?」


 アイコの脳裏に浮かんでいるのは、給仕してくれた店員さんの態度であろう。

 オーダーを受けた時も、このパンケーキを運んできた時も、あのお姉さんは終始苦笑いだったからな。

 だが、それが仕方がないことは、同じように限定パンケーキを注文しているカップルたちのヒソヒソ話が証明していた。


 ――見て、あの子たち。カップル限定のやつ頼んでる。


 ――きっと、店員さんに無理言って押し通したんだな。兄妹にしか見えないし。


 ――でも、片方ってエルフでしょ? 寿命が長いらしいし、案外、同い年だったりして。


 ――そうだとしても、カップルはあり得ないだろ? だって、そうなら、彼氏の方はとんでもないロリコンだぜ?


 ……こんな感じ。

 で、だ。

 俺にだって聞こえているのだから、聴力に優れるエルフであるアイコが聞こえていないはずはない。

 だからこそ、さらにむくれっツラをひどくしているのだ。


「……とにかく、食べようぜ。

 せっかく、頼んだんだからさ」


「……うん」


 そう言って、二人でシェアしながらパンケーキを食べる。

 ちなみにだが、アイコはよく食べる方だ。

 特に甘味ともなれば、明らかにカロリー過多と思える量をペロリといっちまう。

 だから、七割くらいはアイコの方が平らげたわけだが……。

 ボリュームはともかく、決して悪い味じゃないこのパンケーキは、あまりお好みではなかったようだ。




--




「ねえ。

 ダイちゃんは、わたしとカップルじゃ嫌?」


 胸焼けに苦しみつつ、気合いと根性でアイコの買い物を両手に下げ続ける帰り道……。

 ふと立ち止まった横断歩道で、こちらを見上げたアイコがそんなことを問いかけてきた。


「どうした? 急にそんなことを聞いてきて?」


「だってほら……。

 カフェで、周りの人たちがダイちゃんのことロリコンだって……」


「ああ……」


 やっぱり、こいつにも周囲の会話は聞こえていたらしい。

 それを踏まえた上で、俺の返せる答えは――これだ。


「まあ、確かに、俺はロリコンじゃあないな」


「――うぐっ!?」


 そのオーバーリアクションは、何かの漫画から受けた影響か?

 何か刺されたわけでもないというのに、大げさな仕草で胸元を抑えるアイコに向け、続ける。


「でもよ。

 俺は、お前と恋人であることを否定したことは、一度もないだろ?

 さっきだって、一緒にカップル限定パンケーキ食べたし」


 俺の言葉を聞き……。

 しばらく、アイコは呆けたようにしていた。


「ダイちゃん……それって」


 しかし、すぐにぱあっと明るい表情になったのだ。


「ほら、信号変わったぞ?」


 信号の色は、青。

 でも、俺の顔は今、何色なんだろうな?

 ともかく、歩き出した俺の隣についてきながら、アイコがニッコニコ顔で口を開く。


「ねえ、ダイちゃん?」


「なんだ?」


「後でキスしよっか?」


「十年早い」


「何よー! もー!」


 そんな会話を交わしながら、二人で帰り道を歩き続ける。

 今日は、なんてことのない……いつもと大差のない日曜日。

 だけど、ひどく充実していて……幸せな一日だった。



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