第3話
その日、零名は夢を見た。いつも見る悪夢だ。
その悪夢は幼少期から変わることなく、零名を苦しめていた。
『あんたのせいだ。あんたのせいで、あたしは……!』
と怨霊の籠った、零名を苦しめる不快な音が響いてくる。そんな声を塞ぐように耳に手を当て、世界との声を遮断する女の子が小さく丸まっている。
それは、零名であり、零名ではない。
悪夢で見聞するのは大抵は声とただ小さく怯える零名だけだった。
だが、今日の悪夢は違った。終わりがあったのだ。零名を、ただ抱きしめるようにする女性が現れ、零名は救われた。
悪夢から覚める時は大抵、脂汗が顔や体に浮かんでいるものなんだが、今日は晴れやかな気持ちで起床した。
階段を下れば、そこには父の姿があった。
朝早くからキッチンに立ち、お弁当と朝食を作ってくれる。
朝食くらい自分で作れるのに、と言うが父は子供のうちは甘えておきなさい。とだけ言う。
もう子供じゃないってば、といつも返すが、父は聞く耳を持たない。
だが、普通に父の作る朝食は美味しい。
今日の父が持ってきた朝食は、ハムエッグと、ウインナー、サラダに味噌汁と白米と、朝食にそれなりのクオリティを出していた。
ハムエッグにウスターソースをかけ、かぶりつく。
父は、零名の向かいに座り、一緒に朝食を食していた。先に食べてしまえばいいのに、といつも思うが、父からしたら、一緒に食べるのが親心らしい。
「なぁ、零名。九月十日はちゃんと予定を空けてくれてるかい?」
父の質問に対し、零名はうんざりするような声を出した。
「パパ、ちゃんと分かってるよ。あと、火曜日は早めに帰ってくること、でしょ?」
見透かしたように言う零名の言葉に父は、はにかみながら、
「覚えてくれてるならいいんだ。食事の邪魔をしてすまないな」
と返した。
九月十日は母の命日だ。幼い頃に亡くなった母だが、零名はつい昨日のように覚えていた。
母との楽しい思い出は深く零名の心に刻まれていた。
今日は九月五日だ。二日後に神無という不思議な男に教えてもらったなんでも屋で、除霊してもらう日だ。
なぜだが、そのことを思うと、寂しいような、嬉しいような。悲しい気持ちも混ざった複雑な気持ちになった。
暗黒英雄 @Loss_Reito
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