第31話 約束

 イルドラの機竜から、2機のペルセウスが大地に降り立った。戦力の出し惜しみをする気はないようだ。 射流鹿も、3機のうち2機のジークフリードを機竜から降ろした。

 通常のいくさなら、指揮官の座す機竜は後方にいて前線では機兵が戦う。

 機兵が戦っている領域から離れた場所に通常の兵士は展開する。



 ジークフリードとペルセウスが、戦闘に入ったのを見届けると機竜の操舵手が、射流鹿に合図を送る。射流鹿はそれに頷いた。


鴉嘴からす戦、用意!」


 操舵手の号令と共に、最大の勢いを乗せて、イルドラの機竜へ向かって突進する。敵の機竜から光矢ひかりのやが放たれるが、竜の骸の魔力を有する機竜には無意味だ。


「無駄なことをしますね」


 敵の機竜が光矢を放つために、その場に停留してくれたのは好都合。射流鹿の機竜は容易に距離を縮めることができた。

 敵・機竜の右側面に、射流鹿の機竜が体当りする。接触と同時に巨大なくちばし状の機巧からくりを敵・機竜の甲板に引っ掛けて2隻を繋いでしまう。


 射流鹿の機竜、その甲板上に3機目のジークフリードが立ち上がった。巨大なハンマーを手にするジークフリードは、敵・機竜へ乗り移ると三段になっている甲板を上に向かって駆け上がる。

 上段の甲板で司令塔の根元部分をハンマーで叩き付ける。敵の司令塔が大きく揺れているのは、こちらの操舵室からもわかった。


「甲板に乗り込んだ機兵を、迎撃する機兵はないはずです」


 敵の機竜の、その司令塔が傾き出した。司令塔を支える支柱の一本がへし折れたのだ。ジークフリードは続けて次の支柱を殴打し始めた。


「あと数回の打撃で、敵の司令塔は崩れ落ちるでしょう」


 ついに司令塔が崩れ落ちる。これで、敵は機竜を動かす術はなくなった。


「敵の機竜に白兵戦を仕掛けます。兵士であれ、女子供であれ、全て殺して下さい。イルドラ王の周囲にいた者は、1人残らず消去します」


 地上で戦っていたジークフリードとペルセウスの戦いも決着がつく。

 1機のペルセウスは、右脇腹から稲妻のような光を発した。もう1機は喉元が発光した。機兵の骨組みとなっている巨人の骸が砕けた時の閃光だ。

 2機のペルセウスは、機操士きそうしの乗る胸部が剣で貫かれた。



 妾は、戦をしている機竜の操舵室にいる。

 射流鹿の正妃となる妾には、ここで射流鹿を見守ることも役目の一つになった。



 戦場で指揮をとる射流鹿の背中を見ながら、妾は彼を思い出していた。


『結婚して下さい』


『うん。あなたが大人になったらね』


 そう……妾が約束したんだっけ。

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