第27話 決着

 イルドラ王の渾身の斬撃は、射流鹿に当たらず地面を打った。地面を叩いた反動で両手が痺れたらしく、イルドラ王の顔が歪んだ。

 射流鹿の右手が、イルドラ王の握る剣の張り出したガードにかかる。ガードを軽く捻ると、剣のグリップを握るイルドラ王の手はあっさりと離れてしまう。


「ほら、簡単に奪えました」


 射流鹿は、イルドラ王から奪った剣を持ち上げて見せた。今度は、イルドラ王が唇が噛む。そして、射流鹿の顔からも笑みが消える。

 奪った剣を、射流鹿はイルドラ王の前に投げ捨てた。


「納得できないのならば、もう一度試してみますか?」


 射流鹿から感情そのものが消える。冷たい、無機質な威圧感……先ほどまで揶揄からかいの笑いを向けていたイルドラ兵が、一言も発せられなくなっていた。


「……」


 イルドラ王は、射流鹿が投げ捨てた剣を拾うために腰を屈めた。わたしには、そう見えたのだが……。

 イルドラ王の右手から、機兵や機竜が使う光矢ひかりのやが射流鹿に向かって放たれた。



 破壊された機兵の、砕けたを石弓に組み込むことで、機兵や機竜には及ばないが光矢を放つ武具が作られている。だが、イルドラ王が使ったのは、ずっと小さく右手で握れるように作られたものだ。

 大人が両手で支える大きさの石弓に比べて、右手に収まるような小さなものは威力は小さいはずだが、この至近距離では!



 イルドラ王の顔には、勝利を確信した歓喜が浮かんでいた。しかし、それも直ぐに絶望に変わる。イルドラ王の右手の武具から放たれた3条の光矢は、射流鹿の身体に届く前に光の塵となって消える。

 射流鹿の鎧には「骸の欠片」が編み込まれている。骸の魔力で生み出される光矢は、同じ骸の魔力には通じない。射流鹿の鎧が、イルドラ王の光矢を消滅させた。


「剣による決闘だったはずです。神聖なる決闘で……イルドラの王は、暗器を用いる卑劣漢ですか?」


 イルドラ王は沈黙する。いや、声を出せなくなっていた。


「終わりにします」


 射流鹿の右の拳が、イルドラ王の腹部を突く。軽装とは言え鎧を纏っているはずなのに、イルドラ王の身体が激しく痙攣して倒れ込む。腹部を覆っていたはずの金属板は、止め紐が千切れてバラバラに飛び散っていた。



 白目を剥いて地面に倒れているイルドラ王、それを立って見下ろしている射流鹿。決闘の勝敗は、明らかな結果を示して決した。


「イルドラの兵に命じます。武器を捨てなさい」


 射流鹿の命令は、静寂する中庭に響いた。ガラガラ……と、イルドラ兵が剣や弓を地面に置く音が中庭に溢れた。

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