第26話 辱め

 中庭の中央に決闘の場が設けられた。東西に分かれた軍兵の先頭に出て、射流鹿とイルドラ王は対峙する。

 射流鹿の背丈は「並よりも少し大きい」程度だが、イルドラ王は確実に大男の部類だ。射流鹿よりも、頭一つ分は大きい。射流鹿が重い鎧を纏っているのに対して、イルドラ王は動きやすい軽い鎧を装備した。 


「イルドラは機兵は出してねえんだ。そっちも機兵は退かせろ!」


 イルドラ王は、中庭を威嚇するラインゴルトのジークフリード2機が気に入らないようだ。


「そちらも、あるだけの機兵を出して構いませんよ」


「……!」


 イルドラ王は口籠くちごもる。既に王城の機兵は、全て潰されてしまった。そして、それを見透かさているのだ。



 ラドルグ卿が、決闘の条件を確認しようとしたのを射流鹿は拒否した。


「果たすつもりのない約束を確認しても意味はありません。兵と民に、イルドラの王を見限らせるだけです」


「こぉの野郎ー!」


 イルドラ王は、いきなり剣を抜いて射流鹿に斬り掛かる。後ろに跳んでイルドラ王の剣を躱した射流鹿が剣を抜く。そして、宣言した。


「決闘を始めます」


 感情的になったせいか。もともとなのか……イルドラ王の剣はやたらと大振りだ。怪力に自信があるのかも知れないが、だけのこと。あれなら4年前の射流鹿でも負けはしない。


「ようよう。羅睺羅の皇子さま!」


 イルドラ兵の中から、揶揄からかう声が飛んだ。そして、妾の両脇に立つ兵士が、着物の裾を持ち上げた。

 わたしの裸身が衆目に晒される。イルドラ兵の野次と歓声が飛び、射流鹿の動きが一瞬止まる。そこにイルドラ王の剣が振り下ろされた。

 かろうじて受けた剣が、射流鹿の手を離れて飛ばしてしまう。

 イルドラ兵から下卑た笑いが沸き起こる。


「ありゃあ、童貞だな」


「子供には刺激が強すぎだぞ」


 イルドラ兵の野次が飛ぶ中、射流鹿が唇を噛んだ。その、射流鹿の顔色を見たイルドラ王は勝ち誇る。


「へっへっへっ、オレは優しい男なんでな。素直に負けを認めるなら命までは取らねえぜ」


 射流鹿はゆっくりと身体を、イルドラ王へ向けた。そして、穏やかに笑ってみせた。


「遠慮なく打ち込んで構いませんよ。得物が必要なら、貴男の剣を貰います」


「てめぇ……」


 敢えて、素手のままイルドラ王の方へ歩き出す射流鹿。


「取れるもんなら、取ってみやがれ!」


 両手で剣を握り直すと、イルドラ王は、射流鹿の左肩をめがけて剣を振り下ろした。

 射流鹿の左手が、腰から剣の鞘を握って上に伸ばされる。振り下ろされた剣は、ななめに構えた鞘で刃の軌道を逸らされる。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る