第25話 決闘

 北の門を破壊して中庭に侵入して来たラインゴルト騎士団のジークフリードは、機兵用の巨大なハンマーを手にしていた。そのハンマーで、王城の壁を叩き始めた。


「この女がどうなってもいいのか!」


 更に大声をあげるイルドラ王を無視するかのように、ジークフリードは王城を破壊する。

 東の門を出た第4戦団のジークフリードは、ハーレルの城下街を蹂躙し始めた。光矢ひかりのやを放ちながら、民家を踏み潰してゆく。機兵の歩く先で、火の手が上がっている。


「おのれぇぇぇ!」


 イルドラ王が、わたしの脳天に向けて剣を振り上げる。これまでか……と思ったが、その右腕をラドルグ卿が止めた。


「お……お待ち下さい、王よ。日嗣皇子は、ハーレルの街を破壊するつもりです。茉莉花殿に何かあれば、交渉の糸口が失われてしまいます」


「くそ!」


 ラドルグ卿の言に、イルドラ王は顔を歪めながら剣を下ろした。


「卑劣な奴だ。街の住民を人質に取るか!」


 城下街の端の方からも火の手が上がった。ハーメルン騎士団の機兵が、防壁を壊してハーレルの街に侵入したようだ。


 ラドルグ卿は、イルドラ王の耳元で何かを囁いた。イルドラ王は、少し驚いた様子だったが、直ぐにそれに同意した。


「決闘を申し入れる!」


 イルドラ王は、決闘を宣言する。少し遅れて王城から火薬玉が打ち上げられた。



 火薬玉の色は赤。これは、決闘を申し入れる合図だ。東門の機竜からも承諾を示す青の火薬玉が上がった。

 ラドルグ卿がただ一人で、機竜に出向いて決闘の条件をまとめた。

 射流鹿が決闘を受ける条件は「許嫁の無事を確認する」こと。その上でなら、射流鹿とイルドラ王の剣による一対一の決闘に応じる。

 射流鹿が勝てば、イルドラは降伏し全ての要求を受け入れる。イルドラ王が勝てば、射流鹿は軍を退き和平の条約に調印する。



 王城の中庭には、火が焚かれて明かりが灯された。中庭の東側には羅睺羅の兵が、西側にはイルドラの兵が並んだ。そして、イルドラ兵の前にはラインゴルトの機兵が立って威嚇している。

 妾はイルドラ兵の列の中を通って中庭中央付近に引き出された。イルドラ王に乱暴された姿のまま……切り裂かれた帯はないので歩くだけで着物の前がはだけてしまう。手枷を付けられているので、手で押さえることもできない。

 乱暴された、妾の姿を兵たちの衆目に晒すことで射流鹿の心を乱す策のつもりらしい。



 白絲威の鎧に身をつつんだ射流鹿が、羅睺羅の兵の前に歩み出た。妾を見た射流鹿の双眸が険しい。さすがに妾も、射流鹿にこの姿を見られるのは堪える。

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