第23話 地獄の喜劇

 王城の機兵庫が開いて、緑の機兵が中庭に現れた。イルドラ国が、ペルセウスと呼ぶ機兵である。その名前の神話で活躍する英雄から取られたものだ。

 王城の壁を殴っていたジークフリードは、現れたペルセウスに向き直り、腰の剣を抜いた。ペルセウスも剣と盾を構えて、ジークフリードに向かう。


「ふん。これで羅睺羅の機兵を叩きのめしてやる」


 イルドラ王は、中庭を見下ろしながらニタリと笑う。そして下卑た視線をわたしの方へ向けた。


「ラドルグめが口煩くちうるさく言うので、日嗣皇子でも生かして帰してやろうと思ったのだ。折角の情けを不意にするとは愚かな奴だ」


「妾のことは、帰さないつもりだったのかしら?」


「ふふん」


 イルドラ王が妾の身体を舐めるように見る。


「皇妃と日嗣皇子のお気に入りの女が手に入ったのに、むざむざ殺さぬ。オレのところでずっと可愛がってやる」


 下衆に笑いながら、ナイフを取り出した。その刃で、妾の着る振袖の帯を切り裂く。逃げようとした妾は、髪を掴まれて床に転がされてしまう。


「羅睺羅の日嗣皇子の許嫁を奪ってやっとなれば、イルドラの民は大喜びだろうよ」


 東の城壁で騒いでいた街の住人を思い出した。王が下衆なら民も下衆だ。

 大柄なイルドラ王に伸し掛かられて動けなくなる。頭の軽そうだが、身体は重い。


「2年前に日嗣皇子の暗殺が上手くいっていれば、羅睺羅の半分はイルドラのものだったのにな。の臆病者がドジを踏まければ、今頃……」


 ……クロダ?

 羅睺羅西域の地方領地を任された黒田くろだ伯のことか?


「なかなかイイ肉体からだじゃねえか。生っ白い日嗣皇子には勿体ねえ、やっぱりオレが貰うのが正解ってもんだ」


 ナイフで帯を切り裂かれて、振袖の前をはだけられて露わになった妾の身体を見下ろすイルドラ王。いっそ、舌を噛み切ろうかと思ったが「黒田伯とイルドラ王の関係」を聞いた以上、死ねなくなってしまった。

 生きて……この情報を羅睺羅へ伝えなくてはならない。

 暴れるのを止めた妾を、観念したと思ったイルドラ王はベルトを外してズボンを脱ぐ。

 そして、改めて妾の上に覆い被さってきた。



 地獄で観る喜劇とは、きっとこんな感じなのだろう。

 涙も流れているが、それより吐き気の方が辛い。生きたまま肉が腐ってゆくような、あるいは内臓が裏返されるような不快感。

 機兵の戦いで床が揺れているのか、自身の身体を揺すられているのかもわからない。



 早く終わって欲しい……それしか考えられなかった。

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