第21話 イルドラの本音
茶番劇は直ぐに終わった。部屋の扉に、イルドラ国宰相のラドルグ卿が現れたのだ。ラドルグ卿の姿を認めた
ラドルグ卿は、床に転がる
3人の近侍は、ラドルグ卿についてきた衛兵に武器を取り上げられて部屋から連れ出される。ラドルグ卿は、兼友議員にも他の部屋で待つように言うと、衛兵も部屋から出て行かせた。
おそらく、3人の近侍たちはそのまま処刑される。兼友議員も、違う場所へ連れ出されて無理矢理自殺させられるだろう。
ラドルグ卿は、窓から見える白い機兵に視線を移すと、ため息をついた。
「まさか……日嗣皇子が、このような方とは思いませんでした」
普段は優しげな笑顔を絶やさないよう務めて折るはずの、イルドラ国宰相の顔には明らかな失望が浮かんでいる。
「貴女は、羅睺羅の
「その言葉から察すると、イルドラ国が拉致したかったのは日嗣皇子ではなく、妾だった……と言うことかしら?」
なるほど、妾を拉致すれば「太后様と射流鹿の両方に対して人質にできる」と考えていたわけか。ラドルグ卿はチラリと妾を見たが、直ぐに視線を外した。
「我がイルドラは、決して羅睺羅との戦争を望んでいません。確かに、過去には羅睺羅国内の不穏分子に手を貸した者もいました。しかし、それはあくまで一部の過激派であり、大多数のイルドラ国民は、羅睺羅との未来指向で平和的な関係を望んでいるのです」
「ハーレルの街の住民たちからは熱烈な歓迎を受けたわね。『人殺し』とか『残酷帝の息子』とか。未来指向の平和的とか言うけど、先に仕掛けてくるのはいつもイルドラの方ではなくって?」
「我々は過去の過ちを認めます。だからこそ、条約に『巨人の骸採掘場の返還』と『容疑者の引き渡し』に応じる条文を明示したのです」
「言葉や文言なんて周りくどい真似をせずに、実行なさったら?」
「羅睺羅の帝が民を守るように、イルドラの王も民を守る義務があります。イルドラは罪を認めることで、羅睺羅の面子を立てる。代わりに羅睺羅も、イルドラ王の義務を理解して頂きたいのです」
それが本音か。
条約は交わすが、約束は果たさない。平和の保障だけを手に入れる。
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