第20話 そして日没

 3人の近侍たちは、互いに顔を見合わせる。改めて、このまま主人に従ったらどうなるかを考え始めたようだ。

 自分たちは主人とイルドラに向かえられても、何も知らない家族は羅睺羅国に残される。「何も知らない」が、通用するだろうか?

 太后おおきさき様を知る者なら、通用しないのは直ぐに察するはずだ。帝も卑劣な手段を用いる者には、容赦なく剣を振り下ろす。

 そして……射流鹿は、その二人の血を継いでいる。



 摩理勢まりせ議員が、近侍から剣を奪い取ってわたしへ近づいて来た。


「もういい、俺がやる。お前たちは、この女を抑えていろ!」


 妾の腕を掴むとテーブルの方へ引っ張る。テーブルの上に妾の左手を乗せて、その側に剣を添えた。しかし、摩理勢議員の言葉に従って、妾を抑える者はいない。それが更に彼を苛立たせるようだった。


「一本と言わず、2・3本を届けてやる!」


 摩理勢議員が、剣を握り直して刃を妾の左手に当てた。刃の冷たい感触が小指に伝わる。


「泣き喚くかと思ったら、睨み返してくるか。ふん、あの太后の側仕えをしているだけはあるな」


 厭らしく歪む摩理勢議員の顔。小指が熱くなり、刃が指に食い込むのがわかった。


「やめろぉぉー!」


 摩理勢議員の背中から剣が突き立てれて右胸から刃の切っ先が突き出ていた。剣を刺したのは、康平こうへい議員の近侍だった。

 摩理勢議員は即死だろう。その身体が、糸の切れた傀儡くぐつのように床に倒れ込む。

 彼を殺した康平議員の近侍は、妾の前に跪いて頭が床に擦れそうなほど、深く頭を下げていた。


「お願いです。妻と娘を……妻と娘だけは助かるよう、日嗣皇子ひつぎのみこにお取りなし下さい。お願いし……す……」


 泣いているようだった。終わりの方は涙声でよく聞き取れない。この男は、機竜での射流鹿を見てきたのだろう。

 ドーン!

 爆音と共に床が大きく揺れた。遠くの方からガラガラと瓦礫の崩れる音がする。

 地平から陽の光が漏れてはいるが、闇が舞い降りた空には星が瞬いている。

 射流鹿の指定した日没の時刻だ。



 窓から中庭を見ると、白い機兵が王城を囲む城壁を壊していた。ジークフリード……神話の英雄の名を冠した、羅睺羅国の機兵である。

 瞬く間に、東の城壁は打ち壊されてしまう。

 東の機兵庫には、10機の機兵が待機していると言われていたがジークフリードを迎撃するイルドラの機兵は出て来ない。


「お願いします!」


 いきなり跪いたのは兼友かねとも議員だった。


「お願いします。どうか、お取りなし下さい」


 馬鹿馬鹿しい。摩理勢議員の次に殺されるのが、自分かと思ってのポーズだろう。

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